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魔界食肉日和  作者: トネリコ
魔界編
56/62

56、最終話:覚悟の結末 

 

 

 

 

 

 

「―――かなぁ」





「―――って、――――す―どね 」





 んあ? うるせぇなぁ…




「ガッ―ッハ、――――さか、――――ねーか」




 うえ、さっきの笑い声はトラウマものの記憶が…


 って、何だ、さっきからおかしくねーか?




「! ―――カゲ! ―――トカゲ起きろ!! トカゲトカゲ」


 ぐらぐら揺さぶられる。

 なんかおかしいが、それよりもまず酔うっつーか耳元で何十回も呼ばれると流石になぁ―――


「うっるせえ!! 寝れねーじゃねえかこのバカワニがあ!!」


 スパコーンと反射で騒音源に向けて枕をぶん投げる。


「ちったあ静かにしろ!! こちとら疲れてんだよ!! 寝かせろや!! ―――って、此処何処だ? あれ? え? 何で生きてんだ?」

「ト、トカゲー!!」

「うおッ、ちょ、やめろ潰れる削れうぎゃー!」

「隊長、嬉しいのは分かるっすけど、離れないとまた意識飛ばしそうっすよー」

「トカちゃんよかったぁぁ」


 何だかすんごく歓迎ムードになってる。


 え、何だ、何が起こったんだ?

 とりあえずワニはどけ。めー子もふもふしてぇ


 ワニをげっしげっしと殴ろうとして、ふと自分が消えた瞬間を思い出した。 

 ぞわっと身体をさする。 


 消え、てねぇ

 でも確かに死んだ筈じゃ……


 混乱しつつ、ワニを見る。 

 覗き込んでくる金眼と目が合うと何故かほっとする。


 腕や足は…、戻ったようで何よりだ。

 ワニの腕をぺた、ぺたと確かめるように恐る恐る触っていると、メフフ…という忍び笑いが聞こえた。

 ハッとして見るとめー子が蹄の隙間からばっちり見ている。

 

 ちょ、止めろめー子そんなんじゃねぇ!

 つか鳥、てめぇも何「お熱いっすねー」みてぇな態度してんだ!


 トカゲトカゲとうるさいワニをぐいぐいとどけていると、何故か鳥がめー子の肩を押して出口へと向かう。


 お、おいめー子何故スキップで出口向かって……

 蹄を縦にしてもグッジョブにはならないからぁぁ……!


 何故この状況なのか聞くのに必要な証人が一気に二人消える。


 おいマジかよ。こんな混沌カオスに置いて行かないでくれよ

 既にもう一回眠りにつきてぇんだが


「トカゲトカゲ」

「ええい! お前はさっさと正気に戻れ!」


 スパパコーン!と枕二連撃を繰り出しつつ、壁際で大口開けてこちらを眺める母鰐と父龍を見た。

 さっきから居たのだが、怖すぎて意識を全力で逸らしていたのである。


 おい、起きてから秒で親子面談とか…。ワニよ、私の方が正気飛ばしてえんだが


 くんくんスンスンと殴り過ぎたのか頭がやば……、使いものにならねぇ味方を放置してベッドから二魔へと向き直る。

 

 わー、どうしよ。もう死ぬのかな。息子さんは最初からこうでした。すんません


 死んだ魚の目で愛想スマイルを繰り出していると、母鰐がガチンと牙を閉じた。


 わぁお、素晴らしい磨き具合ですね

 マジであの時喧嘩売った自分よくやったな。普通に頭ヤバかった。これガチ化物ダブルだぞ


 内心でぷるぷるしていると、父龍の方がパチパチと唐突に拍手した。

 うおう、胡散臭い方にされると、こっちからは物理的というよりも精神的恐怖が……


「いやぁ、いいもの見せてもらったよ。まさか歴史的瞬間に立ち会えるとは思わなかったな」

「は、はぁ。えと、すんません事情がまだ呑み込めず……。何で自分生きてるんですかね」

「むう、ハニーやっぱり無意識じゃないとダメなのかねぇ。僕達もなりたいから一辺死に合ってみないかい?」

「面倒だ」

「えー」


 説明とは…!!

