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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第九章 外交と、波乱の幕開け

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196.王女に会いたい少年について

12/15 三話目

「……ナディアに会いたい」

「ヴァン、煩いわよ。会いたいといったところでナディア様に会えるわけではないのだから、きりきり動きなさい」

 ナディアが外交に出かけてから、ナディアに呆れられないように頑張ろうと決意していたヴァンだが、やはり時折婚約者であるナディア・カインズに会いたくなって仕方がなくなってしまうのか、そういう言葉を口にしていた。

 姉弟子としてヴァンの側にいるフロノスは特にその言葉を散々ヴァンから聞かされていてうんざりしていた。

 どうしてこんなにも基準が全てナディアなのか。ナディア・カインズというたった一人の少女がいないだけでこんな風になってしまうのか、フロノスには理解出来なかった。

 こんな風に一人の少女が外交に出かけているだけで、落ち込み、情けなく見える少年が自分よりもずっと召喚獣を従えていて、魔法の才能もあると思うと少しだけ理不尽な思いに襲われる。

(ああ、もう。考えても仕方ないわ。結局、召喚獣を大量に従えて魔法の才能もある存在にもっとしゃきっとしてほしいというのは私の押し付けだわ。それは分かってるのだからそういう考えを押し付けようとするのはやめましょう。私はヴァンの姉弟子なのだから——。それにしてもヴァンはナディア様が何処か行くたびにこんな風になるのかしら? たまたま婚約したてに離れなければならなかったから? ……これからもずっとこうだとしたら王女の婚約者としては問題なのだから今度こういうことになる時にまたこうなるならきちんと言わなければ)

 才能がある存在にはこうあってほしいというのは押しつけだ。そう理解しているからこそ、フロノスは自分のもっとしっかりしてほしいという思いに蓋をする。そして姉弟子としてちゃんとしなければと思う。今、二人の師匠であるディグ・マラナラは国には居ないのだからヴァンを導くのは姉弟子であるフロノス・マラナラの役目である。

「わかっているけど……ナディアに会いたい」

「ヴァン、貴方は自覚はないかもしれないけれどとても強い力を持ち合わせているわ。貴方は私よりもずっと才能があって、名を残す可能性を沢山持ち合わせている。私は正直、そんなヴァンの事が羨ましいとさえ思う」

「フロノス姉が羨ましい?」

「そうよ。本当にもう……ヴァンはもう少ししっかりしたほうがいいわ。感情を素直に出しているところはヴァンの良い所かもしれないけれど、ナディア様が貴方にとって弱味になるのだと全面的に肯定するのはやめた方がいいわ。だって、ヴァンはこれからきっと有名になる」

「有名に?」

「……ええ、本人であるヴァン以外は多分皆思っているわよ。だからこそ、ヴァンが大切にしているナディア様が狙われる恐れもあるわ。王女だからというのもあるけれど、ヴァンの大切な存在であるからもある」

 フロノスはそう言いながらヴァンの事を見る。

「まだ、こういう選択肢はヴァンには必要ないかもしれない。でも、あえていうならば、ヴァンはナディア様を大切だという事を外に出しすぎないほうがいいかもしれない。それか、ヴァンの力を世界に思い知らせて、ヴァンの大切なナディア様に手を出されないようにするか」

 そう口にしながら、フロノスは後者の方がヴァンには楽かもしれないと思う。

(ナディア様の側に居るためにって色々学んできているけれど基本的に自分の気持ちに素直なヴァンなのだから、思いっきり一回暴れた方が後から楽なのかもしれない。いえ、でもそんな事態になったら恐ろしいけれど)

 フロノスの言葉をヴァンは珍しく神妙な顔で聞いている。そのような表情になるのは、話題がナディアの事だからだろう。

 ナディア・カインズという存在を大切にしているが故にそのことだけをきちんと考えるヴァンである。

「そうしたほうがいいの?」

「私はそう思うわ。でも、あくまで私の意見だからちゃんと他の人にも聞いて、それからヴァンがどうした方がいいかきちんと考えてから行動したほうがいいわ」

 慌ててフロノスは付け加える。今、告げた言葉はあくまでもフロノスが個人的に考えていることである。ヴァンはフロノスの事を姉弟子として認めていて、割とフロノスの言う事を素直に聞くので、それで何かやらかされても後から困りそうなので慌てて付け加えたのだ。

「まぁ、ナディア様に会えないからって落ち込むのは……私とかの前ではまだいいわ。でもそれ以外の前で出すのはやめた方がいいわ。ナディア様の婚約者として、あまりにもそういう姿をさらけ出すのは駄目だと思うもの。ヴァンへの評価は婚約者であるナディア様への評価につながるのだから。まぁ、ヴァンはナディア様が外交中、魔物退治をしたり、見回りをしたり精力的に動いているし、ナディア様がヴァンを嫌う事があるなんて想像もつかないけれど」

「……じゃあそうする」

 やっぱりフロノスに対してそれなりに素直なヴァンは、その言葉に頷くのだった。

 


 ―――王女に会いたい少年について

 (第三王女に会いたくて仕方がない少年は、姉弟子に言葉をかけられている)



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