125.ヴァンの帰還を聞いて喜ぶ第三王女様について
「お父様、本当ですか!?」
ナディア・カインズはその日、父親であるシードル・カインズからその話を聞いて目を輝かせて、心の底から嬉しそうに言った。
「ああ。ディグ達が帰ってくる」
そう、ナディアはシードルから、ディグ達が帰ってくること……要するにヴァンが帰ってくる事を聞いたのだ。
ナディアはヴァンが居ない事を寂しいと心から思っていた。ヴァンと出会ってから、ヴァンが今回のように王宮から離れた事は初めてで、どうしようもなく、ふとした時に会いたいと思ったのだ。
それだけ会いたいと願ったヴァンが帰ってくるという話を聞いてナディアが嬉しくないはずもなかった。
(ヴァンが帰ってくる。ちゃんと無事に帰ってくる……良かった。向こうで何が起こっているか、私は詳しく分からないけれど、お父様が難しい顔をしていたし、きっと大変だったのだと思う。本当に、無事で良かった)
無事に帰ってきてくれることに、どうしようもなくほっとしていた。ヴァンが強い事をナディアはもちろん知っているけれども、強かったとしても万が一がないとは限らない。ナディアはヴァンに帰ってきて欲しかった。自分の隣に。自分が居る場所に。
(……ヴァンに隣にいてほしいって、私本当に思っているのですわ。自分の隣に帰ってきてほしいなんて思っているなんて)
王宮に帰ってきてほしいとかではなくて、自分の隣に帰ってきてほしいと思っているナディア。その気持ちを自覚して、温かい気持ちになる。
「ナディア、どうした?」
嬉しくて、言葉も発さないナディアにシードルは心配そうに問いかけた。
「いえ、嬉しくて……。ヴァンが帰ってくるんだなと思うと、本当に私は嬉しいのですわ。お父様」
「そうか……そんなに嬉しいのか」
頷きながらシードルは少し複雑そうな顔をしている。
ウーラン・カンダスは、そんなシードルの心情を読み取って、呆れた表情を浮かべている。
(相変わらずいまだに複雑な気分になっているのですか。ナディア様とヴァンの結婚の話も進めているだろうに)
そんな風に考えながら、言葉を発する。
「ナディア様、ヴァンは明後日にはこちらに帰ってくると思いますよ。初めての遠征で疲れているでしょうから、いたわってあげてください」
「はい。わかりましたわ」
ナディアはそう答えて、「失礼します」といってその場を後にする。
自分の部屋へと向かいながら、ナディアは嬉しそうに少し顔をにやけさせていた。
『主が帰ってくるからって嬉しそうだな。ナディア様は』
「……だって、嬉しいんですもの」
《ファイヤーバード》のフィアの言葉にナディアは答える。ヴァンが帰ってくることを本当に嬉しいと思っていて、それを召喚獣たちに隠す必要もないのである。そもそもナディアの気持ちは召喚獣たちにバレバレである。
『ヴァンが帰ってくるの嬉しいなぁ。どんなお土産話してくれるかな。ヴァンの事だから色々起こしているだろうし』
『そうですわね。どんな事があったのでしょうか』
《アイスバット》のスイと《ブラックスコーピオン》カレンが声を上げる。
ちなみに他の召喚獣たちは、見回りなどをしている。側妃たちがどうにかなったとはいえ、ナディアに何かあったら大変なので、ヴァンのためにも情報収集や見回りをずっとしている。
「ヴァンの事だからきっと色々起こしているのでしょうね。私はヴァンが何も起こさずにおとなしくしているの想像できないもの」
『ナディア様、正解! 主は色々と規格外だからな。何があったか詳しく聞かなきゃなー』
「でもちゃんと無事でかえってきてくれるのが本当に嬉しいわ」
フィアの言葉に、ナディアは嬉しそうにそう答える。
『ヴァンは心配しなくても大丈夫だって。だって、他の皆もいるしさー』
「スイ、でも私は心配なのよ。ヴァンが強いのは知っているけれども、それでもヴァンに何かあったらと思うと心配だもの」
強いとか、弱いとかそれは関係ないのだ。
(ヴァンだから、なのよね。ヴァンだから、私はこんなに心配している。やっぱり、私にとってヴァンは特別なのね)
ヴァンだから、心配しているのだとナディアは思う。
他の誰かではなくて、ヴァンだから。
『ナディア様がご主人様を大切に思っていて私は嬉しいですわ。是非とも、頑張ってきたであろうご主人様に、口づけでもしてあげてくださいね』
「口づけって、そんな事は……」
誕生日プレゼントの話をしたとき、キノノがいった言葉を思い出して口づけの話を出すカレン。ナディアの顔は赤い。
(……嫌じゃない。寧ろ、私の初めて、ヴァンに捧げるのは嬉しいと思うけど。でも、口づけって……)
自分がヴァンに口づけする事を想像して益々顔が赤くなってしまうナディア。そんなナディアを見ながら、召喚獣たちはどこか楽しげな顔をしているのであった。
―――ヴァンの帰還を聞いて喜ぶ第三王女様について
(ナディアはヴァンが帰ってくることが、本当に嬉しくて仕方がない)




