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28 結界の城

 ふぅ――――――。

 アリスは長い息をはき、キラキラ光るガラスの薔薇を一人で見ていた。


 ついさっきガリレのところから戻ったのだ。

「ガリレじゃなかったんだ。良かった」

 ポツリと本音が漏れでた。

 もちろん、悲恋の物語を思えば良かったなどと言えないが、少なくともそれがガリレの身に起こった事じゃなくて安堵した。


 安堵したのと同時に、アリスは微かな違和感も感じていた。


 ムカつくやつだが、ガリレとの付き合いは長い。


 王女の思い人じゃないのは、なんとなく本当だろう。

 あとは真っ黒だ。


 心当たりが無いと言っていたが、怪しい。


 だいたい、シールドに隠蔽魔法、時間の流れを止めてるとか、全部ガリレの十八番だ。

 これがガリレの仕業なら、弟子の私が、簡単に浄化して強化できるのは当然。これがまったく異質の魔法だったなら、シールドを強化するだけで一苦労していたはず。


 なのにガリレは秘密にした。

 いまさら秘密にする意味がわからない。


 考えにふけっていると、誰かがシールドの中に入ってきた。


「レオン様」

 レオンは一人だった。

「ダイナス様は?」

 今授業中ですよね?

 人の事は言えないが、王子さまが授業サボってもいいのか?


「まいてきた」

 あっけらかんと言って、私の横に座る。

「アリスこそ何処へ行ってたの?」

 寂しかったよ~と、うそくさい笑顔でにっこり笑う。


 転移してアンダルシ王国に帰ったので、見張りは着いてこられなかったのだろう。

 前回、レオン様と話してから、私の回りをうろつく監視を見つけた。

 その前からいたようだが、レオン様に言われるまで気づかなかった。

 アランは気づいていたようだけど、優秀なのは間違いない。



「ところで、僕があげたリストは役に立った?」

 王宮で第一王子の所に出入りしている人間のリストだ。


 すぐにライトに渡し、リストの名前を探ってもらうと、アンダルシに大麻を持ち込んでいる船と、取り引きがある貴族が数人いた。


「どうしてご自分で国王に報告しないのです?」

 ちょっと意地悪な質問だ。

 やる気がないのか、力がないのか、密輸に興味ないのか。


「国王は今は俺の味方じゃないんだ」

 手厳しいね。と付け足した。


「最低限の倫理観の共有は取引相手には必要ですから」

「あれ? 仲間だよね。秘密の関係でもいいけど」

 意味ありげにレオン様はウインクする。


 やめて、そのイケメン攻撃!


 ウインクに当てられて、親指と人差し指でこめかみを押さえる。


 ふう。眩しすぎ。



 そのとき、目の前に突然気配が現れる。


 !?


「誰?」

 レオン様が剣に手を伸ばすのをみると、味方ではないらしい。


 私は素早く、右手をレオン様の前に出し、制止する。

 レオン様もかなり魔力は多いが、目の前の男との力量は歴然。それよりもここで、魔力同士がぶつかれば、学院に被害が出る。


「こんな所に隠してあったとはな、やっと見つけた」

 男はニッっと口角を上げ、深紅の長い髪をなびかせて、私たちの方に近づいてきた。

 いや、私たちの目の前のガラスの薔薇にだ。


「お前たちが宝石をこのシールドの外に持ち出してくれたお陰で、薔薇のありかがわかったよ」


 そう言った男の瞳は髪と同じく深紅だった。


「おまえは何者だ」

 第二王子は臆することなく、男に訪ねる。

 これだけの威圧感のある男に一歩も引かないのは、さすがかも。


「聞かない方がいいぞ」

 そう言って男はガラスの薔薇に手を伸ばすと、いっきに引き抜いた。


 !!


「お前、何て事を!」

 レオン様が怒りの声を上げ、剣を抜いた。


 まずいっ!

