52 裏切り者 4 ダグニア卿
魔界で瘴気が発生したと報告を受け、ひとまず計画通りダンジョンから瘴気が噴き出たのかと安堵した。
瘴気が魔界まで到達するのにはタイムラグがあり、吹き出す正確な時間がなかなか読めなかったのだ。
今日の瘴気は、ソルトに複数のダンジョンをいっぺんに爆破させた。量もこれまでと比べ物にならないくらい多いはず。
今頃魔王はアリス嬢に瘴気を消してもらおうと探している頃だ。
本当に部屋にルビーがあるか、確かめさせている影からの報告はまだだが、アリス嬢の所に表れていないところを見ると、言葉通り部屋に置いて来ていたのだろう。
アリス嬢を閉じ込めている円塔から、反対側の古城の見晴らし台までくると、俺は飛竜を呼んだ。
魔王の目を避けて城に戻るには少々目立つが、魔の森も今頃瘴気であふれ混乱にまぎれれば大丈夫だろう。
城に着くと、思いのほか騒ぎになっていない、出払ってしまったともいえるが、近衛の数も多くないしメイドも普段と変わらず作業している。
「瘴気が発生したと聞いたんだが、魔王様はまだ戻られていないのか?」
文官を捕まえて聞くと、なんともうすでに大半の瘴気は消え、後処理に城の者の多くが出払っているという事だった。
「魔王様は一度戻られたようですが、瘴気が残っていないか城下に視察に行かれました」
そんな馬鹿な、思ったより瘴気が噴出しなかったのだろうか?
魔界に噴き出す前に、穴をふさいでしまえば封じ込めも可能かもしれないが、あれだけの瘴気だ、一度噴き出したら並みの魔族では抑えることは難しいだろう。
「魔王様が瘴気を転移させたのか?」
「さあ、詳しくは混乱していましたから。一時は城の者にも避難命令が出ていたので」
本当にあれ程の量を転移させたというのか?
信じられないが、この落ち着いた城の様子を見る限り、魔王様が瘴気の転移に成功したのだろう。
こうしてはいられない。
森は瘴気に覆われていたから、魔獣達はかなり被害が出たはず。
その瘴気が人間界に大量に流れ込めば、人間界だけでなく魔界も今まで通りとはいかなくなる。
魔界は変わる。いや、魔王は変わる。
今のうちにガラスの薔薇を回収しなくては。足早に庭に行くと、シールドどころか結界さえ張られていなかった。
「なんて無防備なんだ?」
手早く薔薇全体に固いシールドを張り、そっと持ち上げて異空間ポケットに入れた。
さすがに薔薇を直接手では触れない。第一王子によれば、認められたもの以外が触ればどんなことが起こるかわからないらしい。
まあ、薔薇自体に呪いくらいはかかっていてもおかしく無いな。
それから、幻想魔法で薔薇を作り出した。
魔王にはすぐにばれるだろうが、他の者にはさっきと変わらず、ガラスの薔薇がここにあるように映る。
「よし」
これでしばらくは時間が稼げるだろう。
「ダグニア卿」
振り返ると、よく知った近衛だった。
「また瘴気が発生したんだって?」
「はい、西の市場です。今回は少々大規模でして、かなり被害が出ております。そちらは穴をふさぐのは完了したのですが、その他城下で複数の小さな亀裂から、瘴気が噴出しており、浄化できるエルフや獣族が総出で処理しております」
「そうか、それは大変だったね。じゃあ、浄化が終われば魔力を補充する必要がありますね、できるだけ魔力石を集めておくよう言っておきます」
どうやら瘴気はまだ噴出しきっていないで地下にたまったままのようだな。
まあ、かなりの量は魔王が森に転移しているだろうから問題ないだろう。
「それが、城中の魔力石は人間の娘の魔力回復に使っておりますので、今はあちこちから取り寄せております」
「人間の娘? って、この前の瘴気発生の時に来たアリス嬢か?」
そんな馬鹿な、魔王に居所がわかるはずがないのに、ルビーをこっそり隠していたのか?
「いえ、別の人間です。どうやら聖女候補らしいのですが、魔力量が以前の方よりかなり少なかったらしく。魔力切れで客間で休んでおります」
聖女候補?
ああ、以前に第一王子が魔力が使えなくて役に立たない聖女がいるって言ってたな。
それでも少しは浄化魔法が使えたのか。
念のため、様子を見てから行くか。
「そのお方はどちらに?」
近衛は中庭に面した窓を指さした。
部屋には人間にしては整った顔をした少女が横たわっていた。ベットの周りには、城下では手に入らないような大きな魔力石が置かれている。
これが聖女候補か。確かに魔力はほとんど感じられないな。
念のため魔力の補充は断っておくか。
少女の横に置かれている。魔石に手を伸ばして触れると、魔力を吸収する
魔力石の魔力は側に置いても吸収することはできるが、手で触れて直接吸収するのが一番なのだ。
これで少女が回復するには何日もかかるだろう。
「よし、急ぐか」
踵を返すとそこには、少年が立っていた。
「誰だお前?」
黒髪に黒い瞳の少年は、どこかアリス嬢に似ているなと思った。
「私は魔王の側近です。魔力切れを起こしたと聞き、様子を見に参りました」
「そうですか。ありがとうございます。僕は彼女の護衛です」
ほっとしたように、症状を緩めた少年を観察する。
魔力量はうまく隠しているのか。護衛と名乗る割には隙だらけだ。しかも、名前も聞かずに信用しているようだ。
「では、まだ回復には時間がかかるようですね。ゆっくり休ませてあげてください」
俺は部屋から出ると、飛竜の所に急いで戻った。これ以上城にいるのは危険だ。
飛竜の背から魔の森を見渡すと、黒々と渦を巻く瘴気が覆っていた。
やはり量的に少ないような気がするが、城から遠いところに転送したのだろう
もう少しであの覇気のない魔王を本気にさせることができる。
そう思うと知らず知らず笑いがこみ上げてきた。
お待たせしました❗
お休みいただいて元気補充してきました。
完結まで全力で浮きます。
これからも応援お願いします。




