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45 リリィ様社員になる

「誰だお前? それは俺がアリスにやったものだ」

 不機嫌そうな声が聞こえて、ライトはちょっとビビっている。


「アリスは今学院です」

「お前がアリスの相談役か?」

「は? 相談役? えっと違います」

 おおかた、アリスが商売のことは相談して決めるとでも言っていたのだろう。

「じゃあ、なんだ」

「ただの社員です。今、上司に変わります」

 妙に取り次ぎなれてる対応に、アランは一瞬吹き出しそうだった。


 上司って、勇者に言われると思わなかった。


「商会の統括をしているアランと申します。アリスから話は聞いておりますが、本日はどのようなご用件でしょう?」

 瘴気のことだろうと想像できたが、アランは素知らぬふりで聞いた。


「また城下に瘴気が出た。アリスに浄化を頼みたい。今のところ、結界で押さえてはいるが、これ以上増えると押さえきれないかもしれない」


「魔の森に転送することは可能ですか?」


「いや、今日はムリだな、何故か魔物が浮き足立っていてそこら中にいる。瘴気を転送すれば皆飲み込まれてしまう。それは避けたい」

 たぶんソルトがダンジョンを爆破したために、潜んでいた魔物が出てきたのだろう。


「申し訳ないですが、アリスは今忙しく本日は伺えません。その代わりライトとリリィを向かわせます」


「なんだと」

 俺の返事が予想外だったのか、言葉に怒りがにじんでいる。


「ライトとリリィを向かわせますが、ご不満ならこの取引は無かったことに」

 ライトが後ろでおろおろしているのがわかる。


「はっ」

 魔宝石の向こうから、乾いた笑い声が聞こえる。


「お前、誰と話しているのかわかっているか?」

 尊大な物言いに思わず顔をしかめる。


「勿論、知っております。魔王様」



「そうか、わかった。その二人でいい。だが、仕事はできるんだろうな」

 その言葉には、ぜったいに失敗は許さないという威圧があった。


 ふん、そんな脅しには乗ってやらない。

「それは、わかりませんね。瘴気がどの程度かもわかりませんし、やってみないとなんとも……」

「お前、死にたいのか?」

「それは脅しですか?」

 俺は、大人気ないとわかっていても挑発を止められなかった。


 我ながら、アリス以外には強気で行ける。

 統括としては魔王を受け流し、冷静な対応が必要だが、どうも今回、感情的な自分が情けない。



「わかった、無理そうなら責任を持てよ、商売なんだから駄目だった場合、お前が来て何とかしろ」

 折れたのは魔王だった。

 言い争っている時間が惜しいのだろう。


「今すぐ出れるか? よければルビーの側に転移して迎えに行くが」

 どうやら、魔王自ら迎えに来てくれるらしい。


「ちょっと待ってくれ、今リリィを学院から呼んでくる。準備でき次第連絡する」

 魔王は、わかったと言って通信を切った。


「アラン! 魔王を挑発するの止めてよ。いくらアリスにちょっかいかけてくるからって、生きた心地しなかった」

 ライトは泣きそうな顔で、ぎゃあぎゃあ吠えている。


「アリスは関係ないが悪かった、今リリィ様を呼んでくるから」



 リリィ様は園庭で学校祭の準備をしていた。

 そっと近づいて声をかけると、きょろきょろとあたりを見渡す。


「アランです」


 俺はちょっとだけ隠蔽魔法を解いて姿をリリィ様だけに見えるように現す。


「ちょっと相談があるのですが、一緒にライトの部屋に来てもらえますか?」

 第一王子の影だろうか、二人リリィ様のことを見張っているものがいる。

 第二王子の影より腕は落ちるな、あれじゃあ学院を警護する騎士にさえ見つかるかもしれない。


 リリィ様にも隠蔽魔法をかけ、一緒に中等部のライトの部屋まで歩いて行く。


「アリスと一緒に転移したことはありますか?」

「ないです」

 やはりそうか。


 見た感じ浄化の力は問題なさそうだが、転移魔法に同乗するには相当身体に負担がかかる。一緒に転移してその後浄化はできそうだろうか?