 転移される――――――。

 そう思った瞬間、私は男の間合いに飛び込んだ。


 深紅の瞳に驚きの色が広がったが、そのまま一緒に転移陣に入ることができた。


「アリス!」

 レオン様の声が聞こえたが、視界は真っ赤に染まった。



 ****************


「無茶をするな」

 男があきれたように言った。


「それはお互い様だし」

 私は男をにらみながらも、辺りを見回した。


「なるほど、お前も転移魔法が使えるのか」

 転移魔法はかなりの魔力量が必要で、使える人間はまれだが、魔方陣の中に入れば一緒に転移することができる、ただ身体に負担がかかるので、緊急の時でも普通の人間と転移することはめったにない。


 転移後、平気でいられるのは、魔力量が多いか、同じく転移魔法を使える人間くらいだ。


「じゃあ、さっさと帰れ」

 興味がないのか、そう言うと薔薇を片手に歩き出す。

「待って、その薔薇をどうする気?」

「庭に植える。このままでも枯れないが、不自然だろ」

 まあ、確かに、根っこごと引き抜いたから、庭に植えるつもりだったのだろうけど。


「返してよ、それは魔法使いがイスラの王女のために創った薔薇よ」


「これは元々俺の力になるはずだったものだ。あるべき場所に戻すのが当然だろう」

 傲慢に言い捨てて、部屋から出ていく。


 慌てて追いかけるも、目の前の光景に愕然とする。


「あれはイスラの王宮?」

 遠く()()には深い森が広がり、その先にイスラの王宮がみえる。


「そうだ」

 鬱陶しそうに視線だけ向け、すたすたと歩いていってしまう。


「あれが王宮ならこの森は第三の魔王の森?」

 私は確認しようと、広い廊下に面したバルコニーから身を乗り出して、イスラの王宮を見る。

「うっわぁ!」

 眼下には、切り立った崖があり、目が眩みそうな高さだった。

 どうやってここに建物を建てたんだろ。



 駄目だ、下を見たら腰が抜ける。

 そう思い、上を見る。


 ゲッ!


 なんじゃこりゃ!


 先端が見えん。


 お城か?


 ん? お城?


 あれ? これ以上考えないでおこう。


 私は、深紅の男の後を追った。


 深紅の男は、はるかずっと先を歩いている。

 どんだけ長い廊下なんだ。


 やっと追い付くと、男は中庭に入って行った。

「へー、似合わない庭」

 ギロリと深紅の瞳ににらまれるが、この可愛らしい庭に立つ男は、なんともミスマッチだ。


 城全体は、堅苦しい城塞だ。崖の上に建つだけあって、人を寄せ付けない敵と戦うための城。

 でも、この庭はなんとも繊細で可愛らしい。

 派手な花はないが、色とりどりに小さな可憐な花が咲いている。

 微かに吹く風に揺れて、さわさわと揺れる。

 王女の洗礼された薔薇園とは真逆、草原のお花畑のようだ。


 深紅の男は、抜いてきたガラスの薔薇を白いかすみそうのような花の横に植えた。

 その横には、四角い石に文字が刻まれている。


 ちょっと場違いじゃ………。


「いいんだここで」

 男は私の心の声が聞こえたのか、満足そうに、薔薇をみている。

「お前にはそのダイアをやる。それがあれば、この城の結界から出られる」

 そのダイアとは、無造作にポケットに入れてあった、ダイアだろう。

 透視できるのか?


「やっぱり、結界が張ってあるんだ」

 だから、イスラ側からはこの城が見えない。城どころか、この崖さえ見えなかった。


「それを持っていたから、俺と一緒に転移してこの城には入れた、そうじゃなければ途中で弾き飛ばされていただろう」

 男は興味なさげに、薔薇を見つめたままだ。


 ダイアの力を知ってる?

 と思ったが、口から出た疑問は違うことだった。

「それはもしかして王女の墓?」

 一瞬だけ視線が向いた気がしたが、それを遮るように、誰かが彼の名を読んだ。



「ルーク様」

 視線は私を通りすぎ、背後に立つ銀髪を肩で切り揃えた男にやる。

 肌は真っ白で、耳がとがった超絶きれいなエルフだ。


 にこにこと満面の笑みのエルフは初めてみる。

 元々人前に出てこないエルフは、人間を疎んじているのか、眉間にシワを寄せているか、嘲笑っているかしか見たことがない。


 こんなに機嫌よく笑うことができるんだぁ、と感心していると「ルーク様、こちらはお客様ですか?」とエルフが聞く。


「気にするな、用はなんだ」

「それが、城下にまた瘴気が噴き出しまして、今結界で塞いでいますが、いつまでもつか」

 城下?

 城下って、イスラじゃないよね。

 第三の魔王の森?


「わかった、すぐ行く」

 ルークはそう言うと、エルフの後について行く。

 しかし、ふと、立ち止まり私を見て目を閉じる。

 その間2秒。

 目を開けると

「お前も一緒に来い、ダイアの礼をしてもらう」


 礼?

「何であんたに」という前に、スタスタ歩いていってしまう。

 薔薇の事が気になったが、それ以上に城下がどういった場所か気になり、男の後を追った。


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