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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
番外編 8

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サモナー公爵家の次男 1

 一人の金髪の美しい少年がつまらなそうな顔をしながら、街の子供たちに囲まれている。不機嫌そうな顔をしているアレキセイに対して話しかける彼らに対して一瞥するものの、何も言葉は返さない。

 そして「はぁ」と面倒そうな溜息を吐くと、踵を返してサモナー公爵家へと戻っていくのである。

 アレキセイ・サモナーは公爵家の子息という立場であるが、街によく降りていた。通常の公爵子息という立場では、こんな風に街に下りることはあまりないだろうし、公爵領のものたちとの距離が近いことはないだろう。

 アレキセイという少年がこうして自由気ままに生きていられるのには理由がある。それは此処がある意味特殊な公爵領だからであると言えるだろう。

 このサモナー公爵家は、今は行方不明になっているヴァン・サモナーをこの国に留めていくために与えられたものである。ヴァンは契約をしている大勢の召喚獣たちを公爵領や王国のために動かしていた。今はヴァンが行方不明になっている事もあり、公爵領にいる召喚獣は少ない。けれどヴァンが居なくなった当初に公爵領に残っていた召喚獣はこの土地に留まり続けている。

 彼らが常に公爵領を見て回っていて、危険は少ない。特にサモナー公爵の次男であるアレキセイのことは召喚獣が気にかけていたり、領地の人たちが気にかけていたりとそういうことがあるので公爵子息でありながら比較的自由に過ごしている。

 あとはヴァンが元平民で、領民たちとの距離が近かったからというのもあるだろう。

 街に出れば行方不明であるヴァンとナディアの話ばかりが聞こえてくる。アレキセイが何かを出来れば「流石ヴァン様の子ね」「流石ナディア様の息子だわ」と言われることも多い。

 自分が何かしたとしても、それは全て偉大であるという両親のことに結び付く。そのことにに、どうしようもないほどもやもやとした気持ちを抱えている。

(そもそも本当に俺の父親は、そんなに偉大だったのだろうか。召喚獣達は凄い存在だっていうけど、あの召喚獣達がそこまで凄いのか? って思うし。それに『破壊神』と呼ばれるぐらい凄いとか、絶対過大評価だろ)

 ……アレキセイはヴァンの召喚獣達が身近にいすぎて、逆にその偉大な召喚獣たちの凄さを実感できていなかった。基本的に召喚獣たちは小型化してアレキセイの傍にいて、アレキセイがヴァンの息子だからとよくしているのだ。

 たまに暴れたい時は勝手に魔物を狩ったりしているが、その様子をアレキセイに見せることも特にない。

 ヴァンやナディアが居なくなったのがアレキセイがまだ幼いころで記憶がほとんど残っていないからというのもあるだろうが、正直言ってアレキセイはヴァンやナディアという存在が言うほど凄くないだろと思っていた。

 それなりに魔法の才能があるアレキセイは、自分の方が凄いのではないかという驕りも抱いていた。

 ……そんなアレキセイ、両親たちのことを色々言われるのも好きではないし、召喚獣たちのこともいつもそばにいてうっとおしいとさえ思っていた。

 心の底から嫌っているようなわけではないが、いつか大人になったら外に行くんだ、外で生きていくのだなどと野望を抱いている。ただし、アレキセイは何だかんだ公爵子息としか生きてきていないので恐らく一人で生きていくことは現状不可能だろう。

 アレキセイの傍にいる召喚獣たちは、アレキセイがそんな風に思っていることを知っているが、どうせ出来ないだろと思っているので放置している。とはいえ、彼らはあくまでヴァンと契約をしているのであってアレキセイとは契約していないのでたまに苛立っている時もあるようだ。

 ただヴァンがいなくなる前に「息子たちの事を頼むよ」と言っていたのでちゃんと見ているだけである。

(……兄上は父さんと母さんが戻ってくると思っているらしいけど、絶対無理だろ。絶対戻ってこない。いつまでも父さんと母さんの幻想に縋っているなんて馬鹿らしい。俺はいつか父さんや母さんより凄い存在になってやる)

 そんな風に考えているアレキセイであった。

 


 アレキセイは街から屋敷へと戻る。

 ヴァンやナディアが行方不明だというのがあり、アレキセイの面倒を見ているのはこの屋敷に昔から使えているものたちや、公爵家に住んでいる一人の少女である。

「アレキセイ、おかえり」

「……ただいま」

 その少女はかわいらしい笑みを浮かべている。左右が異なる耳、犬耳と熊耳を持つ。片目は爬虫類のような瞳。手には水かきがついていて、尻尾もはえている。足は毛でおおわれている異形の少女。

 そのスノウの笑みにアレキセイはぶっきらぼうな態度で部屋に戻るのだった。




 ――サモナー公爵家の次男 1

 (サモナー公爵家の次男は、両親の記憶がほとんどなく、そんなもやとした気持ちを抱いている)



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