141:第一王女様とザウドックについて 1
さて、ザウドック・ミッドアイスラは、カインズ王国の第一王女であるフェール・カインズに惹かれていっている。カインズ王国にルクシオウス・ミッドアイスラとザウドック・ミッドアイスラがやってきたのは、シザス帝国がやっかいな動きを起こしているからである。
その話し合いをルクシオウスとディグとシードルの間で進められている。同盟国である互いの国で、どのようにシザス帝国に対応していくかというのは重要な問題なのである。
ザウドックは、ルクシオウスの弟子という形でついてきたわけだが、今はそういう自国の目的はザウドックの頭からは消えている。
ザウドックの頭の中は、フェール・カインズのことでいっぱいになっている。
(あの綺麗な人と、どうやったら仲良くなれるんだろうか。もっと話しかけにいってもいいのだろうか)
そんなことを悶々と考えながらも、難しいことを考えるのが苦手なザウドックはフェールに話しかけるのは緊張するが、仲良くするためには話しかけるしかないと、フェールによく話しかけるようになる。
第二王女であるキリマと第三王女であるナディアは、フェールを好きになったザウドックには協力的であり、第一王女と他国の英雄の弟子という立場であったが、会う機会を作ってもらっていた。
そのことに、国王と王太子はもちろん煩かったが、キリマとナディアが全面的に応援しているのもあって強く反対が出来ていなかった。
「あ、あのフェール様」
「あら、最近、よく会うわね」
「ええ、っと。はい!」
「ふふ、緊張しているの? 貴方、本当に緊張しやすいのね」
フェール、自分にザウドックが好意を抱いているということが相変わらずわかっていないため、ザウドックのことを緊張しやすい人間だとしか思っていなかった。
「フェ、フェール様とはなしているからです!」
「私と話しているから?」
フェールは不思議そうな顔をしながらも、ザウドックを見る。フェール、何故、ザウドックと会う場をキリマたちが作ったかも全然わかっていなかった。
ザウドックは露骨な態度をしているが、気づいていないのである。
「は、はい! あの、フェール様」
ザウドック、一生懸命フェールに話しかける。
(……な、何を話そう。フェール様のこと、知りたい。知りたいけど、何を聞けばいいんだろうか。フェール様と二人、緊張する)
ザウドック、呼びかけたものの、何を話しかけたらいいか毎回悩んでいた。仲良くなりたい気持ちは強いが、こんな風に誰かを気にしたのは初めてで、どのようにしたらいいかも分からなかった。
そのため、
「フェール様は、好きな人とかいますか!」
頭の中がこんがらがった結果、そんなことを口走っていた。
聞いた瞬間、ザウドックは固まってしまった。
(お、俺は何を聞いているんだ。俺は……。こんなことを聞いてどうするんだ。しかもフェール様に好きな人がいるとかだったら俺はどうするべきなのだろうか。俺、なんでこんなこと、聞いているんだろうか。どうしよう。どうしよう。フェール様はなんて答えるのだろうか)
自分で何を聞いてしまっているのだろうか、と、ザウドックは思考する。
ザウドックの言葉にフェールは驚いた顔をして、そのあと笑った。
「まぁ、どうしてそんなことを聞きたいのかしら?」
おかしそうにいって、続ける。
「好きな人とか、そういうの、ないわ。だって私は王女よ。王家の一員だもの。キリマやナディアはそれぞれ好いている人がいるけれど、私はそういうのないわ。私は王家の一員として、この国のために結婚を結びたいもの」
国のための結婚。それをいずれするだろうと、フェールは思っている。
(……今まで我儘な王女として、色々起こしてきてしまっていたもの。人に恨まれるような真似も私は散々してきたもの。だからこそ、国のために結婚をしたいと、思うもの。そりゃあ、誰かを好きになってみたら……っては思うけれど)
フェールだって、そういうことに憧れないわけではない。だけれど、我儘な王女として生きてきた自分がそういう風に愛されたり、誰かを愛したりすることはないだろうと、思ってしまっている。
「だけど、まぁ、私を……万が一好きだなんていう人がいたら考えるかもしれないけど」
「……じゃ、じゃあ……あ、あの……お、俺が、フェール様のこと、す、すすす」
「ん?」
「好きだって、好きだって、いったら………う、受け入れて、くれますか」
フェールの偽りのない言葉に、ザウドックは、どもりながらそう言った。
「え」
フェールは固まる。固まったまま、ザウドックを見る。ザウドックの顔は真っ赤だった。真っ赤に染まった顔。
……そして、先ほどの言葉。
(好き? 私を? え?)
フェールは固まったままだ。
「あ、あの、フェール、様……」
ザウドックはそういって、固まったままのフェールに手を伸ばそうとする。それに対し、フェールははっとなって。
頭がパンクした結果、その場からよくわからない声をあげながら駆け出してしまうのであった。
――――第一王女様とザウドックについて 1
(第一王女様は、ザウドックの言葉に思わず駆け出してしまうのだった)




