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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第八章 婚約騒動と二人の関係

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176.誕生日当日について 1

 ナディア・カインズの誕生日の当日がやってきた。ダーウィン連合国家の公子であるゾンド・ヒンラもまだカインズ王国の国内に滞在していた。誕生日までの間にもゾンドはナディアとの距離を深めようと必死だった。しかし、ナディアはどちらかというと心ここに非ずと言った様子だった。

 というのも、

(ヴァンは……何を考えているのかしら。ヴァンは私の事を大切には思っていてくれているけれど、私が誰かと結婚をしてもいいのだろうか)

 と、そんなことを考えていた。

 ヴァンは自分がどう考えているか自覚して、ひとまず誕生日プレゼントの作成をしていた。一つの事に集中してしまう性格のヴァンは誕生日にナディアにプレゼントをあげよう! とそればかり考えていて、その前にナディアに何かを伝えるという行動を思いついてもなかったようだ。

 そのため、ナディアが婚約を結ぶかもという話を聞いた後にヴァンはまだナディアに会いに来ていなかった。

 その事がナディアの心を乱している、なんてことをヴァンは考えていないのだ。ヴァンはあくまで、王女であるナディアが自分の事で心を乱すなどという事を一切考えていなかったのであった。

『……ナディア様が不安がってるんだが』

『小生、主様にお伝えしたほうが良いかと思うのですが』

『わたくしは放っておいていいのではないかと思いますわ。だって主様あるじさまはちゃんと考えておりますからね。そもそもこれでナディア様を捕まえられないようでしたらそれは主様あるじさまがそれだけの男であるということですわ』

 不安がっているナディアを横目に心配そうな《ファイヤーバード》のフィア、ヴァンに伝えるべきではないかと考えている《サンダースネーク》のスエン、案外冷たい言葉を言い放っているナインテイルフォックス》のキノノ。その三匹の召喚獣がナディアの不安げな顔を見守っている。

 ヴァンよりもナディアの心を理解しているからもしれないと言える。彼らは正しく、ナディアの不安を理解していた。

『主、何か考えてはいるんだろ?』

『ええ、ええ、主様あるじさまはきちんと考えておりますわ。だってわたくしの主様あるじさまですもの。きちんとやってくれるはずですわ。わたくしは主様あるじさまがそんな風に動いてくれる事をわたくしはとても期待しておりますの』

 フィアの言葉に、キノノはそれはもう楽しそうに声をあげている。

 《ナインテイルフォックス》のキノノは、生物を魅了する能力を持ち合わせている。それでいて人の恋愛などにヴァンの召喚獣たちの中でも一番興味を持っている。ヴァンとナディアがどんなふうになっていくのかというのを考えるだけでも面白くて仕方がなかった。

『もう始まりますな。ナディア様の誕生日パーティー』

『あの男がナディア様を本気で落とすって言い張っていたけれど……まぁ、今の所ナディア様の心は落ちてはないみたいだしな』

『さて、どうなるのかしらねぇ』

 そんな風に三匹がわちゃわちゃする中でナディア・カインズの誕生日パーティーは始まることとなる。




 ナディア・カインズはパーティーの会場にレイアード・カインズに手を引かれながら入る。ナディアの視線は、ヴァンの事を探していた。

 何も言わないヴァンが何か言ってくれないのだろうか。そうナディアは心の奥底で思っている。あれから何も言わず、何も行動を示さないヴァン。

 そのヴァンを視界に留める。

 ヴァンの姿を見て、ナディアは思わず目をそらしてしまった。

 ヴァンが何を言うのか、どう思っているのか、それを思うと思わず目をそらしてしまった。

(公の場なのだから、私は王族なんだから、私情でこんな風に表情を出さないようにしないと。そうしようと目指していたはずだもの。―――私はヴァンに守られるのに相応しくなるぐらいの王女になりたいって願ったんだから。ならば、もっときちんとしないと)

 王族として、王女として、公の場で表情を変えないようにしたいとナディアは思っていた。なのに、今それが少しだけ出来ていない。それだけ心が乱されてしまっている。

(ふぅ……とりあえず落ち着きましょう。大丈夫、私はちゃんとやれるわ)

 自分を励ますように、心の中でナディアは自分に言い聞かせる。私は大丈夫だと、その言葉を復唱して、気合いを入れた。

 そしてヴァンのことをナディアははっきりと見る。ヴァンとナディアの目があった。ナディアにはヴァンが何を考えているのかさっぱり分からなかった。

(―――ヴァンが何を言いたいのか、何を思っているのかちゃんと聞こう)

 そしてナディアはヴァンの目を見て、改めてそう決意する。ヴァンが何を言うのだろうと考えて、会いに行こうともしなかった。

(何を思っているか聞くのは怖いけど、でも聞きたいと思うから)

 そう思うから、ナディアは逃げない事を決めた。



 ―――誕生日当日について 1

 (誕生日の当日が始まった。そして第三王女様はきっちり向き合う事を決めた)



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