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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第三章 王族たちとの交流

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52.ナディア様とヴァンと、弟子仲間について

 一人でやるのは不安だという思いから、ナディアの元までヴァンを連れて行くことにしたクアンとギルガランではあったが、本人たちとしてみれば送り届けてそのまま去る予定だった。

 しかしだ、ナディア様に「まぁ、ヴァン様のお友達ですの?」と声をかけられ、去りにくくなったため二人ともナディアとヴァンの交流の中にお邪魔していた。

 この場にいるのはナディア、ヴァン、クアン、ギルガラン、そしてヴァンの召喚獣が三体ほど居る。あとナディア付きの侍女も数名控えている。

 「お二人ともヴァン様とは仲がよろしいの?」

 ナディアはヴァンの友人(正しくは弟子仲間だが)に会えたことが嬉しいのかにこにこと微笑んでいる。

 美しい王女様に微笑まれて、クアンとギルガランはそれはもう緊張していた。第一彼らは王宮魔法師の弟子という立場にしかなく、王族とこのように親しく話す事はまずない。先ほど第一王女の魔の手からヴァンを救い出す際にも緊張していた二人である。立て続けに王女二人と遭遇し、頭の中はいっぱいいっぱいである。

 「え、っと、それなりには」

 緊張しながらようやく声を出したのは、クアンである。

 「ふふ、そうなのですの」

 ナディアはそう口にしながらも、ヴァンの友人という立場にある少年たちとこうして話せることがなんだか嬉しかった。

 (こうして私の知らないヴァン様を見ている方と一緒にお話しできることは嬉しいですわ。

 ヴァン様が普段どういう生活をしているかとかそういうことも聞く事が出来るんですもの)

 ナディアはヴァンが会いに来てくれる時しか、ヴァンとは会話を交わしていない。

 それ以外のヴァンの事を知らない。

 ヴァンの事、もっと知りたいと思うのはそれだけナディアがヴァンに関心を持っているということである。

 「……そういえば、ナディア様、先ほどヴァンがフェール様に絡まれていました」

 ギルガランがそう口にすれば、ナディアは先ほどまでの笑みを消して、驚いた顔を浮かべた。

 そしてヴァンの方を見る。

 ヴァンは置かれているお菓子を食べていた。どこまでものんきである。

 「ヴァン様、フェールお姉様に会ったのですか?」

 「えーっと、ナディア様のお姉さんにはさっき会いました」

 「……大丈夫でしたか? フェールお姉様は強引なところがありますから」

 「大丈夫、です。クアンたちに助けてもらったので」

 二人はそんな会話を交わす。

 ナディアにとってフェールは、あまり関わり合いのない姉である。側室の娘であるものの、ナディアに対して関心は特にないといった様子で、時折気に食わないといった視線を向けてくるものの、ほとんど話をしたこともない。

 しかし、フェール・カインズの噂はナディアの耳にも沢山入ってくる。

 それだけ彼女は目立つ。ナディアとは違って一つ一つの行動が噂になるような派手なお姫様なのだ。

 フェールが自分の願望をかなえるために割と強引だということや、自分に絶対の自信を持っていること、そういう性格は時々しかフェールと会わないナディアにも噂から読み取れることであった。

 (それにしても、フェールお姉様がヴァン様に接触してくるとは思わなかったわ。でもヴァン様は今王宮内で最も噂をされている方ともいえますし、仕方がないのかしら。でも……、フェールお姉様がこれでヴァン様に興味を持ったというのならば……)

 フェールは欲しいものは絶対に手に入れるという、そういうお姫様である。それを思うとナディアはどうしようもないほど不安になった。

 (―――ヴァン様のこと、とられてしまうかもしれない)

 とそこまで考えて、ナディアははっとなる。

 (とられてしまうかもしれないって、ヴァン様は私のものでもなんでもないのになんでこんな考えを……。私、ヴァン様がこうして私に会いに来るのも、全部今では当たり前に思っちゃってたのね。ヴァン様が私ではなく、フェールお姉様の方にいったら、悲しい)

 そんな気持ちにナディアは驚いた。いつの間にか自身がヴァンの事をこんなにも大切に思っていたことに。

 「……ナディア様、どうかしましたか?」

 声をかけられはっとなってナディアがそちらを見れば、心配そうにこちらを見ているヴァンの顔があった。

 見ればヴァンの弟子仲間であるクアンとギルガランも、そしてその場にいる三匹の召喚獣もこちらを見ていた。

 『ナディア様、大丈夫か?』

 『ナディア様、どうなさりましたか?』

 『ナディア様を憂いの顔にさせる奴なんぞ、存在するのならば私が…』

 《ファイヤーバード》のフィア、《サンダースネーク》のスエン、《レッドスコーピオン》のオランの言葉である。

 召喚獣たちはなかなか物騒である。

 自分の契約主であるヴァンが大切に思っている存在に害をなす存在には容赦がないのだ。

 「ふふ」

 心配されて、ナディアは笑った。

 「ちょっと心配事を考えていただけですわ」

 そう口にして、ヴァンの事をまっすぐに見る。

 (……大丈夫。ヴァン様はフェールお姉様にとられたりなんてしない。もしフェールお姉様が取ろうとしても、とられないようにしましょう。それでもとられてしまったら、その時は――…)

 不安な心に言い聞かせて、自分の内にわいたとられたくないという独占欲を感じながら、ナディアは一つの決意をするのだった。




 ―――ナディア様とヴァンと、弟子仲間について

 (ナディアはヴァンたちと会話をしながら、第一王女であるフェールのことを不安に思う)




 

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