 

 とことん自由な魔界人にツッコミたくなるが、格上なので大人しくする。


 え? 基本噛み付く相手は見る雑魚ですが何か。生き抜くための処世術である。なお時と場合と相手による。ワニは最下層である。


 相変わらず現在進行形で暑苦しいワニを小突いてこしょこしょと「さっさと説明しろよ」と耳打ちしていると、ようやく腹に抱き着いていた状態からワニが顔を上げた。


 こいつ、親の前でもう少し恥じらいをだな


「トカゲ分かんねーか?」

「何がだ。一番聞きてえメインの超絶大事な主語が抜けてるぞ」

「俺達血魂しただろー?」

「血婚? いや、お前に断られた状態で死んだ記憶しかねぇぞ…? まさか死体と血婚して今ゾンビ状態で復活とかじゃねぇよな」


 心臓から再生させでもしたのか? このバカチートワニなら何でもやらかしそうで怖え


 思わず今度はぺたぺたと自分の身体を触っていると、くすくすと父龍の声が聞こえた。

 不思議に思い見ると、したり顔で解説される。

 思うに、もっと早く説明してほしかった。


「実はね…、君と息子は血と魂でもって婚姻を結んだ状態にあるんだよ。区別する為にけっこんを字で表すと魂の”こん”だね」

「血と、魂?」

「そう、まだ君たちで始祖を含めて三組しか確認されてない契約でね。正直どういう方法でこの状態になるのかも、どんな契約状態にあるのかも正確な情報はほとんどない」

「ないないしか言われてないだと」


 当のワニは呑気にまた人の腹に顔を埋めている。 


 不安しかない…!!


「それ…、人体に影響は…」

「まぁそんな不安な顔しなさんな。息子がいるから大丈夫さ」

「不安の根源!」

「えー? じゃあ分かってることだけ教えてあげよう。君も私たちの義理の娘になったんだしね」

「ガッハッハ! まぁ活きだけは認めてやるよ。よろしくなぁ?」

「不安な親子関係…!」

「えー?」


 にこにこと不満の演技声にツッコミが追い付かねぇ

 やだ、もう一回眠りにつきたい


 頭を抱えていると、父龍がにやにやと口を開いた。

 あの時の本性が既に透け始めている。


 こいつ、もう隠してすらいねぇ…!


「まず一つ、契約方法は君たちを含めた過去の文献や経験談から推測するに、龍族と一番目との間で成せるもの。次いでお互い死に掛けること」

「二つめの時点で既にレアケース…!」

「だねぇ。僕達は強いから中々そんな事態にはならないしねぇ。それに一番目に出会えない龍族もいる中で一番目と血婚出来る子なんて非常に稀だからね。血婚の儀式で失敗したら魂が対消滅だし、その前段階で告白失敗したら思い余って殺しちゃうか道連れも多いし」

「これが理不尽の権化か……」

「トカゲなんか言ったかー?」

「てめぇのことだな」

「そうかー」

「何で喜ぶんだきめぇ」


 やはり頭がばかになってるんだな


 頭の空っぽ具合をコンコン叩いて憐れんでいると生温い視線を感じた。 


 んな…! やめろだからそんな目で見んじゃねぇ…!!


「ハニー僕達もいちゃいちゃしたいな」

「うぜぇ」

「恰好良くて惚れるよハニー」

「早くしろ」


 ぶっしゃーとベッドに血が飛んできたのでワニガードで避けつつ、ごほんと咳払いした父龍を見る。


 いや、服まで即座に再生させてる魔術は流石とは思うが、血痕が周囲に飛び散ってるぞ

 あと頬染めてるのを母鰐がすんげぇ蔑んだ目で見てるけどそれはいいのか? いいんだな、おう…


「まぁ僕とハニーはこうしてラブラブだけど、それぐらい一番目との血婚は珍しいんだよねぇ。二番目以降からは少し数も増えるんだけど。まぁ何しろ運命の相手だからどうしても各本能がどれも強くなってね」

