56 抜け道を探す
アリシアと生徒会室を目指していると、研究棟から第二王子が出てきた。
あんなところで何をしていたんだ?
「殿下!」
アリシアが従者を連れて急ぐ第二王子に声をかけた。
第二王子は、アリシアの声に足を止めてこちらを待っている。
追いつくと訝しそうに俺を見た。
「アランです。アリスを一緒に探しています」
アリシアは、正直に俺のことを紹介した。
いろいろ突っ込まれたくなかったが、第二王子は制服を着ている俺には目をつぶってくれるようだった。
「何かわかった?」
アリシアは首を振る。
「誰とも連絡とっていないようです。アリスの魔力も近くに感じないそうで………。殿下、ご無礼を承知でお尋ねします。この学院に王族専用の抜け道はありますか?」
第二王子は一瞬目を見開いたが、気を取り直したように視線をわずかに生徒会室へと動かした。
「場所を変えよう。ついてきて」
俺たちは黙って後に続いた。
生徒会室には沢山の生徒が、学校祭の準備をしていたが、第二王子が人払いをしてくれた。
「ここに抜け道が?」
俺はざっと部屋の中を見回したが、期待できそうになかった。
両隣を部屋に囲まれ、窓と廊下に挟まれている。見た感じ隠し通路などのスペースはなさそうだ。
「残念だけど、私は知らないんだ、抜け道は皇太子となって初めて受け継がれる。兄さんもまだ正式な皇太子ではないが、私は長いこと留学していたから、多分知っていたと思う」
第二王子は国に残らずあちこち留学することにより、王位を継ぐ意志がないことを示してきたのだろう。
「研究棟には何を?」
あそこは大学みたいなもので、主に平民で優秀な人間が魔法に関しての研究を行っている。
「ああ、風の強さと、瘴気の量の分布を正確に知りたくてね。今日は夜から風が強くなりそうだから。城下のどこに結界を張るか検討していたんだ」
どうやら、王になるとは口だけではないようだ。
「それよりも気になることがある、昼にソルトを見かけたと言っただろう。朝から森の瘴気も増えているし、魔法省の密偵に聞いたところ、あちこちの魔法支部でソルトの息のかかった人間が、教会に浄化魔法の使える人間のリストを渡すよう圧力をかけているらしい」
どこの国でも、教会は絶対の権力を誇示したがる。魔術師といい関係を築いている国もあれば、あから様に敵対している国もある。
イスラは魔法省の力が強く、いい関係とは言えない。
「本来ならこれだけ瘴気が濃くなったとなれば、ソルトのような王宮魔術師は一番に瘴気の確認をしなければならないのに、教会を牽制したり、第一王子とこそこそしているとは………こんな時のために浄化できるものを育てるのように、王名を出してもらっていたのに」
はあ―――――。と第二王子は深くため息を吐いた。
この時期に第一王子に会いに来るとは、だれの指示かは明白だ。
俺は、瘴気を発生させたのが誰か黙っているつもりだったが、どうやらそうも言っていられないようだ。
「殿下、そのことについてですが、瘴気を発生させたのは魔術師ソルト本人です。他国の情勢について口出しするつもりはありませんでしたが、今朝偶然、魔の森で魔術師ソルトが古いダンジョンを爆破して回っていました」
「そんな馬鹿なことが………」
驚きで、言葉を詰まらせる第二王子に向かい、さらに追い打ちをかける。
「どうやら、ダンジョンは地下で魔界につながっていて、魔界には瘴気が噴出しているそうです」
「馬鹿な、それを知っていてソルトは瘴気を発生させていたのなら、全面戦争になってもおかしくない」
いくら第一王子派と言え、そこまでするとは思っていないようだった。
「なぜ、そんな危険なことをソルトがするのか、理由が全く分からない。今現在、勇者もいなければ、不確かな聖女だけ、兄に勝算があるとは思えない。勝算があるとすれば、アリスの存在だが………」
第二王子の顔がかすかに青ざめ、押し黙り何かを考えている。
「もしかして、兄もガラスの薔薇を探していたのかも。なぜ存在を知ったかわからないが、城の中には王妃以外、王家に伝わる言い伝えを誰も知らないとは言い切れない」
秘密と言っても王家ともなれば、たくさんの使用人や影がいる。
「魔王がガラスの薔薇を手に入れたことを知り、瘴気を魔界に送り込んで、浄化することを取引材料にして魔王から薔薇を手に入れるつもりなのかもしれない」
確かに、第一王子も薔薇を探していたのなら、魔界に瘴気を送る理由になるかもしれない。
「それなら、すでに魔界を浄化した実績のあるアリスを誘拐したのもうなずける」
「そうだとすると問題が、まず、何故魔王が薔薇を持っているか知ったか、アリスが浄化魔法を使えるのをどうして知ったか? どちらも、数人しか知りえない事実だ」
俺は、第二王子と従者を睨みつけた。
「彼ではないよ」
第二王子が従者を見て、はっきりと断言した。
俺も、第二王子側がもらしているとは思っていなかったが、これから確認する相手に隙を突かれるわけにはいかない。
「そうか、では魔王側に裏切り者がいるという事だな」
それが一番確率が高いだろう。
「まさか、兄が魔族と手を組んでいると?」
そこまで馬鹿ではないと信じたいのか、それとも王族から裏切り者を出したくないのか、たぶん後者だろうが、第二王子は眉間のしわをよりいそっう深めた。
「ガラスの薔薇の力は魔王を倒し、この国の王になることができると思いますか?」
俺の質問に、一瞬考えたようだったが、はっきりとした口調で「いや」と否定した。
「魔王を倒すことはできたとしても、王にはなれない。次の王になるのは私だ」
まっすぐな青く澄んだ瞳を見て、まあ、かろうじて合格点の答えだなと思う。




