12 新入社員 騙してるようでごめんね
商会の自室に戻ると、そこにはソファーに座るアランがいた。
「ただいま」
両手いっぱいに抱えた本を机の上に並べて、幾つかのファイルをアランに渡す。
今回のイチオシはコーヒーとお茶の栽培方法だ。
「おかえりなさい。大丈夫ですか?」
「うん、全然大丈夫。みんな元気だったよ」
アランは、ポンポンとアタマを叩くと、本を物色しはじめた。
持ち帰った本は、政治、建築、毒物と多岐にわたる。素人の私が選んだものなので、気に入ってくれるか心配だったけれど、アランは満足そうにペラペラとページをめくっている。
ここ数年アランは私が日本に行くと必ず部屋で待っていてくれる。
家族と別れて帰るのが寂しいだろうと、気を使ってくれているようだった。
「ガリレと勇者が来ていますよ。今はギルドに冒険者登録に行っています」
「そう、丁度3ヶ月かぁ。案外早かったわね。仕上がりはどのくらいかな? まさか使い物にならなくて、途中放棄じゃないよね?」
クッスとアランは思い出し笑いをして、意味ありげに人差し指を2度振った。
「いいコンビでしたよ」
そこに、ノックと共にガリレが入ってきた。
「よお、帰ったか」
机の本に視線をやり、手をかざすと音もなく本が消える。
「おい、お前の本もあとで見せろよ」
アランに言うと、ドカリと自分で出した、一人がけソファーに腰を下ろす。
「ちょっとその趣味の悪いソファー持って帰ってよ」
「イスラの第一王子のことは聞いた。ソルトは雑魚だ俺は必要ないな。光は、暫くダンジョンに突っ込んでおくから………。あ――――――、その前に転送魔法だけお前が教えとけ」
じゃあ、とガリレは立ち上がる。
「ちょっと待ちなさいよ、まだ、魔王のことも、リリィ様のこともどうするか決めてないし、だいたい光はどうなのよ! まさかと思うけど、ただ本が早く読みたいだけじゃないでしょうね!」
ニッと笑って、ガリレはソファーと消えた。
「逃げられた………。」
「まあまあ、ガレリにしては上出来です。それにガリレは、後半出番なしです。今回はアリスたちに頑張ってもらいましょう」
嫌な予感しかしないんですが――――。
暫くすると、光が両手いっぱい食べ物を持って現れた。
「久しぶり、元気そうで安心した。光、こちはアラン。この商会の統括よ。アラン、こちらは近藤光くん、勇者です」
「先ほどもお会いしましたよ、改めてよろしくお願いしますね」
アランは営業用の冷たい顔で微かに笑った。
「よ…よろしくお願いします………」
アラン、お客様を脅さないでよ。
「ガリレからお聞きしましたよ。もうすでにA級のダンジョンに潜れるほどの腕前だとか。さすが勇者様です。これならすぐにS級以上のダンジョンに行けそうですね」
言葉は丁寧だが、感情が一つもこもっていない声でアランは言った。
光はアランの威圧に、顔がひきつっている。
アラン、恐いです。
「では、勇者様、今後の方針を決めるために、こちらに記入を。」
アランは光に椅子に座るよう促すと、契約書を渡した。
さらっと説明した後、「それではご質問がなければ、こちらにサインを」と無表情に光にペンを渡す。
光は少し考えたが素直にサインした。
ちょっと待って! きちんと読まないでサインして大丈夫!!
心のなかで止めたが、声には出さなかった。
ごめんね光。これも社会勉強だから。
光がサインし終わると、ニッコリとアランは今日一番の綺麗な顔で微笑んで、契約書を受け取った。
光はその女神のような微笑に見とれていたが、それ女神じゃないから! 悪魔だから! 悪魔!
「これで光くんはうちの正式な社員です。社宅がありますから、今日から住めますよ。訓練は明日から始めましょう」
「社員?」
「そうですよ、怪しいただの小僧から、この道では一目置かれる商会の社員になったのです」
よかったですね。感謝しなさい。とアランは言った。
「ああ、そうそう。たまに親切を仇で返す子がいるんですが、そういう子はたいてい悪い奴に捕まって、死んだ方が楽だという目に遭うらしいですよ」
悪い奴ってあんたでしょ――――――。とは突っ込まないでおいた。




