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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第一章 《英雄》の弟子になる

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10.王国最強の英雄とガラス職人の息子の人知れずな攻防について<6>

 「大量の召喚獣と契約した、自称平凡な平民のガラス職人の息子ねぇ」

 フィアをとっ捕まえ、ナディアの目の前でフィアからその情報を聞き出したディグはなんとも言えない顔をした。

 正直な話、そんな話信じられないとさえ感じていた。

 召喚獣一匹と契約する事さえも、大変である。召喚獣とは自由気ままなもので、気に入ったものではなければ契約を結ばない。最悪、呼び出したことで機嫌を損なわれ、殺される可能性もあるぐらいだ。

 そもそも、召喚獣との契約は魔力によってなされる。魔力を持って行かれるのだから、契約を結ぶ召喚獣の数にも限界がある。魔力量の問題もそうであるし、そもそも大量の召喚獣に気に入られるなんて普通ありえない。

 そしてそれほどの異常な才能を持ち合わせているものが、自称平凡などと信じられるものでは決してない。

 それに平民がそういうものをできるわけがないというのが常識であり、平民でありながら平然と召喚獣を従えているなど本当に色々おかしいといえた。

 「……本当の事、いっているんだよな?」

 『う、嘘じゃないです!』

 「あ、あの、マラナラ様。その子に酷い事をしないでほしいのですが」

 口を挟んできたナディアをディグは面倒そうに見る。王国最強の魔法師にそんな目で見られても、ナディアは怯まない。

 「私の事守ってくれた子たちなのです。きっと、その召喚獣の主であられる方だって何も問題は起こしていないのですから……」

 「そうはいってもですね、王宮に無断で侵入している時点である意味問題ですからね」

 ディグはナディアに視線を向けたまま、淡々とそんな事実を告げる。そう、そもそもの話それが問題なのだ。

 王宮には結界が張られている。それは侵入者を防ぐためのものであり、この召喚獣の話が事実なら、その結界をかいくぐって侵入していることとなる。普通なら、侵入しようとした際に気づくはずのものであるのに、気づけなかった。

 その時点で異常。

 その言葉に尽きる。

 『俺の主は凄いんだぜ!』

 「……お前に発言の許可は出していない」

 『ぐわっ』

 苛立ったような声を上げたディグは、フィアに対する拘束を強める。何とも容赦がない。そのあたりはヴァンとも似ている。

 「ナディア様、俺は別にこの召喚獣の主にどうこうする気はないですよ。俺が気づかないほど巧妙に、平然と王宮に忍び込んでいた存在に対して多大な関心があるだけで」

 事実、悪いようにするもりはない。捕まえてどうするかは決めていないが、少なくともヴァンが考えているような死刑など頭にはない。

 (この召喚獣が言っていることが嘘だとはおもわねぇけど、本当だとは見てみないとわからねぇな)

 そんな風に思考したディグは、フィアに向かって言い放つ。

 「おい、お前の主の元へ案内しろ」

 『別にいいですよ』

 「……抵抗しないのか?」

 案外あっさり契約者の元へ連れて行こうとするフィアに訝しむ。しかしそんなディグにフィアは言ってのけた。

 『俺は主がこのまま自分は平凡だって言い張って、本気でガラス職人として生涯を終えるのはもったいないなぁと思っているだけだ!』

 「……つーか、大量の召喚獣と契約しといてそのつもりなそいつがすげぇよ」

 ぶっちゃけたフィアに対して、ディグは思わずそんな言葉を放つのであった。


 そうしてまぁ、驚きで固まっているナディアを放置して(とはいえほかの召喚獣はその場に残ったまま)、フィアに案内されるままディグは《トゥルト》までひっそりとやってきたわけだが。


 『あら、フィア。ディグ・マラナラ連れてきちゃったの?』

 『だ、だってこいつ怖いんだぜ! それに主が自称平凡な枠から外れる第一歩だぜ!』

 『そうねぇ。そろそろ自覚してほしいわねぇ』

 案内されるがままにやってきた《トゥルト》の脇から現れたオランとディグに連れられて戻ってきたフィアの会話である。

 「……おい、それでお前らの主はどこにいんだよ?」

 『落ち着くために散歩するとかいってブラエイトの森に向かいましたわ』

 「あんな危険な場所に散歩しに行くとか明らかに一般人じゃねぇよ」

 ディグはこの王国内で有名人であるため、認識阻害の魔法を使い、そこにいるのをディグと認識しないようにしている。

 そんなディグはヴァンの召喚獣たちと会話をしながら思わず突っ込んだ。突っ込みどころが多すぎる。

 「いつ帰ってくる?」

 『できる限り会う時間伸ばしたい。逃げたらあきらめてくれるかもとか言ってたので……』

 ヴァンの召喚獣たちというより、この場にいるオランとフィアはいい加減ヴァンに自覚してほしい、そして一介のガラス職人として生涯を終える気満々なのをどうにかしたいので、普通に主を売っていた。

 「ふぅん、なら、追いかけて捕まるか」

 二十匹も召喚獣と契約をしている自称平凡なガラス職人の息子などほかにはいないため、興味津々なディグはそんなことを言うのであった。

 そして『火炎の魔法師』、ディグ・マラナラはブラエイトの森へと足を踏み入れるのであった。



 ―――王国最強の英雄とガラス職人の息子の人知れずな攻防について<6>

 (そして、『火炎の魔法師』は自称平凡なガラス職人の息子に会うために森へと移動する)




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