第342話 3体の竜
時を同じくして美羽とミルクは。
「あ゛あ゛あ゛ッ!!」
<どうしたのミルク? カズが率いる凶星十三星座の中でも最強なんじゃないの? そろそろ本気を出したら? 私は本気だよ? ねぇ、なんで? ノーフェイスと戦ってた時みたいに力を解放したら?>
「す……、好きなこと……を……」
<だってそうでしょ? 違うの? それに私はこれまで全然手も足も出なかったのに、今はこうしてアンタを追い詰めてる。……おかしくない? 私がアンタをだよ? 私が竜として本格的に目覚めたから? 違うよね? 全然違うよ。……なんで手を抜いてるの?>
美羽の疑問、そしてその答えは間違っていない。
だが、ミルクにはどうしてもそれを言ってはいけない理由があるのも事実。
しかし。
「(本物の天才に! 私の気持ちなんて分からないでしょうね!)」
そんな事を口に出して怒鳴りたいが怒鳴れない。
確かに美羽は天才と言っても過言じゃない。
だがその実、美羽はずっと和也の背中を見てきた。
歌、曲、格闘術と、幅広い分野において圧倒的な能力をその目に焼き付け、追いかけ続けた。
「どうして貴女はいつもいつも……っ!」
そんなミルクにとって和也と美羽の2人は特別であり、又、美羽と同じく2人の背中を追いかけ続けていた。
「私だって……、私だって本当は……っ!」
獣人、それも和也の手によって進化し、膨大な力を手にした存在。
「……貴女の背中を追いかけてたからこそ……! ここまで強くなれたんです!」
故に、美羽の言葉はミルクの心を深く傷付ける事になる。
「後悔しないでくださいねお姉様!!」
<……後悔しないよ、だって……、気づいてたもん>
小さくボソッと口にするがその言葉はミルクの耳には届かない。
「申し訳ありません、にぃに……!」
<(そっか、これがミルクの本気なんだ)>
膨大な魔力を解放し、ミルクの姿が徐々に竜へと変貌する。
その姿は竜と狼を合わせたような姿。
<……"魔狼竜・ミルク"……。いざ尋常にお相手願います。ねぇね>
銀月と同じ様な白銀色の魔狼竜。
その姿もそうだが白銀のたてがみなども生えている。
翼は無い。だがミルクはその姿になり、兄、和也と同じく足下に不思議な波紋を作ると空中を歩く。
<母上、ここは私も>
<うん、そうだね、皆で協力しないとあのミルクには勝てないかもね>
銀月、アクア、ステラ、バウ、4体が美羽と共に"魔狼竜"となったミルクと対峙する。
<……行きます>
<おいで、……ミルク>
一瞬で美羽の間合いに入ったミルクの牙が狙う。
しかし、そこには既に美羽はいない。
<?!>
<こっちだよミルク>
<!!>
その動きはまるで竜となった和也の如く。その場にいた筈だが既にミルクの真後ろに移動していた。
だがそれにはカラクリが存在する。
<この!>
<遅い!>
<な……ッ?!>
真後ろにいる美羽に向けて攻撃しようとするが美羽の動きが速く、逆に強烈な一撃が腹に食い込む。
<どうしたの? それが本気なの?!>
<(はっ、速……い!)>
<これじゃ銀月達の助けはいらないかぁな!>
長大な尾でミルクを叩き、空中から地面へと落とされたミルクは愕然としながら美羽を見上げる事しか出来ない。
<(どうして……) どうして私が!!>
<それは単にミルクが遅いからだよ>
<ガッ!!>
落下に伴い、勢いよく美羽はミルクを踏みつける追撃を繰り出すとミルクは更に地面にめり込む。
<まさかその程度だったなんて……。ガッカリだよミルク!!>
<いっ! 言わせておけばあああ!!>
その怒りは彼女に、新たな力を授ける引き金となる。
