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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第五章 砦での生活

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95.道中について 下

 『ははははっ、ご主人様と一緒に遊べてうれしい!!』

 「ただ移動しているだけじゃんか」

 『でもうれしい! 僕ナディア様の護衛にも残れなかったから、しばらくつまんないなあーって思ってたのに、こんなにはやくご主人様に呼び出してもらえるなんてっ』

 《スカイウルフ》のルフはそういってうれしそうな声を上げている。

 ヴァンの契約している召喚獣たちは揃いも揃ってヴァンに好意的である。多くの召喚獣たちにこのように好意的にみられることは異常なことであるが、ヴァンにとってみれば自分の契約している召喚獣たちがこういう態度はいつものことである。

 『あ、ご主人様、魔物!』

 無邪気にルフが声をあげれば、ヴァンはすぐに行動を移す。街道へと飛び出してきた魔物に魔法をあて、そうして絶命させる。

 整備された街道には魔物はあまり寄り付かないものであるが、こうして時々現れる。また盗賊などが訪れる可能性もあり、基本的に移動をするものたちには護衛がついている。国の要人がどこかへ出かける場合、護衛がつきものだが、国の要人《火炎の魔法師》自身が力を持ち合わせているために、この場にはそういう存在はいない。

 馬車の御者の男は、さらっと魔物を絶命させているヴァンを見て絶句している。

 噂しか知らないものからしてみれば、こうして実際に目にしてみないと実力などわからないものである。

 「バッタバッタ魔物倒してますね、ディグ様。私たちは参戦しなくていいのでしょうか」

 「俺は楽ができていいがな。フロノスは参加したいならすればいい」

 「魔物討伐をしたい気もしますが、私は召喚獣もおりませんからここはヴァンに任せます」

 召喚獣に騎乗し、そうして魔物を蹂躙していく弟弟子を見ながらまたフロノスは召喚獣への思いをはせる。

 (私に召喚獣ができるとしたら、どんな召喚獣だろうか。まだディグ様から契約を結ぶ許可ももらっていないけれど、つい、想像してしまう)

 何度も何度も、ずっとそういう事ばかりフロノスが考えてしまうのはやっぱり召喚獣に思いが強いからだろう。

 魔法師であるのならば誰でも召喚獣を持つ事を望む。そう、誰でもだ。

 召喚獣と契約を結んでいるというのはそれだけの価値があるものである。召喚獣と契約を結んでいる魔法師と結んでいない魔法師の差は大きい。

 召喚獣を望む強い気持ちは弟弟子であるヴァンが現れてからより一層強くなっている。自分だって、契約がしたいとずっとそんな思いが沸いてきている。

 「……ディグ様」

 「んー?」

 ヴァンが周りの魔物を討伐してくれているのもあって、のんびりとどこか眠そうにしているディグはフロノスに視線を向ける。幾らヴァンが周りの魔物を討伐していようが、あまりにもだらしたい。師匠としての威厳は特に感じられない。

 フロノスはちょっと呆れた目を向けている。

 「私は、何をすれば召喚獣と契約を結ぶ許可をいただけるでしょうか?」

 ディグの弟子になって、その召喚獣を目の当たりにしてきて。

 ヴァンが弟弟子になって、その召喚獣を目の当たりにしてきて。

 そうして召喚獣へのあこがれは増している。自分も、欲しいと渇望している。真剣なフロノスの瞳がディグを射抜いている。問いかけに対しディグは、そんなこと言われると思わなかったとでもいうような表情を浮かべている。

 「えーっと、フロノス」

 「はい」

 「俺は別にお前に召喚獣をまだ召喚するなって言ったつもりはないんだが」

 「え」

 ディグの言葉に今度はフロノスが驚いた顔を浮かべる。

 正直自分は召喚獣をまだ召喚してはいけないと勝手に思っていた。召喚獣を召喚することは危険だから。だからこそ、許されていないのだと、勝手にそんな風にフロノスは考えていた。

 なぜならフロノスは、まだ子供だから。

 でもそうではないらしい。

 「……私は、召喚獣と契約してもいいのですか?」

 「いや、だからダメってはいってねぇだろう。別に召喚したいならやっていいぞ。もちろん、俺が横にいる時限定だが」

 「……じゃあ、契約したいです。ディグ様とヴァンの召喚獣見ていて、私も欲しいって思ってて」

 「じゃあ、すれば? でもどんな召喚獣がいいとかあるか?」

 「選べますっけ?」

 「選ぶと難しいけどな。ただヴァンの奴は狙って選んでたみたいだけど」

 「……んー、私はディグ様やヴァンと違って複数契約できるとは思えません。強い召喚獣がいいとかそんな強い願望はありますけど、でも私と契約をしてくれるっていうならどんな召喚獣でも好きになれると思うんです。だから、呼んでみたい。呼んで、そして、来てくれて、私と契約をしてくれる召喚獣と契約をしたいです」

 それは紛れもない本心だ。

 強い召喚獣がいいとか、使い勝手の良い召喚獣がいいとかそんな我儘を言うつもりもない。そういう召喚獣がいいとは思っている。でも、自分の魔力に惹かれて呼ばれてくれる召喚獣ならいいとそんな風に思っている。

 二匹目が契約できるかもわからないけれど、たった一匹でも召喚獣と契約できるのなら嬉しいとフロノスは思うから。

 「そうか。じゃ、向こうでやってみるか?」

 「いいんですか?」

 「ああ。別にかまわない」

 ディグの言葉にフロノスは珍しく年相応に嬉しそうに表情をほころばせるのであった。




 ―――道中について 下

 (ヴァンは召喚獣に乗り魔物を狩り、フロノスとディグは会話を交わす)



 

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