50 裏切り者 3
モブって言った。
やっぱり第一王子は転生者なんだ。
ん?
もう一つ何か引っかかることを言ったよね。
魔王の花嫁?
誰が?
魔王の花嫁は聖女だよね………?
「間違いありません殿下。魔王様は彼女に何度も結婚しようと言ったそうで、近衛も他の側近も聞いていたとのことです。そのうえで、妃が身に着けるルビーを渡したのです」
えっ?
何度も結婚しようなんて言われてませんが……あのルビーは通信用だし。そもそも結婚しようと言ったのも、瘴気を浄化する人間が欲しかっただけだし。
本気で言ってすらいないんじゃない。
私は大声で否定したいのをぐっとこらえて、何も反応しないように平静を保った。
間違いなく、このエルフは魔王の敵のようだ。別に魔王の味方というわけじゃないけれど、第一王子の味方は私の敵だ。
「ふん、物好きだな」
こいつちょくちょく無礼だな。
「まあいい、おとりとして使えるならどんなんでも」
どんなんでもって………。
「おとり?」
黙っているつもりだったのに、思わず声に出てしまった。
「ああ、レオンには不幸な事故にあってもらう。犯人は魔王だ。お前はエサだな」
高笑いして、第一王子は部屋を後にした。
どうやら、第一王子は私を返す気はないらしい。
「さあ、来い」
ソルトが私を引っ張っていく。
「ちょっとまって、どうして! どうしてあなたは第一王子に従っているの?」
私は振り返り、エルフに聞いた。
「別に従っているわけじゃないですよ。利害が一致しているだけです」
悪びれもせず、ちょっと鬱陶しそうにエルフは答えた。
「もしかして、魔界の瘴気もあなたの仕業?」
「そうですよ」
エルフは、慣れた手付きで、お茶を3つ淹れてテーブルに座った。整った顔は青年のようで、実際の年齢が幾つなのかわからないが、やさしそうに見える目元からは、悪役であることは想像できない。
「どうぞ」
私とソルトに座るよう促すが、ソルトは面倒くさそうに私の腕を放すと、扉の前まで行きそこに立った。
私は遠慮なくテーブルに座ると、ゆっくりとお茶を口にする。
「何のために瘴気を発生させる必要があるの? あなたも魔王の側近でしょ」
「確かに、私は側近ですが別に魔王様に忠誠を誓っているわけではありません。もともと魔界は種族ごとに住み分けができていました。エルフはエルフ、魔族は魔族、獣族は獣族といった具合にね、それを統括していたのが魔王だったというだけです」
へー、そうなんだ。だからってこんなにはっきり忠誠を誓ってないなんて言っていいの?
私の言いたいことが伝わったのか、エルフは悪びれもせず、にっこりと微笑んだ。
「私が忠誠を誓うのは、エルフの王だけです」
まあ、考えればそうか。
「千年の昔は、種族が違っていても人間と共存できた時代もありましたが、時とともに人間とは一線を引き暮らすようになりました。人間とは距離をおいて暮らす方がお互いのためとわかったのです。けれど人間は忘れる生き物なのですね。今では魔の森にまで侵略するようになってきた。あちこちでエルフの住む森は切り開かれ、数を減らしていきました」
エルフの瞳には怒りがにじんでいるようだった。
「でも、おかしいと思いませんか?
なぜ野蛮な人間が我が物顔で地上を支配していて我々がひっそり暮らす必要があるのでしょう?」
「だからって、なぜ魔界にまで瘴気を発生させる必要があるの? しかも、あなたがバカにしている人間と手を組むなんて」
私は入り口に立つソルトを見たが、これと言って気にする様子はなかった。
「目障りだからですよ。やる気がないくせに、なまじ力が強いので、誰も逆らいません。ですが、それもこれだけ瘴気が発生し、対処できないとなれば失脚を望む声も大きくなるでしょう。それに増えすぎた魔獣を一層できれば、森も住みやすくなります」
「そんなことで、瘴気を発生させたの? 下手したら死人がたくさん出たのよ」
「それくらいの犠牲は仕方ないですね」
なんて奴だ。
「私がおとりで、レオン様が事故にあうってどういうこと?」
これだけは聞いておかなきゃ。
「ふっ、ちょっとお喋りしすぎましたね」
エルフは話は終わりとばかりにお茶を飲み干し、席を立とうとした。
ちぇ、言いたいことだけ言って、結局肝心なことは何も教える気はないのか。
「一つだけ教えてあげると、もともとこの計画はこんなに急いでいたわけじゃありません。魔王がガラスの薔薇を取り戻したのを知り、その後あなたが瘴気を浄化するのを見たとき、チャンスだと思ったのです」
「それはどういう意味? あの薔薇が何の関係があるの?」
「そのうちわかりますよ、それに、もうそろそろ瘴気が魔界に到達したころです。この日のために何度もソルトが発生させた瘴気がどのくらいの時間で魔界に吹き出すか試してきたんですから」
エルフは成功を確信しているのか、思いのほか上機嫌でしゃべってくれた。
「ルビーも持っていないし、魔力も封じられていてはアリス嬢の所にはいくら魔王でも来ることはできませんね」
憎らしく、口角を上げて笑うエルフは高潔と呼ばれるにはあまりにも俗っぽかった。
「さて、混乱しているうちに欲しいものを手に入れてきます。くれぐれも気を抜かないように監視していてください」
エルフはソルトに言うと、部屋から出ていった。
50話まで来ました。
40話からあっという間でした。
ここまで読んでくれてありがとう!




