189.デートについて 4
「次はどこいく?」
「そうね……、今度はデートスポットに行きましょう。私、侍女達からも話を聞いてデートスポット調べてきたの」
王立図書館を後にしたヴァンとナディアは手を繋いで、仲良く王都を歩いていた。
ヴァンの問いかけに、ナディアは笑って答える。
よっぽどナディアはデートというものを楽しみにしていたのだろう。しっかりと王都内のデートスポットを調べていた。デートスポットと呼ばれている場所は、王都内にある公園だった。花々が咲き誇る公園には、ヴァンやナディアたち以外にもカップルと言われる存在の姿がちらほら見える。中には恋人がいないからか、またカップルがきたと冷めた目で視線を向けてくるものもいるわけだが、そんな視線二人は気にしない。ナディアはヴァンが隣にいることに安心しきっていて、そういう視線を向けられていても大丈夫と思っているようだ。
「ナディア、あそこでお菓子売ってるけど食べる?」
「そうね」
本来ならば王族であるナディアは毒味なしに食事をとる事はないが、ヴァンに与えられた誕生日プレゼントは毒を無効化する効果までついているので問題はない。何よりもヴァンや召喚獣たちが傍に居る状況でナディアの事を傷つけられる存在などいるはずもなかったのである。
デートスポットである公園では、ベンチに座って食べられるように簡単なお菓子売り場があった。カップルたちの中には、あーんをしながら食べさせているカップルもいたぐらいである。
クッキーの詰め合わせと飲み物を買い、ベンチに腰掛ける。こうしてベンチに座ってヴァンとのんびり過ごせる事がナディアには嬉しかった。
「ヴァン、口を開けて」
ナディアはあーんをしているカップルを見てしまっていたので、ヴァンにそれをしてあげることにしたようだ。ヴァンはそんなナディアに戸惑うが、にっこりと笑っているナディアを見てその手に持つクッキーを口にする。
「ふふ」
ナディアはヴァンとこんな風に過ごせて満足そうに笑っている。
「ねぇ、ヴァン。外交が終わったらまたこうしてデートしましょう。此処じゃない場所でもいいから。どこでも私はヴァンと一緒に思い出を作っていきたい」
「うん、俺も」
「私はヴァンとの未来のためにも、外交を頑張るわ。外交は不安だけど……でも頑張ろうって思えるのは、ヴァンがいるからなのよ?」
「……うん」
ヴァンはナディアが外交に行くこと、自分がついていけない事、そのことに対して納得しようとしている。ナディアの意志だからこそ、尊重したいと思っている。だけれど、やっぱり一人で海外に出るナディアの事を心配してならなかった。
心が通じ合えたからこそ、余計離れがたいという気持ちも大きい。
「それに、もし何かあったならヴァンは私を必ず救い出してくれるでしょう? 私のことを守ってくれるでしょう?」
「うん、それは当然」
もし、ナディアの身に何かが起こったらなんてヴァンは考えたくもない。だけれども、世の中には絶対はない。平民であるヴァンがナディアと結果的に婚約を結ぶという本来ならありえないことが起こったように、もしかしたら——そういうことが起こってしまうかもしれない。
「そうやってヴァンが言ってくれるから私は頑張れるわ。本当に、いつも守ってくれてありがとう」
ナディアは改めて思う。
ヴァンが自分の事を守ってくれていることへの感謝を。
長い間、ヴァンはナディアの事を守っている。最早守ってもらえるのが当たり前と思ってしまうほどに、常にナディアは守られている。だけど、それを当たり前などと思ってはいけない。
ヴァンが守ってくれるからと、それで好き勝手に動くのはいけないのだ。
(ヴァンは私の事を好いてくれている。だけど、人の心はどう変わっていくかもわからない。私はヴァンとずっと一緒に居たい。だから、もっと好かれるように。私の事を好きだってずっと言ってもらえるようにしたい。だからこそ、ヴァンが守ってくれるからって、ヴァンが私を好いていてくれるからって、自分まで大きくなったように見せたらならないと思う。召喚獣たちは私を守ってくれているし、私を大切に扱ってくれているけれど、それは全てヴァンが私を好いてくれているからなんだから)
ナディアはヴァンという婚約者を手にした。ヴァンという強大な力を持つ存在に守られている。だけれども、自惚れてはならないのだ。
ヴァンの力や召喚獣たちはあくまでヴァンのものである。そして人の好意というものは、何も返さないでずっと継続していくものでもない。
だからこそ、ナディアは気を付けなければならないと思っている。ずっと一緒に居たいからこそ、思いやりや大好きだという気持ちや感謝をヴァンにきちんと伝えたいと思った。
「俺はナディアを守りたいから守ってるだけだよ」
「でも、本当に助かってるの。本当にありがとう。大好きよ、ヴァン」
ナディアは少しだけ恥ずかしいけれど、こうして自分の気持ちを伝える。そしてヴァンの頬に手を伸ばして、その頬に口づけをした。
それだけでもヴァンは固まっている。
(ヴァンがいつか自分から口づけしてくれるようになったらいいなぁ)
と、ナディアはそんなヴァンを可愛いと思いながらも考えるのだった。
そんな風に過ごしていき、二人のデートは終わった。
――デートについて 4
(公園で他のカップルたちも多く居る中、二人は仲良く過ごすのだった)
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