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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第四章 ナディア様の誕生日

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84.ナディア様の誕生日パーティーについて 1

 その日は、ナディアの誕生日当日。

 「ナディア様、きれいです」

 「ふふふ、今日は一層がんばりましたわ」

 侍女たちは、着飾ったナディアを囲んでそんな声を上げた。

 今日はナディアの誕生日パーティーだ。主役はナディア。そして、このパーティーでようやくお披露目となるヴァンが準主役といったところだろうか。

 今日のドレスの色は黄色。

 裾の長い黄色いドレスを身にまとったナディアは美しかった。

 だが、ナディアの心は少しだけ曇っている。

 (ヴァン様の様子がおかしい理由、結局わかりませんでしたわ)

 ヴァンは隠し事が苦手である。誕生日プレゼントのことは当日まで黙っておきたいと隠そうとしていたが、ナディアにだってヴァンの様子がおかしいことぐらいわかっている。

 「ナディア様?」

 「どうかなさいましたか?」

 侍女たちは心配そうにナディアに声をかける。

 「……なんでもありませんわ。それよりいきましょう」

 ナディアは考えるのをやめようと首を振って、そう告げた。ひとまず、今回の誕生日パーティーの主役としてきちんとやり遂げなければならないという思いがあったからだ。

 (今は、パーティーのことだけ、考えましょう)

 ナディアはそう決意する。

 『主、隠すの下手だからなー。それでナディア様不安になってるし』

 『どれ、俺様が王女様の不安をなくして――』

 『せっかくヴァンが隠しているのに台無しにしようとするなんて僕は許さないよ!!』

 上から、《ファイヤーバード》のフィア、《クレイジーカメレオン》のレイ、《アイスバット》のスイの言葉である。

 ナディアを守るためにという名目で、彼らはここにいるのである。

 


 さて、ナディアがパーティーをがんばろうと決意しているころ、ヴァンは……。




 「なぁ、師匠、これ、窮屈」

 「……まぁ、平民のお前からすれば窮屈だろうが、パーティーの衣装なんてそういうものだ」

 正装を身にまとい、それが窮屈だと不機嫌そうな顔をしていた。

 ちなみに、ディグの隣には、フロノスもいる。フロノスは文句を言っているヴァンにあきれた顔だ。三人はパーティーの行われる場所へと向かっていた。

 「ヴァン、貴方、ナディア様に近づきたいのだったらそういう衣装にも慣れなければだめよ」

 「そんなこといってフロノスも最初は文句いってただろうが」

 「……昔の話を持ち出さないでください。今はなれました」

 ディグの言葉にフロノスはそう返す。フロノスもディグに拾われるまでは平民であったのだ。ヴァンの気持ちもよくわかっている。

 だが、英雄の弟子であり、ナディアの傍にヴァンがいたいと望むならこういうことにはなれておかなければならない。

 「それより、ヴァン、今回お前は注目の的だから気をつけろよ」

 「うーん、何度もそれ言われてるけど俺にそんな興味持つ人いるの?」

 「いるからな。そもそも十二歳にして《竜殺し(ドラゴンキラー)》なんて普通ありえねぇから。貴族連中はお前に興味津々だ」

 今までディグに守られて、貴族たちとほとんど接してこなかったヴァンは相変わらず自覚がなかった。

 少しずつ自覚は出ているのかもしれないが、それでもディグからしてみれば無自覚としかいいようがない。

 「ナディア様のためにもきちんとあしらいなさいね。本当に厳しそうなら私かディグ様にいって。そしたら手助けはするから」

 「うん。ありがとう。フロノス姉」

 ヴァンが誰かに利用されでもしたら、それはもう厄介である。なんせ、ヴァンは人を疑ったりもほとんどしない。これほどだましやすい存在はないだろう。

 まぁ、ヴァンに何かある前に召還獣たちがどうにかするだろうが。

 「それより、ナディア様にはやく誕生日プレゼント渡したい!」

 「……パーティーの最中はだめよ」

 「え、何で」

 はやく渡したいとうずうずしているヴァンにフロノスは無情にもそう告げた。

 隠し事が苦手なヴァンががんばって隠して、ようやく当日だ、渡そうとうきうきしていた。

 「何でって……色々今有名になってきている貴方がナディア様に誕生日プレゼントを渡すとか注目されるわ」

 「……モノがモノだしなぁ」

 フロノスの言葉に、ディグも頷く。

 「俺が作ったもの、何かまずい?」

 「まずいっていうか……規格外すぎるからあまり周りに知られないほうがいい」

 ヴァンが作ったものは、ディグとフロノスの目から見て規格外なものだった。第一、あれだけ色々と機能を加えたら普通、モノが耐えられるわけがない。

 色々機能を付け加えておきながら、壊れていない、きちんと機能している。ある意味奇跡の賜物である。

 (……うまくバランスが取れて保っているけど、普通、どこかで機能が崩れるものなのになぁ)

 などと考えながらディグがヴァンのことを良い拾いものをしたと面白そうに見ている。

 いくつもの機能を加えた魔法具なんてものはこの世にあまり存在しない。というのも、刻まれた魔法式が絡み合って予想外の結果になったり、大抵起動しない。あと、その機能を発揮するための魔力の問題とかいろいろあるため、難しいのだ。

 それをほぼなんとなくで、『ナディア様を守りたいから』と作ったヴァン。絶妙なバランスを保っているその魔法具はおそらくもう一度作れといわれても作れないものであろう。

 ヴァンが何かやらかすのはナディアのためである。

 召還獣と契約をしたのもナディアのため。

 魔法を一心に覚えたのもナディアのため。

 そして今回魔法具を作り上げたのもナディアのため。

 ナディアのためにという思いがあったから作り上げられたものであり、ほかの誰かのためにというならおそらくできない品であるとディグは思っている。

 第一、こんな規格外なもの、外に出すわけにもいかない。

 「とりあえず、パーティーのあとにでも渡せよ。そんな規格外のもの、存在を知られて盗まれでもしたら厄介だ」

 「あ、大丈夫です! これ、装着者指定したらそれ以外が使っても意味ないようにしたから!」

 「……ますます、規格外じゃねぇか」

 そんな機能がついていることをはじめて知ったディグとフロノスはあきれた。

 そしてそんな会話をしているうちに、パーティーの行われる場へとたどり着く。

 



 ――――ナディア様の誕生日パーティーについて 1

 (そんなわけで、ディグとフロノスはヴァンの規格外さを改めて知るのであった)



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