97.王宮の第三王女様と周りに侍る召喚獣たちについて
「はぁ…」
その日、ナディア・カインズは何度目になるかもわからない溜息を吐いた。
自分が落ち込んでいる理由をナディアはよくわかっている。只一人が、傍にいないだけ。
ディグ・マラナラが弟子にしてから、ヴァンはナディアの日常の中にずっと溶け込んでいた。会いに来てくれて、何気ない会話をするだけでも楽しかった。
(……ヴァンが、居ないのはさびしいですわ。そろそろ目的地にヴァンはついたのかしら? 王都から出たことがないって言っていたけれど、ヴァンは大丈夫なの? ヴァンが強いのは知っているけど、でも不安だわ)
ぼーっとしながら考えているのはヴァンの事である。
ナディアはヴァンの事が心配でならなかった。そしてヴァンが傍にいないことに寂しさを感じていた。
姉であるフェール・カインズがヴァンへの執着を見せた時、それが嫌だとナディアは感じた。その時に、自分にとってヴァンが特別になってきていることぐらいは理解していた。ヴァンがフェールに興味がない事が嬉しかった。
そして、誕生日の時にプレゼントをもらえたことも嬉しかった。その性能が素晴らしい事ではなく、ヴァンが自分のためを思って作ってくれたというのが一番嬉しかった。
ぎゅっと、首元から下げられたプレゼントを握る。
(ヴァンが、私のために作ってくれたもの。私を、守るためのもの……)
それを思うと途端に笑みが零れてくる。
『ナディア様、主のプレゼント握りしめてどうした?』
『フィア、ナディア様はご主人様のことを考えていらっしゃるのよ、きっと』
《ファイヤーバード》のフィアの呟きに、答えたのは《ブラックスコーピオン》のカレンである。
小型化しているとはいえ、この場には七匹もの召喚獣がわちゃわちゃしている。召喚獣が一匹いるだけでも正直言ってアレなのに、七匹もいることにまず見たものは驚く。
そしてそんなに多くの召喚獣に囲まれておりながら平然としているナディアも周りからしてみれば驚愕の存在である。
自分の契約している召喚獣ならばともかく、他人の召喚獣に七匹も囲まれるというのは普通に考えて居心地が良いものではない。そもそも召喚獣を従えられるものは限られている。召喚獣をこの目で見るというだけでも幸運だという人だっている。もしくは、初めて見る存在に恐れるものも多い。
が、ナディアにとってみればヴァンに従っている召喚獣たちは自分を守ってくれる存在である。フィアに関して言えばただの鳥としてよくナディアの前に顔を出していたし、他の召喚獣たちだってこそこそとしながら自分を守ってくれたのだ。
そんな存在に恐怖もなく、ヴァンが自分のために残してくれたのだとうれしそうに笑う。
『過剰防衛すぎだろ、これ。あーあ、俺様は悠々と過ごす予定だったのに。異界には俺様の帰りを待っているハニーが……』
『あははははっ、ハニーとか馬鹿じゃん』
『主様の取り決めなんだから文句言うな』
相変わらず発言が馬鹿っぽい《クレイジーカメレオン》のレイは、《アイスバット》のスイと《サンダーキャット》のトイリに突っ込まれていた。
『あーあ、あたしもヴァン様についていきたかったよー』
『あらあら、ふてくされちゃって。ついていけないのは残念ですけれども、わたくし、こうして主様のお役に立てるのは嬉しく思いますのよ』
ついていきたかったとふてくされる《ホワイトドック》のワートに、《ナインテイルフォックス》のキノノが笑って言う。
「ヴァンに会えないのちょっとさびしいわ」
『主もきっとさびしがっているぞ!』
『ナディア様、主様は本当に貴方様を愛しておりますから、それはもう寂しがっておられるはずですわ。そもそもこの遠征に関しても、ナディア様のためにと思って主様はやっておられるのですわ』
「あ、愛してって……」
フィアに続いて言い放たれたキノノの言葉にナディアが顔を赤くする。
ヴァンが自分に好意を持ってくれていることは見ていて、態度でわかっている。そして自分自身だってヴァンに対して少なからずの好意がある。
しかし、ナディアはまだ十一歳である。
愛しているなどという大人の言葉に耐性はあまりない。
『本当、愛しているって感じだよね。ナディア様一筋だし』
『ヴァン様、ナディア様のことねー』
わちゃわちゃしている召喚獣たちは、ヴァンがどれだけナディアの事が大好きなのかを語り始めるのだった。
そして七匹の召喚獣たちに、如何にヴァンがナディアを思っているかを語られ、ナディアは顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに笑うのであった。
---王宮の第三王女様と周りに侍る召喚獣たちについて。
(寂しそうに息を吐いた第三王女様は、召喚獣たちにヴァンの思いを語られ、顔を真っ赤にするのでした)




