２３、全力でほのぼの話にしようとしてみた

　

「トカゲ好きだー、結婚しようぜー」

「何かこれ久々な気がしねー？」

「そうかー？　結構言ってる気がするけどなー」

「それもそうだな」

　ガサゴソと箱から一粒摘まむ。

　ワニからの賄賂である。

　ふっふっふ、この最高級チョコレートバディゴをまさか口に出来る日がくるとは

　にやけ顔が止まないまま、ぱくりと１粒チョコレートを食べていたら不意に頭上に影が差した。

　即座にばっと前転してその場を避ける。

　

「ふっ、ワニよ、そう簡単に毎度毎度食われるトカゲではないぞ。というかもう少し躊躇持てや」

「おー、すまん、トカゲ甘いの好きだろー？」

「ああそうだな、今お前の足元で大好きなチョコが箱ごと踏み潰されてるがな」

「余計匂いが香るんだよなー」

「そんなすぐ肌から甘い匂いって出んのか？　っつかそれワニに食べられてチョコ踏み潰される理由にならんからな！」

　既にお亡くなりになったチョコに視線をやりつつジリジリと下がる。

　クソッ、こいつ今日は諦める気がねえのか！

　そんな美味そうな匂いがしてんのかよ！

　むしろ味付けみたいにチョコ食わせたのか！？

　ちょっと自分の腕を鼻に近付けてみる。

　いや、血迷って嗅いでみたけどワニじゃあるめーしやっぱわかんねーわ

　さっきまでの様な反射で食おうとしてた目ではないとはいえ、一口だめか？という感じで狙われている。

　反射の時は待てが効かないから絶対嫌だが、そうでない場合でも誰がレッツシェアハンドしたがるものか

「つーかワニ、最近お前抑えが効かなくなってねーか？　頻度増えてる気がすんだが」

「あー、こっちの事情もあるけどよー」

「あるけど？」

「トカゲ最近楽しそうだからよー」

「だから理由が意味不明なんだよ！！」

　食われる理由がこっちのせいとか舐めんじゃねーわおんどりゃあ！！

　決めた、今日はぜってー逃げ切ってやる！！

　ざっと右足を踏み出す。

　ワニに前に回り込まれた。

　左側に一気にジャンプする。

　ワニに前に回り込まれた。

　

「クッソ！　ワニの身体能力マジクッソ！」

「もうちょい遊ぶかー？」

「くッ、何かいい手はッ」

　周囲を血眼で探していると遠くで鳥が歩いているのが見えた。

　おい鳥！！　手伝え！　暴走した上司を止めろ！

　大手を振って助けを求めていると微笑ましいっすねーと言いたげに手を振り返された。

　ちょっ、お前絶対分かってんだろ！　逃げんじゃねー！！

　ばっさばっさと去る鳥に殺意ポイントを貯めつつもう一度前転してワニの攻撃を避ける。

　くっそー、お気にの服が既に完全に泥まみれだ。

　もー怒ったドン

「ワニよ、お前はトカゲを怒らせた。この手を使わせるとは」

　小首を傾げる可愛くもねえワニの前ですっとポケットに手を入れる。

　ふっ、食らうがいい

　ヨダレ垂らしちゃって文字が読めなくなったから証拠隠滅の為に破って持って来ちゃった禁書の１ページ爆弾！！

「ちなみに当たんねーと二度とワニのことワニって呼ばねーからな！」

「おーそれは困るわー」

　ぽこんと丸めた禁書爆弾に当たるワニ。

　ぴっしゃーんと尻尾がそそり立ち、体がその場で硬直してしまった。

　おお、どうやら麻痺の禁書だったらしいな

　１ページだしどうせすぐ解けるだろうが、これで今なら逃げれそうだ。

　ついに今日はワニから逃げ切ったのだ！！

「はっはっは、じゃーなワニ！　さらばだー！」

「トカゲさん、これはどういうことですかな」

「はっは…は…、し、ししょちょう…」

　目の前でワニに投げて地面に落ちていたくしゃくしゃの禁書爆弾が広げられる。

　な、何故司書長が此処に…

　ハッとする。

　ばっさばっさと上空から羽音がした。

　上を向けば鳥がいやー、いい仕事したっすよ！借りっすからね！という顔をしていた。

　こっの鳥ィーーー！！！

「火加減が足りなかったようですね」

「そ、そんなわけでわぎゃーー！！」

　ふぁいあー（中火）された。

　今日は血を見ないほのぼの予定だったのにワニと鳥のせいである。

　あーあ服とチョコが…

　ぐすん

　ほのぼの？