第344話 三つ巴
気温が更に下がる。
季節が冬なのだから気温が下がるのは仕方がないのだが、その他の理由はバランがいるだけで気温が変わってしまう。
だと言うのに。
<"絶対零度">
"嘆きの華"とは違う、氷雪系の中でも最強最悪。
あらゆる物全てを凍てつかせ、破壊する力。
<過去、あの方の力で私は強大な力を得、そして凶星十三星座となりました>
「……そうだな」
<……幸せでした。あの方の側近となり、あの方をお守りする役目を得、平穏な世界で皆と笑い合った……、あの日々が>
解放された"絶対零度"が周囲へと広がり、守行の足元近くで止まる。
「俺はお前が力を100%解放すりゃ、自動的に"絶対零度"が解放されると聞いてたんだが違ったか?」
<肯定ですとも。故に、私の周囲は常に展開されておりますが、自由にその範囲を調整する事が出来るのです。ですがね父上、私の"絶対零度"は3種類あるんですよ。その1つが貴方の知る、展開式の"絶対零度"。そして、これが2つ目の"絶対零度"です>
ー "絶対零度砲" ー
口内で冷気を集束し、直線上にいる守行、イリスに向けてそれは放たれた。
「イリス!!」
<分かってる!!>
ほんの少しでも触れれば終わる。
焦りながらもイリスは周囲に青白い光の球体を作り出し。
ー "粒子砲" ー
バランの"絶対零度砲"にぶつけ、消そうとするが消えない。
<ちいぃっ! 消えないよ親父い!!>
「構わん!! そのまま抑えてろ!!」
"絶対零度"領域"の中を走り、守行は魔力を纏わせた拳をバラン目掛けて振り下ろそうとするが。
<逆転しましたね>
「!!」
ー "婆娑羅" ー
"絶対零度砲"から一転、高速の"婆娑羅"が遂に。
「ッ! くっうぅっ!」
守行を捉え、深手を与えた。
<親父いい!!>
<どこを見ている>
<っ!!>
<よそ見をすれば死ぬぞ>
バランがイリスのすぐ真横まで近付き、凶悪な"凶爪"が生えた触腕を軽く振るっただけでイリスが吹き飛び、ビルにぶつかると破壊する。
<……元々凶星十三星座とは、強大な力を個々が有していた。故に周囲から恐れられ、誰もが遠ざかり……、そしていなくなった。……だが私は幸せ者だ。あの方と出会い、そして新たな命と力をお与え下さっただけでなく、私を絶対零度の支配者にして下さった。ーー 私は氷帝、氷帝竜・バランであり、骸。さぁ戦え、抗え、立ち向かえ、憲明を想うなら、守りたいならここで立ち止まる暇は無いぞ。イリス>
憲明を想うからこそ、イリスは目を開けると起き上がる。
<んなもん言われなくても分かってるっつーの!! おい親父!! ドジって死んでねえよな?! 生きてるよな?!!>
「……あ゛? 生意気な事言ってっとぶちのめすぞゴルァオ゛イ」
<(コオオオーーー!!)>
イリスとしては無事かどうか確認したつもりだろうが、その言い方はまずい。激怒している状態の守行の迫力ある眼光と顔にイリスは戦々恐々となる、のだが、そのお陰もあってかバランに対する恐怖が薄らいだ。
<ご、ごごごごごめんなさいぃぃぃ!!>
「……ったく。しかし、まさか5本まとめて飲むとはとんだ大馬鹿野郎だよテメェは!」
<過去に1本飲んでますので、これで私は6本飲んだ事になります。ですが父上、他の者があの方からどれだけ頂いて飲んでるかは正直把握していないのですよ。それでもこれだけは言えます。凶星十三星座は皆対等ではありますが、力で言うなら私は現在、凶星十三星座の中でも5番目、序列第五席の位置におります。まぁ、言わずもながではありますが私の上にはゼスト、パンドラ、ミルクとおります>
