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その男、引きこもりに付き  作者: 祀木 楓
第1章 引きこもりの総司
2/5

目覚めた先

 

 

 俺はいつものように目を覚ます。


 そういえば、今日はいつものオンラインゲームで時間限定のイベントがあったんだっけ。


 ミツ姉にもらった五千円のうち、三千円課金して……残りで夕飯と朝飯を買えば良いか。


 いや、待てよ……やっぱり四千円課金して、千円でカップ麺でも買えば……よし、これでいこう!


 というか、今何時だ?


 慌てて飛び起きると、何故か頭に突き刺さるような痛みが走った。



「痛っ……」



 そこで俺は異変に気付く。


 此処は……何処だ?


 見慣れない部屋に、見慣れない布団。


 俺はそんな景色に、不安を覚えた。



「っ……総ちゃん!」


「ミツ……姉?」



 おかしい……


 ミツ姉は先程、確かに仕事に行ったはずだ。


 だが、何故か目の前に居る。


 しかも、着物姿で……


 俺は夢を見ているのだろうか?


 そうでなければ、この状況を説明する事はできない。



「ミツ姉……仕事は? てか、その格好は何? どうして、着物姿なわけ?」


「総……ちゃん?」



 ミツ姉は涙をポロポロと流している。


 何で泣くんだよ……俺、何か悪い事を言ったか?


 本当に意味がわからない。



「ミツさん……今の総司はきっと、記憶が混乱しているんだ。少し休めばじきに、元に戻るさ」


「お前……誰だよ? そもそも、俺は総司(そうじ)じゃない。総司(そうし)だ!」



 ミツ姉にやけに馴れ馴れしい男に不快感を覚え、俺は男を睨み付けた。


 コイツ……ミツ姉の何なんだ?


 ミツ姉もミツ姉だ。


 こんな訳の分からない男に寄り添いやがって。


 夢とはいえ、何だか腹立たしい。



「総ちゃん……近藤さんも分からないの?」


「誰だよ……近藤って。そいつ、ミツ姉の恋人か? 俺はまだ紹介してもらってないから、そんな奴は知らねぇよ」



 俺の言葉に、二人は悲しそうな表情を浮かべた。



「俺の事は覚えて居なくとも、姉の事は覚えて居るのか……やはり、血の繋がりとは凄いな。無理言ってミツさんに、京まで来てもらって良かったよ。総司……きっとお前は、あの衝撃で記憶を無くしてしまったのだろう。先程の医者の懸念通り、という訳か……」


「衝撃? 医者?」



 近藤という男の言葉の意味が、俺には分からなかった。


 俺はいつものように姉を見送り、いつものように部屋で眠っていたはず……衝撃なんて受けた覚えもなければ、受けるような事もしていない。



「お前は……近所の子供たちといつもの様に遊んでいた。木登りして降りられなくなった子供を助けようと、お前が木に登って……落ちたのだよ」



 俺が木登りだって!?


 まさか!


 俺がそんな事をする訳がない。


 そもそも、俺は近所の子供たちと遊ぶはずもない。


 俺は一日中、自宅で過ごしているのだから……家を出るのは、コンビニに行く時くらいなものだ。


 やはり、夢を見ているのだろう。


 そう思い、安堵する。


 まったく……こんな変な夢は、金輪際ご免だ。


 もう一度寝てしまえば、夢から覚められるだろうか?


 早く目覚めてくれと願う。



「ごめん……ミツ姉。俺、もう少し寝たいからさ……少し出ていってくれる?」


「そう……よね。気付かなくてごめんね。今日のところは、ゆっくり休んでちょうだい」


「あぁ……悪ぃ」



 俺は布団を頭まで被ると、目蓋を閉じる。


 それと同時に、ミツ姉たちは部屋を後にした。



「近藤……先生。総ちゃんは……どうなっちゃうの……かな」


「ミツさん……大丈夫だから、何も案ずる事はない。総司はミツさんの事だけは、覚えているようだ。だから……きっとその内、俺や新選組の皆の事も思い出してくれる」


「っ……ごめんなさいね。近藤先生に、こんな情けない姿を見せてしまって」


「気に病む事などない。ミツさんの気持ちは痛いほど分かっているつもりだ。何たって、総司は……俺にとっても、家族なのだから」



 廊下でのミツ姉と近藤という男の会話は、丸聞こえだった。


 誰が家族だよ!


 俺は心の中で突っ込みを入れる。


 ミツ姉は、あんな男と結婚するつもりなのか?


 いやいや……これは、夢だ。


 だから、そんなクダラナイ事を気にしなくても良い。


 そうは思えど、何となく込み上げてくる嫌な気分が、収まる事はなかった。


 この妙な夢の全てにイライラしながらも、俺はいつの間にか深い眠りについていた。


 これで……タチの悪い夢は……終わる……はず。




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