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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第五章 砦での生活

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94.道中について 上

 馬車に乗って、ディグ、フロノス、ヴァンはポリス砦を目指していた。馬車での移動は一週間以上かかる。

 馬車に乗り込んだ当初、ヴァンははじめての馬車に興奮していたのだが、しばらくするとおしりが痛くなったらしくおとなしくなった。

 馬車は慣れない人にとって乗っていてつらいものなのだ。ディグの養子としてそれなりに馬車に乗ったことがあるフロノスも当初は慣れていなかった。気持ちがわかるフロノスはヴァンを心配そうに見ている。

 「師匠、痛い」

 「馬車に慣れないとナディア様とずっと一緒に居るとか無理だと思うぞ? ほら、ナディア様のために頑張れ」

 「ナディアのために……うん、なら頑張る!!」

 ヴァンは相変わらず単純である。ナディアのためになることといえばすぐに頷く。

 フロノスはそんな会話を聞いて、呆れた表情を浮かべる。

 でも頑張るといっても、やっぱり馬車には慣れないらしく、しばらくしてヴァンは嘆きだした。

 「痛い……」

 「まぁ、慣れてないなら仕方ないわよ」

 泣き出しそうな顔をしているヴァンにフロノスが告げる。

 ヴァンがあまりにも痛みを訴えるため、一旦休憩を取ることになった。馬車の御者の男はヴァンが本当に噂されている有名人なのかと疑うように見ている。それだけ、普段のヴァンの言動は全く持って普通である。一切そういう素振りを見せない。

 「うー…でもナディアとずっと一緒に居るためには馬車にも慣れた方がいいんだよね?」

 「まぁ、そうね。お姫様と一緒に居たいのなら馬車にぐらい乗れた方がいいわ」

 どういう立ち位置でヴァンがナディアの傍に居ようとしているのか、そういうのは正直フロノスにはわからないが、夫として傍にいるにせよ、護衛として傍にいるにせよ、馬車にぐらい慣れていなければ大変だろう。

 王族も貴族も移動は馬車が基本であるし、一々姫の傍にいる存在が馬車で体を痛めていてはどうしようもない。

 「……じゃあ頑張る」

 「でも、すぐに馬車になれる必要はないと思うわ。少しずつでいいから慣れていけばいいわよ。一々こうして止まられても到着が遅くなって困るから、召喚獣に乗って移動したら?」

 王宮魔法師とその弟子として正式にポリス砦に訪れる立場なのだ。一々、こうして止まられても困る。

 到着が遅れるのは問題であるし、何より英雄の弟子という立場のヴァンが砦にたどり着いた時に疲れきっていてもそれはそれで師であるディグの威厳が保たれない。

 「……んー、じゃあ、召喚獣と馬車交互にする!」

 「そうしたら、少しはなれそうね」

 「うん。馬車には慣れたいから。ナディアの傍にいるために。とりあえず俺師匠にいってくる」

 ヴァンは何処までもぶれることがなく、ナディアのために頑張ると口にする。そして少し離れたところでのんびりしているディグの元へと駆け出していく。

 その様子を見ながらフロノスは呆れた表情を浮かべるのであった。

 そんなわけでヴァンは早速スカイウルフのルフをその場に呼び出した。馬車の御者の男は召喚獣をさらっと呼び出したヴァンに目を見張っていた。

 それはそうだろう。

 普通の子供と変わらないのではないかと侮っていた存在が召喚獣などという一般的に考えて普通ではない存在を呼び出したのだから。

 のほほんとしていようが、ヴァンは『火炎の魔法師』であるディグも認めるほどの天才である。

 『ご主人様と一緒に行動できて僕嬉しい!』

 予定外に呼び出されたルフはというと、にこにこしていた。

 《スカイウルフ》のルフは空中を駆ける能力を持つために、ヴァンはその能力で空を駆けるルフの上に乗っている。

 馬車の中からヴァンが召喚獣に乗っているのを見ながらフロノスは、

 (召喚獣ってやっぱりいいわね。私も欲しい。はやくディグ様に契約を認めてもらえるようにならなければっ)

 とヴァンの実力を目の当たりにしながらもやる気に満ちているのであった。

 圧倒的な才能を持つ存在が目の前に存在していれば腐る者も多くいるだろう。自分はああはなれないと、努力をしても仕方がないとそんな風に感じる者だ。それも当然といえば当然といえる。才能を前にすれば、余程のものではないと心が折れる。

 自分の実力を正確に把握しているものだからこそ、余計にその差を理解し、自分はああはなれないと感じとってしまう。

 だが、フロノスはそうはならなかった。

 自分の実力を把握し、ヴァンの実力を見て、だけどそれでも頑張ろうとしている。

 それは一種の才能ともいえるだろう。圧倒的な師と、圧倒的な弟弟子を前に、その現実から逃げる事もなく、自分を磨き続けている。

 圧倒的な才能が自身にない事ぐらい、フロノスはとっくに知っている。それを受け止めて努力が出来るフロノスだからこそ、ヴァンとも良い関係が築けているともいえるだろう。

 ディグはそんなフロノスの決意も知らずに、馬車の中で眠たそうに欠伸をしていた。




 ―――道中について 上

 (そうして彼らは砦へと向かっている)




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