「どんだけぶっ飛ばしてもカビの如く付き纏われて鬱陶しくてな」

「うーん、激しく納得した」


 未だにはぁ……と頬を染めてる父龍の威厳は地の底である。


 まぁヤバさは知ってるので侮りはしないが。

 この両親見て育ったらワニが出来るんだなとは分かったが。

 若干母鰐への心の距離は近付いた。主にストーカー被害仲間として。


「はぁ…、んんッ。さてそこで最後に一番難関と思われる条件だ」

「はぁ、お互い死に掛け以上があるんだな」

「『一番目から龍族の方に命を捧げること』どうだい? ドラマチックだろう? 弱者が強者に愛の為に命を差し出す。正にロマンティックな条件じゃないか。雑草と呼ばれた花の精と始祖との血魂話は内輪での伝説なんだよ。最近は龍族内でも血婚自体リスキーだから反対だっていう派もいるけど、僕はこの手の伝説が大好きでね」


 「上手く唆して良かったよ」とこそっと内緒話をするように伝えられ、軽くウインクされる。


 ドラマチック…、ロマンティックねぇ……


 見下ろしたワニは未だにのんべんだらりと飽きもせずぐりぐりと腹に頭突きしている。

 背中に回された腕は外れる気配がない。


 正直文字通り必死だったし一面血の海だったからそんなファンシーな単語と似合わねぇしなぁ


 何だかなぁと思いながらとりあえずほーんと頷いていると、父龍に分かってないなぁという顔で首を振られた。 


 何であろう、一瞬鳥とかミイラ司書を相手にした時の様なワニをけしかけたくなるイラつきを感じたぞ

 

「もう、ハニーも息子も義娘もこの手の浪漫は分かってないなぁ」

「とりあえず喰うか」

「いいと思います」

「んんッ」


 最早流れ作業で母鰐が喰ってから、目が潤み始めた父龍がふらふらと立ち上がって人指し指を立てた。


 ひぃ、段々やばさが悪化してる 

 つか、色気が増してるのも怖い。なんか上気した顔がエロいんだが


 引いていると、何故かワニが喉を鳴らした。

 何だ何だと見下ろすと不機嫌そうな顔で父龍の方を見ている。

 改めて父龍の方を見ると、にぃやと本性が見える顔で笑っていた。

 母鰐が呆れた顔で見ている。


 これ全てアイコンタクトである。

 この親子何だかんだすげぇ仲がいいに違いない。


「さてじゃあ血魂の難しさが分かったところで、その効果なんだけど」

「! ど、どんなのだ?」

「まぁ結論から言うと寿命は肉体の寿命ではなく、魂の寿命をお互い混ぜ合わせるから」

「から?」

「つまり神でもない僕達じゃあ分からないってことかな。まぁ息子の四肢の欠損が治ったのを見るに、すぐに死は訪れなさそうだけどね」

「ガッデム」


 思わず布団のシミを数えた。

 なんだそのスリリング人生ゲーム。


 死期は分かるらしい。どんぐらい前に分かるのかは分からないらしいが。意味ねぇじゃん…!

 

「ああそういえば」

「何だ、怖いな」

「多分このことが知られたら確実に研究狂いも寄って来るから気を付けてね」

「ひぃ」


 トラウマが蘇ってガクブルと震えあがる。

 ちなみに母鰐は既に飽きて大あくびしている。

 その度に大口から鋭い牙が見えて絶賛現在進行形でトラウマを形作りそうである。 

 心の距離はまた開いたようだ。

 

「まぁ息子が守ってくれるさ。息子曰く、血魂相手の感情もある程度読めるらしいしね」

「ワニまかせた…ぞ……。読める? 心を?」

「おー、とりあえず母さんはトカゲが怯えるからその牙閉じてくれなー」

「何だ、軟弱だなぁ」

「まッ、マジかよッ! 無しだ無し無し!!」

「慌てる奥さんもかわいいなー」

「おくっ、おっ…」


 真っ赤になってぱくぱくと意味不明なこと言い出したワニを睨んでいると、でれでれ顔で抱き潰される。


 マジやめろ! これは照れじゃねぇ! 窒息する!!