「そうか……。だがそれはそれで凄いじゃねえか、えぇエ? だってそうだろ? 他の連中はお前と違って血を飲んでるにも関わらず、それでもテメェの実力だけで此れまでその座を守っていたって事なんだからよ。そりゃ素直に称賛に値するってもんだ」
<ははは、貴方に褒められると嬉しく思います。……ではそろそろ>
「おぅ、そうだ……な!」
再び戦闘が始まり、守行の拳とバランの凶爪がぶつかり合い、激しい火花が散る。
<父上! 今度はただ勝ち負けじゃなく! 殺すつもりで挑ませて頂きます!>
「上等だ! 殺すつもりで来い!」
辺りはバランの"絶対零度"の領域。
そんな領域内で戦うのは本来、守行ですら厳しい筈だ。だがそんな中でも戦えるのは守行の魔力が高く、どうにか相殺しているからだ。
だがそれでも限度はある。
「(ちぃっ! 足が冷えて動きが鈍くなってきていやがる!)」
<どうされました父上! 動きが鈍くなってきてるじゃありませんか!>
「じゃかあしぃ! ならテメエはどうなんだ骸! あれだけ倅の血を飲んでまだ俺と互角じゃねえか!」
<(くっ! 流石に飲んだばかりで体が!)>
バランは余裕が無い状態で戦う。
本来、血を飲んだのであれば暫くの間、馴染ませなければいけないからだ。
そんな2人が戦う姿を見るイリスの目には、不適に笑い合う悪鬼羅刹と死神竜。
「ふははははははは!! 楽しくなってきたじゃねえか!! なぁア?! 骸おぉ!!」
<はははははははは!! ええ!! 父上のおっしゃる通り!! 楽しくなってきましたねえ!!>
<(あわわわわわ! や、ヤバい~!!) お、親父?! ど、どうしたら?!>
「あぁア?! オメェはすっこんでろ!!」
<(えぇぇ……)>
手伝えと言ったり、すっこんでろと言われたりと、なんだかイリスが可哀想に思える。
だがその言葉にイリスは。
<っとによぉぅ……、手伝えって言ってさぁ……! 俺を呼び戻したのは親父だろうがあああああ!!>
イリスはぶちギレた。
<もう怒った、はい、ぶちギレましたよ? うん……、すっこんでろって言われても知るかボケ!! 俺も混ぜろやクソ親父!!>
「テンメェ、誰がクソ親父だ誰が!! このボケが!! あ゛?! 上等だ! テメェもまとめてぶちのめす!!」
ここで何故か、悪鬼羅刹VS死神竜VS魔天竜による、三つ巴の戦いへと発展してしまうのだった。
……が。
<いつも俺を雑に扱いやがって!!>
「してねえだろ!! それを言うならお前はもっと考えて行動しろ!!」
<父上の言う通りだぞ!! それにお前のその激怒したら周りが見えなくなる癖をいい加減直せ!!>
<うっせ!! テメエが言うな!! それを言うならバラン!! テメエは親父に勝ちたいからって兄様の血を一度に飲み過ぎなんだよ!!>
<それこそお前に言われたくないぞ!! お前が進化する為に!! あの方からどれだけの血を頂いて飲んだか忘れたとは言わせんぞ!!>
「その通りだぞ!! 聞きゃあ骸以上は飲んだって話じゃねえか!! だがよ!! おい骸っ!! テメエは無茶して飲んでんじゃねえよ!! そんなに俺を越えたきゃもっと準備してから来やがれボケが!!」
<なにを仰いますか!! 私は凶星十三星座!! このくらい平気でやってのけなければあの方に笑われながら怒られてしまいます!!>
「ボケが!! だからって無理すりゃテメエでもダメージは免れねえだろ!! んな事しなくても待っててやるっつーんだ!!」
激しい攻防戦を繰り広げつつ、口論もまた激しさを増す。
端からすればその光景は殺し合いから親子喧嘩にも見えなくは無い筈だ。




