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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第二章 片鱗を見せる

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27.フロノスとの模擬戦について 下

 「……まぁ、凄いですわ」

 「………これは」

 こっそりとヴァンとフロノスの模擬戦を見つめている人影が居る。それは、カインズ王国の第三王女であるナディア・カインズとその侍女であるチエである。

 二人の模擬戦の様子を見据え、感嘆の声を上げるナディアと驚愕した目を向けるチエ。

 そんな二人の周りを召喚獣たちは得意気に声を上げる。

 『いやいや、ご主人様ならあんな奴瞬殺できるはずだぜ!』

 『普通の殺し合いならねー。模擬戦だからあまり危険なのダメって言われたから手加減しているらしいからねー』

 《ブルーマウス》のエレと《ホワイトドック》のワートの言葉である。

 「手加減している? これでですの?」

 『そうですわ。ご主人様が本気を出して魔法を放てば、このあたり一面が焼野原になることでしょう。そしてあのフロノスという少女は間違いなく死亡しますわ』

 『でも手加減を覚えるのは良い事だよな。主は自分の実力とか全然理解していないから、手加減の仕方覚えていないと大変なことになるしな』

 次に言葉を発したのは、《ブラックスコーピオン》のカレンと《ファイヤーバード》のフィアであった。

 事実、ヴァンは魔法の威力といった意味では手加減をしていた。

 というのも、三か月前ディグがヴァンに魔法を放つように言った際に、ヴァンの出来る最大の魔力を込めて火の玉を作って放とうとし、そのあまりの威力にディグから禁止令が出たためだ。

 そしてディグはヴァンに手加減を覚えさせなければ大変なことになるとその身で悟ったために、人に魔法を向ける際には相手が殺すべき敵ではない限り手加減をするように言いくるめたのであった。あと魔法で相手を殺す場合でも、相手だけを殺して周りに被害がいかないようにするようにも言いくるめてあった。

 相変わらずヴァンは自分の実力をいまいち理解していなかったりするのだが、ディグがあまりにも必死に言うので手加減をしなきゃいけないということは理解したらしい。ちなみにその時のディグはヴァンに説明するだけのことにどうしようもないほど疲れ切っていた事は言うまでもないことである。


 そして二人と四匹は、真っ直ぐにヴァンとフロノスの模擬戦を見つめるのでった。




 さて、まさか思い人であるナディアに見られているだなんてこと欠片も想像さえもしていないヴァンは、目の前に立ちふさがる姉弟子とどう戦うべきかと思い悩んでいた。

 フロノスが召喚獣と契約をしていないという事も踏まえて、召喚獣の使用も禁止されている。魔法も手加減を覚えるように言われて、未だにどのくらいの強さで魔法を放つべきかを試行錯誤しながらしている。

 (……『火炎の魔法師』って呼ばれている師匠の一番弟子だからなぁ。フロノス姉って強いし)

 三か月の間でなんだかんだでフロノスとの距離を縮めているヴァンは、フロノスの事をフロノス姉と呼ぶようになっていた。

 フロノス・マラナラは、決して弱くはない。寧ろその年にして、そのレベルに到達しているという点では恐るべき少女である。第一、色々と異常なヴァン相手に、まだヴァンが対人戦をよくわかっていないという事を抜きにしてもやり合えている時点でフロノスも十分普通から逸脱した存在である。

 ディグに見つかるまで、ヴァンのやってきた戦闘というものは圧倒的に自分より弱い存在を相手に一撃で沈めるといったものばかりであり、戦う事に関してヴァンは素人である。

 (どうやったらフロノス姉から一度でいいから勝てるかな。師匠は俺に才能があるなんていっていたけれど、ナディア様を隣で守れるぐらいには全然なれてない)

 ヴァンが自分の事を異常だと理解出来ないのは、なんだかんだ言いながらも自分より上を行くディグとフロノスが居るからというのも一つの原因であろう。

 フロノスはまだ、一度もヴァンに勝利を譲っていない。それはフロノスが必死に食らいついてきた結果であるが、そんなことヴァンはさっぱり理解していない。

 こうしてヴァンがどうするべきかという思考をしている間にも、フロノスは動き出していた。

 一瞬の隙を許さないとでもいうように、神経を尖らせていたフロノスはもちろんのことヴァンの迷いを察していた。察していたからこそ、そこを突いた。

 ヴァンが武器の扱いを手馴れてないことを知ったうえで、あえて魔法ではなく長剣で突撃していく。魔法ばかり連発していても跳ね返されたりで、こちらに不利になることが多かったということからも、フロノスはヴァンと模擬戦をする際は魔法は最低限しか使わないようにしていた。

 身体強化の魔法を自分にかけ、加速しながらヴァンへと向かっていく。

 その時々、ヴァンが一言二言で形成し、放ってくる魔法はフロノスにとって予測済みであった。そして、予測しているからこそそれに対する対応はなんとかできた。ヴァンから放たれた魔法をすべて跳ね返すなり避けるなり、切るなりしたあと、全ての魔法を見切られて次にどうすればいいかと思考しているヴァンの首元に長剣を当てた。

 「―――また、フロノスの勝ちだな」

 そんな一言が模擬戦を見ていたディグから放たれる。

 そしてヴァンとフロノス・マラナラの模擬戦は本日もまたフロノスの勝利で終わるのであった。



 それが終わった後、ナディアたちがその場にいた事に気づいていたディグによって、ヴァンはナディアに見られていた事を知り、「ナディア様に見られていたのに勝てなかった」と落ち込むのであった。





 ―――フロノスとの模擬戦について 下

 (才能があっても戦い方を知らないままでは才能の無駄でしかない)




 

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