第二王女と、火炎の魔法師 1
「ああ……ディグ様がかっこいい」
そう口にして、昂然とした表情を浮かべるのはカインズ王国の第二王女であるキリマ・カインズ。
茶髪の髪に、金色の瞳を持つ愛らしい少女だ。公共の場では、完璧なお姫様を演じているキリマだが、身内の前では暴走をし始める。
そんなキリマは今日も今日とて、『火炎の魔法師』ディグ・マラナラの事を見つめて、一途に思い続けている。
(……ナディアはヴァンと婚約をしているし、フェールお姉様はザウドックと結婚することになってるし。ああ、もう私もディグ様と結婚したい!!)
ディグと結婚したい、と望んでならないキリマは自分の姉妹の事を考えて羨ましいと思ってならなかった。
第三王女のナディア・カインズは『破壊神』として名を広めているヴァンと婚約を結んでいる。
第一王女のフェール・カインズは『雷獣の騎士』と呼ばれているザウドックと結婚が決まっている。
だが、キリマはそのような事が決まっていない。
キリマは『火炎の魔法師』ディグ・マラナラに恋焦がれて仕方がないが、ディグはキリマの事を相手にしようとしていない。
「私も……もうすぐ18歳になるのに。そろそろお父様に結婚相手を決められてしまうわ。……私は王女。王の娘なのだから、政略結婚は当たり前だけど……でも」
キリマもきちんと自分が王女だという事を自覚している。自分は王の娘であり、結婚に自由が持てているのは国王であるシードル・カインズが娘を大切に思っていてくれているからでしかない。そのことをきちんと知っているからこそ、ディグ・マラナラに求愛出来るのである。その自由があることは嬉しい。けれども、その自由が実らない事は悲しいと思う。
(はぁ……ディグ様はどうやったら私の事を見てくれるんだろう。ディグ様からしてみれば、6歳も年下の私は子供でしかない。ディグ様は……沢山の女の人と遊んでいて……うぅ、綺麗な人とか沢山知ってて。ああ、でもそれでもディグ様、素敵)
どうやったら見てくれるのだろうか。そう考えるものの、頭の中はまとまらない。キリマはディグより6歳も年下だ。自分が6歳年下の少年に告白されたらと考えると、それを子ども扱いしない自信はない。……そう考えると、その年の差がもどかしく感じる。
(もっと、ディグ様と年が近ければ——ディグ様はもっと私の事をきちんと大人の女性としてみてくれるのだろうか。ううん、考えても仕方がないわ。だって……私とディグ様は現実で6歳離れているのが事実だもの。それにもし年が近かったら私はこんなにディグ様の事を好きになれなかったかもしれない。そう考えると……これで良かったのかもしれない)
キリマはもし自分と年が近ければと望んだけれど、もしそうなら今のようにディグに惹かれなかったかもしれないと考えて頭を振る。
「……ディグ様、ディグ様はどうしたら私を大人の女性としてみてくれるのかしら」
そんな独り言をいうキリマ。キリマはこうして周りが身内ばかりの時は、すっかり独り言を言ったり、ぶつぶつと妄想をしていたりと知らない人が見れば変な王女でしかない。しかし周りにはキリマを良く知る侍女しかいないので、また言ってらっしゃるという目を向けるだけである。
(大人の女性としてもっと見てもらうためには……私を一人の女性として。そろそろディグ様を追いかけるのもタイムリミットが近づいてきているのだもの)
もう時間がない。
そろそろ、ディグを落とせないとなると婚約者を決められ、嫁いでいく事になってしまう。
そのことを自覚しているからこそ、キリマは焦りを覚えている。
(ディグ様、私は——ディグ様と結婚したい。ディグ様が幾ら私の事を見てくれてなかったとしても——私を好きになってほしい。ディグ様が好き、大好き。だからこそ、ディグ様と結婚したい。もっと——ディグ様が私を見てくれるように努力しなきゃ。やるだけやって駄目なら——諦める。うぅ、出来たらあきらめたくはないけど、でも……人の心は分からないもの。だから、やるだけやる。やるだけやって、ディグ様を振り向かせるために頑張る。私は……ディグ様の事を諦めたく何てないから)
あきらめたくない。
だけれどもタイムリミットは近づいてきている。
それを自覚している。
だからこそ、やるだけやって駄目ならあきらめようと一人決意するのだ。
(ああ、ディグ様……私の事を見てください!!)
キリマはそんな願いを一人祈って、頑張る事を決意したのだ。
――第二王女と、火炎の魔法師 1
(カインズ王国の第二王女は『火炎の魔法師』を落としたくて仕方がない)




