163.第三王女様の感謝について
「ヴァン! 本当に……本当にありがとう」
ナディアは、ヴァンが友人を助けたのを知ってヴァンの元へやってきた。ナディアは、自分の友人であるイクノ・オーランが助けられたことを心の底から喜んでいた。そして王族として友人であるイクノだけではなく、他の国民たちも助けることが出来てほっとしていた。
(……もし助けられなければ他国に連れていかれたりしていた可能性もあったわけだし、本当にヴァンには感謝しかないわ)
もし、助けられなかったらさらわれていた者達がどうなってしまっていたか分からない。それを思うと本当に心からの感謝しかないナディアである。
「ナディアの友人、助けられて良かったよ」
ヴァンはナディアが笑ってくれることが嬉しいといった様子でナディアのお礼を受け止める。
「ヴァンは……本当、凄いわ」
「俺は凄くないよ」
「ううん、凄いわ。……私の側より、他に居る場所があるんじゃないかって思うぐらい」
「何いってるの? 俺はナディアの側にしかいたくないよ」
「……そういってくれて、本当に嬉しいわ。ヴァンは私にはもったいないぐらいだもの」
ナディアは本当にそう思う。ヴァンという存在は自分にはもったいない存在だと。これだけの圧倒的な力を持ち合わせていて、真っ直ぐに自分に好意を向けてくれている。そのことに嬉しいと心から思う。
自分の側に居たいと、思ってくれていることが嬉しい。だけれどもこれだけ凄い少年を自分の側においていることはもったいないことなのではないかと、やっぱりまだヴァンに好意を持たれるのに相応しいほど自分は頑張れてないとそんな風にも思ってしまうのだ。
「もったいない? なんで?」
「ふふ、ヴァンは本当に、全然変わらないわね。自分がやりとげたことも全部凄いことなんて思う事もなくて、それでいて平然としてる。ヴァン、貴方は本当に凄いのよ?」
「そう? 俺ナディアの友人助けただけだしなぁ」
本当に、ヴァンという存在はぶれることが一切ない。ヴァンはナディアのことしか見ていない。他のもののことはどうでもいいとさえ思っている。周りの目が変わっても環境が変わってもヴァンという存在は何一つ変わることがない。
それは凄いことだ。
「合成獣の少女を連れて帰ったのでしょう。彼女のことも野放しにされてたら対処できる人全然いなかっただろうし、大変だったと思うの。それだけでもヴァンは本当に、凄いことをしたのよ」
ナディアは合成獣の少女にはまだ直接会っていないが、その話は聞いている。魔物と人間を合成する、そしてその存在が敵として存在していたという事実は本当に恐ろしいことであったと思う。それがヴァンが動いたことによって最悪の事態にはならなかったのだ。
シザス帝国にとっての大きな戦力であった少女をその国から手放させることが出来たのだ。
(合成獣……魔物と人間を組み合わせようなんて考えるなんて本当に恐ろしいこと。他にも成功例がいたとしたら恐ろしいことになるわ。お父様がシザス帝国に働きかけるとはいっていたけれど——)
ヴァン達が見つけた水中施設の件に対しても働きかけはしていたものの、その後こんな一件まで起きてしまっている。シザス帝国に対する他国の目は厳しくなっていくことだろう。実際に、色々な国で同じような事が起こっているということをナディアは父親に聞いていた。シザス帝国にかかわりがあるという証拠をつかめていない国も多いそうだが、カインズ王国で起こった類似事件がシザス帝国が黒幕だとわかっているのでシザス帝国との貿易を取りやめている国も出てきている。カインズ王国も件のことも含めて貿易を現状取りやめている。
(……何か仕掛けてきたりする可能性もあるかもしれない。その合成獣とされている子のような存在が戦争に駆り出される可能性だって多くある。どうなるか、不安だわ)
ナディアの頭の中では今後どうなっていくのだろうと、不安が芽生えていた。
「ナディア、どうしたの?」
「……少し、これからどうなるのだろうと不安になっていたの」
「ナディア、大丈夫だよ。ナディアが不安に思うこと、俺が全部排除するから。だから、ナディア、笑って? 俺ナディアが笑っててくれると嬉しいから」
「ええ」
これほど心強い言葉はないと、ナディア・カインズは思ってならない。
(ヴァンが私を守ってくれる。―――その事実があるだけで、本当に大丈夫だという気持ちになる。それは、ヴァンが傍にいてくれるから)
ヴァンが守ってくれている。傍にいてくれている。その事実があるから大丈夫だという気持ちがナディアは芽生える。
「ヴァン、ありがとう。ヴァンがいてくれるから私、大丈夫だって思えるもの」
「本当? なら、良かった!」
自分の言葉でナディアが笑ってくれたこと、そういってくれたことが嬉しくてヴァンも笑うのだった。
――――第三王女様の感謝について
(第三王女様は、感謝の言葉を口にする。友人を助けてくれたこと、そしていつも守ってくれていること、全てへの感謝を)