「急で申し訳ないのだが、ライトと一緒に魔界で瘴気を浄化してほしい」


「アリス様はご一緒じゃないのですか?」


「今回はライトと二人です」

 リリィ様はくすくすと可笑しそうに笑うと「いいですよ」と了承してくれる。

 あまりにも呆気なく、頷いてくれたのでちょっと意外だった。

 あんなに聖女にはなりたくないと言っていたのに、浄化魔法で瘴気を祓い、しかも魔王と会うなんて、彼女の本意ではないだろう。


「やけにあっさり承諾してくれるんですね」

 思わず聞くと。


「アリシア様は恋敵のようですが、私はアリスの友人として応援してます」

 何をだ?


「それに聖女として魔王に合うのは嫌ですが、社員としてなら問題ありません。私も社員にしてもらえるんでしょうか?」


「それは問題ありません。以前から準備していますから。あと幾つかで手続きも終わります」



 俺はライトの部屋につくと、用意してあった契約書をリリィ様に差し出す。

「よく読んでからサインしてください」


「アラン、俺の時と違くない?」

「人生経験を積ませてやってるんだ、感謝しろ」

 ライトは頬を膨らませ、ぶつぶつ文句を言っている。


「あの、これって今の戸籍からの除籍ですか?」

 リリィ様は戸惑いを隠さず、俺を見つめた。


「そうです、失礼だが今のご両親とは養子関係で、聖女候補になってから向こうが一方的に籍に入れたようだったし、この国で貴族籍があると、新しくアンダルシで戸籍が作れないのです。何枚目かに、新し戸籍の用紙があるから心配はいらないですよ」


「え、もう新しい戸籍が作れるんですか?」


「まあね、コネを使って国王のサインも入っています」

 リリィ様が考え深げに、書類にサインしているのを、ライトは「アランって、心底怖い」とジト目で見てくる。


「俺絶対にアランには逆らわないから」


 まずは独り立ちしてくれ。


「では、リリィ様改めリリィ、今日からよろしく」

「はい、よろしくお願いします」

 リリィと契約を交わすと、ライトがニコニコしている。


「どうしたライト?」

「これで僕は一番下っ端から、先輩になったんだよね」

「何言ってんだ、うちは実力主義だ。働きで給料が決まる」

「当たり前だ、それでなくてもライトは借金だらけだぞ」

「えー、」

 がっくりと肩を落とす。


「わかったら頑張って浄化してこい」

 俺はなおもブツブツ言うライトをほおっておいて、魔王の通話石に触れた。


「俺だ」

 すぐに高飛車な返事が返ってくる。


「二人そろいました」

 そのとたん音もなく、魔王が立っていた。

 なるほど、このルビーは転移の座標にもなっているのか、アリスには持たせられないな。


「おまえ………」

 俺の顔を見て何か言いたそうだったが、ライトとリリィがいることに気づいたのか、魔王は何も言わなかった。


「ライトとリリィです。ライトは転移魔法が使えますが、リリィは転移は初めてです。配慮お願いします」

「わかった」


「二人で無理そうなら、私を呼んでください」


「何度も迎えに来るのは面倒だ、はじめからお前もくればいいだろ、だが、お前に浄化魔法が使えるのか?」

 訳知り顔で、お前にはできないだろうという視線を送ってくる。


「迎えは大丈夫です。初めての場所でも、ライト目指して転移できますから、それと、浄化魔法も使えますよ。使えないとあきらめていては大切なものも守れませんからね」

 バチバチと火花が散るような眼で、魔王は俺を睨む。


「あ、ただ、私が転移した時にシールドにはじかれないように、このルビーに許可の魔法でもかけておいてください」


 魔王は無言でルビーに手をかざすと、「食えないやつだな」と言って消えた。


「やっぱり気づかれましたね。めんどくさい」

 そのつぶやきを誰も聞くことはなかった。

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