ー "神速" ー
"瞬足"や"韋駄天"よりも、より高みの境地。神と付く能力は数少ない。
故に。
その能力は美羽のスピードと互角となる。
<追い付きましたよねぇね!!>
<凄い凄い、んじゃあの娘にも手伝ってもらわないと>
<(あの娘?)>
「よう、ミル姉ぇ」
<!! イリス!>
ミルクにとってこの状況は非常にマズい。
美羽は雷を自在に操る事が出来る為に、まるで和也の様な動きをする事が出来る。
では何故、イリスが来た事でマズくなってしまうのか。
その答えはイリスが持つ能力が厄介だからだ。
「俺か……、じゃなかった、私から逃げられると思ってんのかよ?」
<クッ!>
不気味に微笑むイリスから距離を取ろうとするが引き剥がせない。
ー "監視者" ー
それはどんなものであろうと、その監視の目からはなかなか逃れられない。
それにイリスには"執行者"の能力をも持っている事から彼女は凶星十三星座達からはこう呼ばれている。
ー 「死の番人」 ー
「あっはははははははは! 竜になったのにそんなもんかよミル姉!」
<嘗められたものですね!>
動きは遅い。されど、彼女にはまた別の能力もあるからこそ、ミルクはそれを警戒しなくてはならない。
イリスは確かに爬虫類であるが為に変温動物。故にバランとは相性は最悪な関係にあるのだが、それでもそのバランですら警戒するレベルの能力だ。
「んじゃ、私もいくぜ?」
イリスもまた、竜へと姿を変える。
アクアの様なモササウルスと、鯱を合わせた様な頭。蛇の様な長い身体に長い尾を持ち、頭から尾の先まで黒と青の体色だが青色の模様が淡く輝いている。その身体には鯱の様な背ビレが十、二十と幾つも生え、両手のヒレには4本の長い爪。
どちらかと言えば"シーサーペント"と言う大海蛇に近い、かなり巨大な姿をしてるがそれとはまた別。
<はぁ……、この姿になるのは久々だぜ>
<……"魔天竜"、形態ですか……>
"魔天竜"。その姿こそ、ミルクを含めた凶星十三星座達が警戒する能力に繋がる。
<スッゴい姿だねイリス、それにおっきい>
<いやいやいや、美羽姉程じゃねえよ…… (どっちかっつうとアンタは邪悪だなんて、口が裂けても言えねえぇ……)>
<ん?>
美羽はどちらかと言うと、竜になった和也の姿に近く。両肩や両腰から2本ずつ、背中から1本と八岐大蛇の頭が生え、胸には巨大な口と言うより、こちらにも頭が存在する。
その姿から美羽意外の者達からは、黒い"九頭竜"と呼ばれてる事はまだ知らない。
故にイリスとしてはそんな美羽の方が邪悪だと思ってしまった。
<まっ、まあいいからそろそろ始めようぜ>
<そうだね。んじゃ、2回戦といきますか>
ミルクとしては非常に面白くない展開だ。
だがそんなミルクには心強い味方はいる。
「御待たせしてすいやせん! 不肖この月光! 姉さんを助けに馳せ参じました!」
<月光?! どうして来たのです!>
「どうして? どうしてと問いますかい? ……あっしは姉さんの下僕! その下僕が! どうして姉さんを助けに行かない選択をしなきゃならんのです!! 少しでもあっしを頼って下さい!!」
<……月光>
<あらら、月光が来ちまったぜ? 美羽姉。どうする?>
<どうする? そんなの決まってるでしょ?>
<ッハッハッ! そうだよな! おい月光! 来たからには覚悟しろよ?!>
「イリス……様……」
イリスの強烈な睨みと眼光に、月光は怯えるがそれでもミルクの為にと剣を抜く。
その瞬間。
<抜いたな?>
「なっ……あっ……ああっ!」
イリスの顔が月光の目の前に迫っていた。




