82.宰相閣下と侍女長について
ヴァンが実家に帰ってナディアの誕生日プレゼントのために必死なころ、王宮ではナディアの誕生日パーティーに向けて準備が進められていた。
ナディアはこれまで目立たないで生きることを目指していて、それもあって今まで誕生日の催しといっても小規模なものが多かった。しかし、今年は違う。
ナディアはヴァンに守られるにふさわしい存在になりたいとそんな風に望み、自ら表に立つことを決めたのだ。そんなわけで今回のパーティーはそれなりに規模も大きくなっている。
ついでにいえば、今回のナディアの誕生日パーティーにおいてようやくヴァンのお披露目がされるため数多くの貴族たちが注目している。
王宮内では、宰相のウーランと侍女長のタリが話をしている。
「ナディア様の誕生日パーティーですが、あのディグ様のお弟子様のお披露目でもありますから騒がしくなるでしょう」
「……今回の誕生日パーティーは今まで表にほとんど出てこなかったナディア様が正式に表舞台に立つという、ナディア様が主役のパーティーですが、ヴァンも第二の主役といえますからそれは当然でしょう」
「側妃様方が何をするかわかったものではありませんが、その辺はどうしましょうか?」
タリは困ったようにいった。
ナディアのことを側妃二人が快く思っていないことなど百も承知である。今まで目立たないようにしていたからこそナディアがまともに生きてこられたことをタリは知っている。
ナディアが表舞台に立つことを応援はしているものの、タリは幼いころからナディアのことを知っている身として、ナディアのことを心配していた。
「問題ないでしょう。そのあたりはヴァンがいるなら心配はないと陛下が言っておりましたから」
「ディグ様のお弟子様の話は聞いておりますし、実際に実力があるのは知っていますが、不慣れなパーティーの中でまだ十二歳の少年に何ができるかと考えると私は不安になります」
「それでしたら警備のものを増やすとして……給仕のものの手配は大丈夫ですか?」
「それは問題ありません。王族の誕生日パーティーですから、ベテランのものを配置しておりますわ」
王族貴族のパーティーとなると、仕えるものたちにも一定の能力を求められる。そういうものの配置も、タリの仕事である。
「それにしても、あの子の娘がもう十一歳になるとは感慨深いものです」
タリは懐かしそうにそういった。
ナディアの母親であるミヤビは元々王宮に仕えていた侍女であったため、タリにとっては元同僚である。元同僚が王に見初められ、そして側妃になり、その娘がもう十一歳になる。そのことは感慨深いものであった。
「年を重ねるごとにナディア様はミヤビ様に似て美しくなられていますから、パーティーではナディア様に懸想する者も現れるでしょうね」
「陛下はナディア様とお弟子様に嫁がせる予定なのですよね?」
ちなみに、その話は王や宰相、侍女長といった上層部の人間しか知らない。ヴァンにもまだ告げられてはいない。
「その予定のようですね。あのディグ様がヴァンをこの国につなぎとめておくべきだといっておりますし、私もそれには賛同しています。十二歳にしてあれだけの力を持っている者を他国にやるわけにはいきません」
ウーランとタリは長い付き合いであり、信頼し合える仲である。だからこそ、こういう話も普通に交わす。
「それはいつ発表するのですか?」
「あくまで、まだ予定です。ヴァンはおそらくこれから沢山のことをなしていくでしょう。寧ろあれだけの力を持ちながら平穏に暮らしていくことはできないでしょう。
もう少し、ヴァンが何かを成し遂げて、そしてナディア様が成長なさってからになるでしょう」
ほとんど確定の予定であるが、シードルもレイアードもまだ認められないといっているのもあるし、まだ発表はする予定はない。
親ばかな国王とシスコンな王太子という実態を、宰相と侍女長という立場にある二人はしっかり理解している。
ウーランの言葉に、タリは「そうですか」と言葉を発した。
「その、ヴァンですが、レイアード様の話では実家に戻ってナディア様にプレゼントを作っているようです」
「プレゼントを作る? 手作りなのですか?」
「はい。王都の図書館でも騒ぎを起こしていたようで……、ナディア様のために魔法具を作ろうとしているようです」
「魔法具を? ヴァン様はまだ十二歳でしょう? 作れるものなのですか?」
レイアードはヴァンに負けないプレゼントをあげたいと、それを調べるためだけに間諜を放っていた。それで、ヴァンが魔法具を作ろうとしていることを知ったのだった。
それを聞いたウーランは、そんなものに人を使うなんてとあきれたものの、魔法具を作ろうとしているヴァンに関心がいった。
そもそも、ヴァンは魔法具を作ったこともないのに作ろうとしているらしく、そのことにもウーランは驚いたものだ。
「わかりません。経験はないようですが、本を読んで作ろうとしているようです。それも自分の力だけで作ろうとしているようで……」
「それは……本当に魔法具が作れたら、凄まじいですね」
そして宰相と侍女長はヴァンが魔法具を完成させられるのだろうかということを話題に話を続けるのであった。
---宰相閣下と侍女長について
(王宮に仕えるものたちであっても、ヴァンに対しての興味は尽きないのでした)