 ギブギブと一瞬死に掛けていると、母鰐がワニの首根っこを掴んで引きはがしてくれた。

 一気に母鰐への心の距離が近付いた瞬間だった。


 ワニは一辺死んでこい


「トカゲひでぇ」

「自業自得だ」

「息子よ、見るに耐えん姿晒すなら首の根折るぞ」

「おー、母さん分かってるって」

「うーん、この」


 何ともなさそうに話す親子の会話がこちらである。


 平和万歳な雑魚としては遠巻きにして関わらずにいたいな。うん


 心の壁を張ってガードしていると、さて、とこちらを向いた母鰐が一瞬で物理的距離を詰めてきた。巨体とは思えぬ瞬歩である。


 心の中のミニトカゲが言う。「隊長、無理です。最終防衛ライン突破されました」

 はやい。秒も経ってねぇ


「さて義理とはいえ娘になった者よ」

「は、はい」

「ガッハッハ、そんな緊張すんな。威勢だけが取り柄だろう?」

 

 そうは言われてもなぁとカチコチに固まってると、ワニよりも太い腕が伸びて来た。

 その手にはトカゲの鼓動を止めた小刀が握られている。

 瞳孔が開き、ゆっくりと近付いてくる母鰐の手と小刀を見ていると、母鰐が愉快そうに目を細めた。

 

 パリんと澄んだ音を立て、生命力を奪う小刀が目の前の布団に欠片となって散らばる。


 へ?と目線を上げると、片手でいとも容易く小刀を割った母鰐が大口開けて笑った。


「何だ、間抜けなツラだな義娘よ。殺されるとでも思ったか?」

「母さん悪趣味だぜー。トカゲからかっていいの俺だけなんだからよー」

「器が小さいぞ息子よ。折角の初娘なんだ。可愛がってもいいだろう」

「兄さんたちも早く血婚すりゃいいのによー」

「まぁまだ相手もいないんだ。仕方ない」


 呑気な会話をぽかんと見ていると、母鰐にぐわしぐわしと頭を撫でられた。


 うわっ、ワニよりも力強すぎて頭取れそうッ


 でも頭も髪もぐしゃぐしゃにされたのに嫌な気分じゃないのは変な感じだ。

 若干涙目になった目で母鰐を見上げれば、からっと笑う姿がそこにあった。

 ワニよりもより鰐族らしい凶悪な顔なのに、どこか陽気な雰囲気が漂う。


「息子の命を救ってくれて感謝している。あの時は牽制して悪かったな。小さく勇敢な者よ」

「ッ。こちらこそ、あの時は乱暴な口叩いてすんませんでした。あ、ありがとうございます」

「ガッハッハ! だから畏まらなくてもいいってのによ」

「母さんずりいぜー。そろそろ交代してくれよ」

「そうだよハニー。そろそろ僕も嫉妬心で胸が張り裂けそうだよ」


 ぐわっしぐわっしと頭を撫でるフリをした母鰐が口元を近付けて「ほんと、しょーもねぇ男連中だ

よなぁ」と囁いたので、何だか胸が詰まって涙ぐみながら頷いた。


 こんな破天荒な母親と父親が出来る日がくるなんて思わなかったからよ―――


「母さんトカゲ泣かすなよ。交代だ交代」

「そんな力強かったか? 悪いな。ほら、めそめそすんじゃねぇ」

「ハニー、僕はもうダメかもしれない」

「父さん母さん、トカゲは疲れてんだからそろそろ帰れよなー」

「そうか、じゃあこのゴミだけ連れて帰ろうかねぇ」

「ハニーハニーハニーハ―――」

「うぜぇ」


 ぶっしゃーと飛ぶ父龍の血を布団でガードする。

 顔に付いた血を拭うついでに涙も拭った。

 

