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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第四章 ナディア様の誕生日

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78.王宮魔法師たちの会話について

 「ディグ、貴様の弟子にはまだ会わせてもらえないの?」

 「ふむ、しばらく出かけておったが、面白い事になっているようだの」

 ヴァンが魔法棟を後にし、実家に帰ってこそこそとナディアへの誕生日プレゼントの作成へと力を入れている中、ディグの研究室には二人の訪問者が存在していた。

 一人は、見た目はまだ若い女だ。

 薄緑色の髪を一つに結んで、美しいといえる見目を持つ。ディグと並んでいるとお似合いにさえ思える。

 もう一人は、五、六十代の老人である。

 背が低く、どこか貫禄がある。身にまとっているのは、灰色のローブ。いかにも、魔法使いといった装いである。

 その二人の訪問にフロノスは慌てておもてなしをする。……ディグは相変わらずだらしなく椅子に腰かけ、もてなす気配すらないが。

 「ヒィラセ様、イニ様、こちらをどうぞ」

 「あら、ありがとう。フロノスちゃん。ディグの弟子としてもったいないぐらいできた子ねぇ」

 「うむ、本当にのぉ」

 フロノスがせかせかと動くのを見て、ヒィラセと呼ばれた女性とイニと呼ばれた老人はそれぞれ口を開く。

 「フロノス、こいつらにそんなしなくていいぞ」

 「しないわけにはいかないでしょう!! この方々は確かにディグ様と同じ王宮魔法師という立場で、対等ですよ? でも、ディグ様はもう少し王宮魔法師の先輩に対する敬意を持つべきです」

 「……あー、もう、うるせぇなぁ。いいじゃねぇか」

 そう、ヒィラセとイニはディグと同じ王宮魔法師である。

 ついでにいうとディグが王宮魔法師になる以前より、カインズ王国に貢献し続けている先輩である。

 「いいのよ、フロノスちゃん。今更こいつにかしこまらせても気持ち悪いわ」

 「俺はあんたの若作りが気持ち悪い」

 「ディグぅうう!?」

 ディグが遠慮もなく告げた言葉に、ヒィラセの顔が強張る。美人が台無しである。

 そう、ヒィラセは見た目は若いが、実際は若作りの化け物というか、結構な年がいっている。昔からこのカインズ王国に貢献しているのだ。初対面の人間はまず、その事実に衝撃を受けるわけだが。

 「ディグ様、女性にそんなことをいってはいけませんよ」

 「……はいはい。で、わざわざ二人で何の用だ」

 「何の用って、あんたの弟子についてよ! 色々噂は聞くけど、あえてないのよ!」

 ちなみに、ヒィラセはクアンの師で、イニはギルガランの師である。

 この二人割と放任主義なので、クアンとギルガランはなかなか苦労している。ついでにイニはしばらく仕事で城を開けており、ギルガランはその間、ヒィラセのもとに預けられていた。

 「もうすぐ社交界デビューするから会えるから我慢しろって」

 「なんで、クアンはあっている癖に私は会えないのよ!」

 「……タイミングの問題じゃね? あいつ結構自由人だしな。あとヒィラセが研究するって閉じこもってたのも理由だろうが」

 タイミングと、ヒィラセが魔法研究で閉じこもっていたのも彼女がヴァンと邂逅していなかった理由であるらしい。

 あとついでにこの二人をヴァンに会わせてもややこしくなりそうで面倒だとディグが妨害していたのも一つの理由である。

 「して、第二弟子はどこに?」

 「あいつ、今実家いっているからいねーよ」

 「そうなのか」

 「そう、だからあきらめて帰れって。お前らもやることあるだろうが」

 ディグ、先輩相手だというのに不遜な態度である。こんな態度が許されるのはディグが『火炎の魔法師』と呼ばれるほどの英雄であるが故といえる。

 ヒィラセも、イニもディグの事を認め、対等としているからこそこういう態度を許しているのである。

 例えば、認めてもいない若造にこんな態度を取られたら二人は烈火の如く怒るのは目に見えている。

 「確かにやることはあるわよ! でも、うちのクアンと仲良くしている子でしょう? しかも《ドラゴンキラー》で、色々噂もあるし。はやく会いたいわ」

 「……だからもうすぐ会えるからあきらめて帰れって」

 ディグ、ヒィラセの相手をするのが面倒らしい。帰る事を何度も促している。

 「わしも気になるのぉ。ディグが認めて弟子にした少年というのは。色々な噂があるし、陛下から少なからず話は聞いているが、どうも実際に見てみないと信じられなくてな」

 「そうよ。召喚獣を大量に従えているって、一言で言われたけれど、結局どういうことなのよ?」

 実際、シードル自身もディグよりはヴァンの事は理解していない。今の所、『火炎の魔法師』が見つけてきた召喚獣を大量に持っているらしい少年、それでいて《ドラゴンキラー》であり、王女たちの仲を取りもったという実績はあるものの、ヴァンが実際どのくらい規格外なのか想像しづらい面もあるだろう。

 「あー、二十匹契約してるらしいぞ? 俺も全部見た事ないけど」

 「へ?」

 「ほ?」

 さらっとディグが告げた言葉に歴戦の王宮魔法師であるヒィラセとイニも驚いた声を上げた。

 「二十匹?」

 「何の冗談なのか?」

 「冗談じゃない。だから、あいつを国に留めるために俺の弟子にした。他国にいったらやばいだろうが」

 ディグが真剣に告げた言葉に、二人はディグの言葉が真実だと理解する。

 「……それは、確かに」

 「ナディア様と結婚をさせる話があると聞いたが、それで国に留められるのかの?」

 ヴァンとナディアの実際の様子を知らないからこそ、イニはそんなことを口にする。

 「大丈夫だろ。あいつナディア様にべたぼれだし。寧ろナディア様のために召喚獣と契約したみたいだしな」

 「なによ、その話」

 「詳しく聞きたいの」

 ヒィラセとイニがそう口にしたため、ディグはヴァンの事をしばらく語ることとなるのであった。尤も王宮魔法師としてやることも色々あるので、ヴァンが帰ってくる前には、二人ともディグの研究室にはもういなかったわけだが。




 ―――王宮魔法師たちの会話について

 (クアンとギルガランの師は、ヴァンに興味津々なのでした)




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