63.第一王女様の暴走について 2
フェールはナディアの事を忌々しそうに見ている。自分の欲しいものを、欲したものをナディアが有していること。ただ、それだけのことが我慢できない。
自分が第一。
自分が優先されるのは当然。
それが、フェール・カインズの世界であった。
「なんで、貴方が」
睨みつけてそんなことを言う。
自分が肯定されない世界を知らない。知らないからこそ、そういうことが起こった時、どうしたらよいかわからない。自分でも、無意識のうちに言葉が漏れていた。
「なんで、私が一番なのに。私が欲しいものを、どうしてあなたが持っているの? 『火炎の魔法師』の弟子なんて、貴方には――」
金色の瞳が、ナディアの事を射抜いている。その目は、ヴァンを私によこしなさいと言っている。
そして、それで済むとフェールは考えている。今まで、それで済んできた。
でも、それではすまない。それは、フェールが欲しいと願った存在が『火炎の魔法師』の弟子、非凡なる少年であるからそう簡単な話ではない。
第一、ヴァンの事はディグが『国に縫い付けておくべき』というほどの人材である。やろうと思えば、国を落とせるだろうとディグと国王に認識されているのだ。
「フェール様、なんで俺がナディア様の所ではなく、フェール様の所に行く必要があるのですか?」
フェールが怒りに瞳を染めているのをわかっているのか、わかっていないのか、素でそんなことを問いかけるヴァンである。
それに益々、フェールの顔が強張る。
「なんでって、私が欲しているからよ? 私が欲しがっているのだから嬉しいでしょう?」
フェールはそう告げた。
それが当たり前といった態度だ。実際、フェールの中ではそれは当然で、嬉しいはずだと自信満々に告げる。
「いや、別に」
「なっ」
ヴァンの言葉に、顔を真っ赤にする。
(なんで、私が望んでいるのに。どうしてそこまでナディアの事を。私の方がナディアよりも優れているのに、私の方が美しいのに)
フェールはわからない。与えられ過ぎているからこそ、そういう面を知らない。
「俺は、ナディア様の傍だから居るのです」
またヴァンがそういえば、フェールは忌々しそうにナディアを見て、「許さないわよ、ナディア」と告げて、その場から去っていくのであった。
それから、フェールはナディアとヴァンのもとに益々突撃するようになった。
二人の元へ突撃しながらも。何故、とフェールは何度も何度も頭の中で問いかける。だけど、答えはかえってこない。
フェールの目の前で、ヴァンはナディアに向かっていつも嬉しそうに顔をほころばせている。
だが、フェールに向ける目は冷たい。ナディアに向けるような笑みは向けない。
そのことにいら立ちが募っていく。なくなってはくれない。
どうして、どうしてと、やっぱり問いかける。考える。でもわからない。
(私より、どうしてナディアを?)
ヴァンがナディアを好きだから、そんな簡単な答えがフェールにはわからない。
いら立ちのままに、ナディアに暴言を吐いたり、ちょっとした嫌がらせをしてしまったりしてしまったのは、色々わからないことにどうしたらよいかわからなくなった結果である。
(なんで、私はこんなことを。どうして私はこんなに)
いら立ちが募る。どうして、ヴァンはナディアにだけそういう目を向けるのだろうか。何故、ナディアを。
わからない。答えが全然わからない。見いだせない。
(………どうして?)
悶々とした気持ちの中で、思考し続ける。
「フェール様」
そんなフェールに声をかける一人の少女が居る。
いら立ちを募らせるフェールに声をかけるものなど、現在ほとんどいないというのに少女は声をかけた。
何処にでもいるような茶色の髪を持つ少女は、振り向いたフェールににっこりと笑いかけた。
「貴方は?」
「フェール様に新しく付き添うことになった侍女の、メウと申しますわ」
メウと名乗った少女は、安心させるように微笑む。
「あら、貴方どこかで……」
「フェール様にお会いしたのははじめてですわ。それよりフェール様、『火炎の魔法師』様の弟子が欲しいのでしょう。でしたら―――」
メウはそんな風に、ささやくのだった。
―――第一王女様の暴走について 2
(第一王女様の暴走はまだ止まらない)