 やっぱ最近涙腺が脆くなってるにちげぇねぇ。だって昔は泣いてもどうにもならねぇって知ってたからそんな無駄なことなんてしなかったしな


 お礼と挨拶を言う間も無く、瞬間移動で掻き消えてしまう。 


 また今度会った時に礼を言わないとだなぁ


 何とはなしに消えた場所を眺めていると、隣に来たワニに頬を指で触れられた。

 

「んあ、何だワニ?」

「まだ涙ついてたぜー」

「そ、そうか。なんか泣いてるとこ見られるのは恥ずいな」


 慌ててごしごしと顔を拭っていると、なんだかすんごく見られている視線を感じた。


 おい、何だよ。そんなまじまじと見んなよ。寝起きガン見はハズいっつーの


 若干顔を逸らす。

 何であろう、さっきの親子面談も緊張するが、改めてワニと二魔っきりなのもなんか変な感じだ。

 ぐりぐり魔の癖にである。


 っつーかさっきから何だよ。なんか言いたいことあるならさっさと言えよ…!


 理不尽に逆ギレしていると、ワニがベッドに腰かけた。 

 重すぎるワニが乗るとベッドがギィぃと悲鳴を上げる。


「ちょ、ワニベッド壊すなよ?」

「おー、分かってるって。なートカゲー」

「な、何だよワニ」


 ワニが額をこつんと合わせる。

 ん、と咄嗟に目を閉じた。


「生きててくれてありがとなー」

「……ふん。別に何もしてねーよ。ワニこそ、よくくたばんなかったな」

「そりゃトカゲが血魂してくれたからなー」

「血魂ねぇ…。生きてるけど、あんま実感湧かねぇなぁ。ワニが何考えてっか分かんねぇし、寿命もよく分かんねぇし。つかワニばっか心読めるのずるくねーか?」

「んー、今は読めねーぞー? 何か条件ありそうだなー」

「何かあんま旨味ねぇなー」


 まぁ生きてるから御の字か。

 あの血の海の状況の中で二人とも結果無傷で生還したのだ。 

 はっ、運命様のざまーみろである。

 大逆転の万々歳だ。


 じわじわと生きてた実感が湧いて来てニマニマする。


 そうだ。生きてるのだ。二人とも生きて此処にいるのだ。

 間に合ったのだ。


「~~っぅ…うおっしゃあ! 何か今めっちゃ実感湧いてきたわ! やったなワニ!! やってやったんだぜ!! 宰相の間抜け面を後で拝みにいかなきゃなんねぇな!」

「俺は結構効果実感してるけどなー。奥さんが嬉しそうで何よりだぜー」

「お、おくっ、おっ…ばっ、ばかワニそれやめろっ」

「あってるだろー?」

「なんかぞわぞわすっからやだ」

「えー、トカゲ駄目かー? 俺も父さんみてーに俺だけの呼び方で呼びてぇ」

「知るかばーか。あとハニーとか言ったら目ん玉突くかんな」


 湧いてきた喜びをガッツポーズで表していたら、ワニがまた意味不明なことを言い出す。


 だから、なんか腹ん中がぞわぞわすっからやめろよな!

 そんな呼び方なんかしなくても関係は変わんねーのによ、はずいだけだろ


 急にぱちくりとこちらを見て来たワニがため息を吐いた。


 何だよ急に。なんか馬鹿にされてるようでむかつくんだが

 

「トカゲって素で殺し文句出るよなー。ずりぃ」

「はぁ? お前は目ん玉突いてもこっちの指が折れるクソずりぃ仕様だろうが。殺しても死なねぇ奴が何言ってんだ」

「そっちじゃねぇけどなー。まぁ俺が死んだらトカゲも死ぬから、もう無茶出来ねぇけどなぁー」

「うげ、やっぱ共死に仕様か。はぁ……。父龍もこれのどこに浪漫を感じるんだか」


 ぐしゃぐしゃと頭を掻く。


 あーくそ、マジクソ仕様だな

 何が血と魂だ。まだそんなんなら寿命だけ分け合う血婚の方がマシじゃねーか


 きょとんとワニがこちらを見る。 


 こいつぜってえ意味分かってねぇな

 呆れてワニの鼻先をデコピンしてやった。んあ? この場合ハナピンになるのか?


