53 アリスまた行方不明になる
「アラン今どこ!」
突然、ライトの声が通話石から聞こえた。
「いきなり大声でしゃべるなと、何度言ったらわかるんだ?」
切羽詰まった声ではないので、緊急事態ではなさそうだ。
「緊急じゃないときは、まず、光で知らせろと言っているだろう」
いつもは、通話が入ると先に光るようになっているのだが、今は何かあった時のために、すぐに通話可能の状態になっている。
「緊急事態だよ、リリィ様が魔力切れを起こして、帰れないんだ」
なるほど、それで通話石を使ったのか。いつもなら、用事の時は無駄に転移してくるのに、リリィ様のそばを離れないように気を使ったのか。まるきり考え無しというわけじゃなくなったな。
「魔力切れか、状態はどうだ? すぐ魔力石を持って行った方が良いか?」
アリスなら、魔力切れなど起こすことはないが、まだライトやアリシアの場合は、魔力切れの可能性があるので、純度の高い魔力石を持って来ていた。
「いや、魔王が魔力石をくれたから大丈夫、でも、転移に耐えられるまでに回復するには1週間くらいかかるって。ただ………」
言いずらそうに、ライトはそこで言葉を切る。
「ただ、なんだ?」
「うん、第二王子が手に入れた薔薇からできた宝石があればすぐに魔力が回復するらしいよ」
アレキサンドライトか………。
「いや、第二王子がさすがに魔界に行くのは無理だな。あとで、迎えに行かせる。ライトはできるだけ、リリィ様のそばを離れるなよ」
「うん、わかってる。それと、魔王から花びらをもらったんだ」
ライトは嬉しそうに言った。
「花びら?」
「うん、ガラスのバラの花びらだよ、宝石には変わらなかったけど、食べると寿命が延びるんだって」
それは、魔王に気に入られたってことか?
全くどいつもこいつも節操がないな。
チィっと知らず知らず舌打ちをする。
「それで、肝心の浄化はどうなったんだ?」
「それは、もうばっちりだったよ。あんな凄い瘴気を浄化するの初めて見たよ。もう、すっごい光があふれて瘴気を消したんだ」
そうか、それはこれからも戦力になるな。
ライトに花びらをくれるくらいだ。相当の量の瘴気だったのだろう。
タイミングから見ても、ダンジョンと魔界はどこかでつながっているな。
「魔の森の瘴気も消せそうか?」
「う~ん、どうだろう。確かに街の瘴気を消したのはすごかったけど、城から見る限り魔の森の瘴気は何倍もありそう」
そうか、リリィ様だけでは無理そうか。
でも、聖女の力が必要な分、第二王子もアレクサンドライトの力を貸してくれるだろう。
そう思った時、手のひらの上の通話石が光った。
「ライト、誰かから連絡来たから切るぞ。くれぐれもリリィ様から離れるな」
「わかった」
とライトの声とともに切れた通信と同時にアリシアの怒鳴り声が響く。
「アラン今どこ?」
こちらは本当に緊急事態みたいだ。
「どうした?」
「アリスがいなくなったわ。すぐ居場所を見つけて」
「また、どこかへ転移しているのでは? 思ったより瘴気の量が多いからな」
この前も、結局魔王に自分からついて行ったくらいなのだ。
それに、学院にはあれから、あちこちに影を忍ばせている。そんなに簡単に誘拐されたりはしない。
「そうかもしれないけど、クラス練習に来なかったの。あんなに頑張っていたんだもの、それより優先する用事なら、一言私にあるはずだし。第二王子が、ソルトを見かけたって言うの」
実行委員の話は聞いている。確かに、よほどのことがない限り一言もなくどこかへ転移などしないだろう。
「それに、なんだか嫌な予感がするのよ。私の勘は外れないわ」
勘なんて、まったくあてにならないが、アリシアの魔力量からするに、予知みたいなものが全くないとは言えない。
現にアリシアの勘はよく当たる。
「わかった。影に確認して俺も学院に行くから」
じゃ、頼んだわよ。と通信を終わらせようとするアリシアに、一瞬考えて引き留める。
「アリシア、第二王子はアリスの居所に心当たりがありそうだったか?」
「いいえ、アリスの居場所はわからないみたいだったけど、わかったら知らせてくれると思うわ」
「そうか、じゃあ、第二王子に学院の中に王族だけが使える抜け道がないか聞いておいてくれ」
王族の通う学校なら、有事の時のためにどこかへつながる抜け道があるはずだ。
アリシアも俺の意図が分かったようで,「すぐ聞くわ」と言って通信を切った。
俺は立ち上がり、目を閉じて意識をアリスに集中する。
アリスの魔力であれば、多少離れていても感じることが可能だ。
静かに呼吸しながら意識を研ぎ澄ます。
「近くにはいないようだな」
どこかで転移したか。魔力を封じられたか。生命の危機にあるか
クローゼットから、学院の制服を出し袖を通す。
さらに自分自身に隠蔽魔法をかけ、学院に転移する。
「アリシア!」
背後から声をかけると、振り返ったアリシアは呆れたように俺を見た。
「何その恰好、いつの間に用意していたの?」
言いたいことはわかっているが、冷たい視線を無視した。
「アリスはいたか?」
「いないわ。第一王子は、城に帰ったそうだし。第二王子もいない」
「そうか、隠し通路があるとなると、一番は王子専用の執務室あたりか、生徒会室だ。案内してくれ」
「今は、どちらも人が沢山いるわ」
「何とかするしかないだろ」
アリシアはそれ以上何も言わず、生徒会室へと案内してくれた。




