35 レオン視点 5 油断してた
俺は呆然とアリスと深紅の男が消えた何もない場所を見た。
それは本当に一瞬の出来事で、詠唱どころか魔法陣すらなかった。
転移魔法を見たのは、始めてではない。
王宮魔術師が王族の脱出用に魔法陣を組んでいる。
そこにはとてつもない力のある魔法石が置かれ、万が一のときだけ使われる。
それをいとも簡単に操るとは、いったい何者だ?
まさか、王女の恋人だった魔法使いか?
いや、考えるのは後だ。
アリスを探さないと!
俺は急いで、教室に戻る。
「アリシア嬢、ちょっと急用だ」
アリシアは驚いていたが、俺のただならぬ雰囲気に、黙って付いて来た。
適当に話せる場所がなく、できるだけ目立たぬように俺は薔薇園に戻った。
「どうなされたのですか?」
薔薇園の事は聞いていたらしく、アリシアは黙ってガゼボまで後ろを歩いてくる。
その後に、カイも合流していた。
「アリスがこの薔薇園で、髪の真っ赤な奴に連れ去られた」
「アリスが? その男を殿下はご存知なのですか?」
アリシアは顔をしかめたが、取り乱したりはしていない。
「始めて見る奴だ。国でも留学先でも会った事はない。いきなり現れて、アリスが手を掴むと、目の前で文字通り消えた」
「殿下、確認ですがアリスは無理矢理手を捕まれたわけではなく、あくまでも、アリスが手を伸ばし一緒に消えた。と言うことですよね」
アリシアが何を言いたいのかわからない。
「男はアリスを拐う以外何か言っていませんでしたか? アリスはとても大きなダイヤを持っていました。宝石目的なのかもしれません」
アリシアは冷静に聞いてくる。
「宝石目的………。イヤ、薔薇だ!あいつは、いきなり近づくと薔薇を引き抜いたんだ」
なんて事だ! アリスに気をとられすっかり薔薇の事を忘れていた。
「ガラスの薔薇を引き抜いた!?」
声を上げたのは、カイだった。
信じられないと言う顔で俺を見る。
俺だって信じられない。すっかり薔薇の事を忘れているなんて……。
「では、そいつの目的はアリスではなく、その薔薇と言うことですね」
「ああ、そうだ。アリスは巻き込まれたのだろう」
すまない。と俺はアリシアに向かって謝った。
いや、アリスに謝りたい。
アレキサンドライトを手に入れ浮かれていた。無敵になったようで、すっかり油断していた。
アリスは絶対助ける。
「殿下、お顔をおあげください。たぶんアリスは無事です」
「なんの根拠があって無事だなんて、仮に、今はまだ無事でもあんな得体の知れない男と一晩一緒だなんて、絶対許せない」
「アリスは転移魔法が使えます」
えっ……………。
「アリスが転移魔法を…………」
そんな、高度な魔法を平民のアリスが使えるなんて。この国でも転移魔法を使えるのは、王宮魔術師の二人しかいない。
「それが本当だとすると、アリスは何者なんだ?」
ただの商人でないことは分かっているが、それにしても規格外すぎる。
「それに薔薇園に入ることができるということは、王女様の恋人である魔法使い、という確率が高いのではないでしょうか。そうだとすると、今さら危害を加えるとも思えません」
王女の恋人の魔法使いと言うのは、俺も同意見だが、危害を加えないかは、楽観出来ない。
「このことは第一王子やソルト様には対処できないでしょう」
ソルト………。王宮魔術師のか?
この国で、魔法がらみのトラブルとなれば、相談するならソルトだが。あいつは第一王子派だ。
「殿下、今は表だって騒ぎを起こすわけにはいきません」
アリシアは明らかに俺を牽制していた。
アリスを何者かに連れ去られるという危機の中で、アリシアの態度は堂々としすぎている。
こいつも只者ではないということか。
「分かった。俺はアリスをさらった男の正体を調べる。もちろんこのことは、まだ誰にも言わない。君はアリスがどこに転移したのかわかったら知らせてくれ」
「かしこまりました」
俺の言った言葉は、アリシアの期待に添う答えだったようで、にっこりと微笑むと淑女の礼をとって、薔薇園から去った。
「カイ、俺達は王宮へ戻って魔法使いのことを調べよう」
俺は急ぎ王宮に戻ると、王宮図書館に行き王女のことが書かれた禁書を探した。