「死ぬときは一緒にだろー? 俺は嬉しいぞー?」

「ばーか、そりゃワニだけなら強ぇけどよ、こんな雑魚と命引っ付いてんだぞ。荷物になるのは嫌だっつーの。後悔……」

「するわけねーだろー? トカゲにだからこそ怒るぞー?」

「ッ。あー…分かってっよ。後に戻れねぇんだから悔やむだけ時間の無駄だもんな」

 

 ぎぃ…ぎぃ…とベッドが鳴る。

 ワニが大口開けて笑った。


「トカゲのことは俺が守るから気にしなくていいぜー。トカゲは好きに生きりゃあいい。もし死ぬときは俺からで、そんで一緒にだ」

「朗らかに後ろ向きな覚悟言ってんじゃねーよ」

 

 ガッハッハと能天気にワニが笑うからベッドが揺れる。

 母鰐に似た陽気な声はうるさいけれど頼もしい。


 まぁそうだな、今まで通りだ

 まーなんとかなるか、いつもそうだったもんな


 だよなワニ

 例えもし過去に戻ったとしてもよ、何度でも同じ選択するだろうからさ

 この選択を後悔してるわけじゃねーんだよ


 とりあえず


「おいワニ」

「何だトカゲー?」


 ワニが言うならトカゲ様も宣言してやろうか


 にやりと笑う。


「まぁあれだ、このトカゲ様を選んだこと、後悔はさせねぇから安心しろよ」


 雑魚だが逃げまくるのは得意だから、意外としぶとく寿命まで生きてやるよ


 ベッドの上で大見得切ってふんぞり返れば、何故かワニが固まった。

 そして何故か新緑の鱗が濃緑色に深く色付いていく。

 気付けばぬぅと圧し掛かられていた。


 というか段々息が荒くなって……

 んあ? …、な、なんか嫌な予感が……。このばかワニ何か勘違いして―――


「トカゲ子作りしねー?」


 何故か尻尾振って目を輝かせたワニが飛びついてきた。


 はぁ!? 何でそうなんだよっ!?

 ちょ、こちとら身動きがッ


「だっ――誰がするかッ!! 話聞けっつーかまずは、右手を返してから言えやこのバカワニー!! もうマジ許さん!!」






 今日も今日とてはいぶっしゃー


 そんな彼等の日常は、時に怒ったり血が出たり笑ったり喰べられたり泣いたり照れたりしながら、賑やかに続いていくようです。


 本日も魔界では食べられるにはいいお日柄で……


「だぁーっ! もう昨日買ったばっかなのに何しやがんだクソワニ!! 同じの予備含めて買ってこい!!」

「おー、ついでにこの店とか鳥が美味いって言ってたぞー」

「ほう、んじゃそこも行くか。勿論ワニの詫びおごりな」

「おー! じゃあ行くぞー」

「ちょ、今からかよっ!?」


 最近デートの誘い方があの手この手と増えてきたワニさんの次なる野望は、トカゲに直接言葉で言って貰うことだそうです。

 その日は意外と―――






 とか言ってたらやっぱりはいぶっしゃー


















 【魔界食肉日和 完】
















 一年半トカゲとワニ達をありがとうございました

 読了 お疲れ様でした

 皆様の応援のお陰で無事報われることが出来ました

 本当に、本当にありがとうございます

 どんな短くともご不満でも構いません。もしよければワニさんとトカゲさんの物語にどうか足跡を付けてくださいませ

 ちなみに、ワニさんは子作り子作り言ってたら、トカゲと血魂できたみてぇにまた叶わねーかなぁとか企んでるそうな(味をしめてるワニ)

 トカゲさんは日々のセクハラ(スルー頻度は増えてきている)にめー子とハチだけじゃ足んなくて、最近宰相にももふもふを求め出したそうな

 (ジェラって墓穴掘るワニ)そして妻から疑われワニから狙われる宰相(ドンマイ☆←)


 それでは皆様 また会いましょう

 





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