49 裏切り者 2
目が覚めると、冷たい床の上だった。
殴られたみぞおちに、ズンっと鈍い痛みが残っている。
手足は縛られていない。
ゆっくりと体を起こし、部屋を見まわす。
目の前にはベッドが置かれているのに、どうやら私を連れきた奴はベッドまで運ぶ手間さえ惜しかったらしい。
私はドアを入ってすぐの場所に寝ていた。いや、投げ込まれたというべきか。
「普通、ベッドがあったらそこに寝かせない?」
平民だからか?
ムカつく!
私は第一王子の嫌味なくらい整った、お綺麗な顔を思い浮かべた。
「ここはどこ?」
キョロキョロと部屋を見まわすと、高い天井に鉄格子のついた小さな窓がある。
「まじか………」
どうやら、ここは円塔の最上階らしい。
入り口は直角の壁だが、反対側が弧を描いている。
念のためドアを開けてみるが、しっかりと鍵がかかっている。もう一つ入り口があり、そこはトイレと風呂だった。
なるほど、作りが豪華なのでたぶん貴族の監禁部屋といったところではないか。
何で急に、私をさらったんだろう?
「あっ、あいつか」
私は一人のエルフの顔を思い浮かべた。
随分愛想の良いエルフだと思っていたら、裏切り者だったとは。
そういえば名前は聞いてない。
考えながら、私はベッドに座り、腕にはめられたリングを見つめる。さっきから部屋を調べながら魔法が使えないかいろいろ試したが、まったくうんともすんとも言わない。
王家の秘宝とか言ってたけど、あながち嘘じゃないらしい。
正攻法では外せないなら、力ずくでいくしかないか。
それにしても、今何時だろう? おなかすいた。
お昼過ぎちゃったかな?
アリシアと仕事が一段落していたら昼食を一緒にとる約束をしていたのだ。
5時からはクラス練習もある。実行委員がいなければ練習できないわけではないけれど、無責任な人間だと思われるだろうな。
ララ様はあんなだし、1組大丈夫だろうか。
でも、レオン様がいるから何とかなるか。
最終練習をさぼれば、アリシアが私がいないことに気づくだろう。
そしたら、またアランに怒られる。
油断したのは事実だけど、ついてないなぁ。
2度も行方不明なんて、どれだけネチネチ言われるかわったもんじゃない。
アランになんて言い訳しようか考えていると、ノックが聞こえ同時に扉が開く。
ノックの意味なくない?
「気づきましたか? 殿下がおよびです」
ソルトが、冷たく言い放ち、私の腕のリングを確認しついて来るよう言う。
その態度、お前か私を投げ捨てたのは?
仮にも教師でしょ!
心の中で悪態をつくが、まずは素直にソルトの後をついて部屋を出る。やはり円塔のようで螺旋階段が続いていた。
「殿下、アリス嬢を連れてまいりました」
「ああ、すまないね。どうしてもルビーの所在を確認したいそうだよ。そんなに重要なルビーなの?」
第一王子はエルフを見て、ニコリと愛想笑いをした。
「あのルビーには居場所確認の魔法がかかっていて、どこにいても転移してこられるのです。今は持っていないようですが、所在は作戦までに確認しておかないと」
「それは厄介ですね。どこにあるんです?」
第一王子の言葉に、おもむろにソルトが短剣を抜き、私の首筋に当てる。
ひやりとした感触に、眉をしかめると馬鹿にしたように、短剣に力を込める。
「大事な人質です。傷つけないでください」
エルフがソルトをたしなめる。
「ルビーは部屋に置いてきたわ。さっきも言いましたが私は聖女でも勇者でもないです」
エルフがここにいる時点で、私が聖女並みに浄化魔法を使えることはバレているだろうけど、何のために教会には行かず監禁されているのかわからない。
魔の森を浄化させるためじゃないのかな?
「ダグニア卿、アリス嬢が瘴気を浄化するところを見たという事で間違いないですね」
第一王子がエルフに確認する。
「では、早急にそのルビーを探させて、今日の5時までには瘴気を最大限発生させておくように」
瘴気を発生させる?
何言ってんのこの王子?
瘴気を浄化するんじゃないの?
それじゃあまるで、瘴気を浄化するのじゃなく、第一王子が瘴気を発生させるみたいな言い方じゃない?
「リリィ嬢はいかがなさいますか? 大した力はないですが、最近少し浄化魔法を使えるようになってきました」
ソルトはリリィ様がわざと浄化魔法を使えないふりをしているのには、気づいていないようだった。
「平民一人いなくなっても、誰も気にしないが、一緒に貴族令嬢までいなくなってはレオンに警戒されかねない。計算通り大量の瘴気を発生させれば、たいした浄化魔法が使えないものなど、放っておいてもいいだろう」
この馬鹿王子、レオン様に何かするつもりなの?
リリィ様の話では、ゲームでは魔王討伐だったはずなのに、エルフが第一王子の仲間ってどういうこと?
そもそも、第二王子はこのゲームには登場しないはずなのに………。
私は、いまだ外せない腕のリングを見た。
正攻法では外せないようだったので、力ずくで外そうと思ったが、外せたとしてもどうやらこの砦では魔法事態使えないよう結界が張られているようだ。
どうにかこの砦から出ないと。
「それにしても、本当にこの平民が、魔王の花嫁なのか? いくら浄化魔法が使えても、モブとは意外だ」
第一王子の言葉に、私は確信した。
モブって言った。




