第340話 氷帝来襲
ーー 特別対策本部 ーー
「東京湾にて新たな凶星十三星座を現出確認! バランです!」
「ミルクに続いてバラン……! 大至急夜城組に連絡を!」
「現在ミルクは美羽さんが! 謎の人物は守行さんと戦闘中との事で動けません! 尚! オルカルミアルは守行さんの式神達が対応中!」
「なん……って……ことだ……!」
その情報に柳は絶望する。
守行と美羽が動けない今、バランを止める者は他にいない。
ーー 東京湾 ーー
<……また海の上に出てしまったか。まぁ良いだろう>
海面を一瞬で凍らせて足場を作り、バランはゆっくりと歩き出す。
<ハアァァァ……、全力解放、……100、%>
憲明が初めて見て、感じた時とは比べのもにならない程の魔力量。
それは同時に……。
<ハアァァァルルルルルッ……、氷帝竜、バラン。参る>
凍らせた海面を破壊し、バランは強力な脚力で空高く跳び上がる。
彼はあらゆるものを凍らせるが、それは彼の周りに存在するあらゆる空気も例外ではない。
空気中に存在する水蒸気は凍てつき結晶へと形に変え、酸素や窒素は固体や液体となる。
絶対零度の支配者と称えられる氷雪系最強の存在だからこそ成せる業。
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【氷帝竜・バラン 来襲】
<クハハハハハハハハッ! 力を抑え込まずに解放するのは気持ちいいものだ!>
バランから放たれる強烈な重圧、威圧感、その全てにどれだけ離れていようとも、憲明達が気づかない筈がなく。それを受けて全員がその場で苦しみながら脅える。
「ム……クロが……、来や……がった……!」
「この場から逃げろ! お前ら相手じゃ1秒ともたん!」
守行の言葉に憲明達は本能的に逃げ出す。
今度こそ、後ろを振り返らずに。
<親父殿おおお!>
「忙しい時に来やがってこの馬鹿が!」
<"婆娑羅"!>
「"明王覇断・灼"!」
だが来るのが速い。
2人の攻撃が重なり、周囲の物がその衝撃波によって破壊される。
「何しに来た!」
<ミルクの様子を見るついでに、暴れに来たのですよ!>
その衝撃波はノーフェイスも例外じゃない。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!!」
2人が放つ衝撃波でノーフェイスは吹き飛び、逃げていた憲明達も又、悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。
ーー 特別対策本部 ーー
「バランと守行さんが会敵! 戦闘に入りました!」
「全支部に緊急連絡! 遠距離からありったけのミサイルをバランに向けて射って下さい!」
「しかし相手はあの氷帝です! 過去の自衛隊との模擬戦でも知っての通り全て氷で無効化されます!」
「それでもあの方の援護をするんです! じゃなければ東京はバランの手で氷の世界にされてしまいます! 少しでも守行さんの援護を!」
「は! はい!」
ーー 東京都港区 ーー
<貴方とこうなるのは八岐大蛇が目覚めた時以来ですな!>
「力を本格的に取り戻したみてえだな! だからと言って俺がテメーに負けるとでも思ったか!」
<思ってなどいませんよ親父殿! 正直申しますと私は貴方と本気で戦ってみたかった! 何故なら貴方はあの方の父君であらせられるのですから!>
「ならアイツにこの事がバレたらヤバいんじゃねえのか?! バレても俺は知らんぞ!」
<承知の上です! 貴方が動けばあのミルクでも貴方と戦う事を避けるでしょうからね!>
「そのミルクがなんで動いてるのか分かってんのか! ここに元凶のノーフェイスがいたからこうなったんだぞ! テメーがしゃしゃり出て来たせいで見失っちまっただろボケ!」
<御安心下さい! そのノーフェイスはいずれ我々が殺します故!>
「安心出来るわけねえだろ! このクソボケワニが!」
そんなやり取りをしつつ、2人共一歩も譲らない攻防戦を繰り広げる。
バランは心から楽しんでいるのが分かる程の笑みを浮かべ、守行は怒り狂った表情だがどこか楽しそうにも見える。
一方、美羽とミルクは。
<うわぁ、あっちはあっちで凄い事になってるなぁ……>
「……どうして、どうして貴女は……」
<ん?>
「……いえ、なんでもありません」
<そ? んじゃ続きをするとしますか。"鵺">
何か言いたげなミルクだったがそれを口にする事を止め、再び美羽と激しい攻防が始まる。
「(簡単に"鵺"を……、……どこまで貴女は!)」
<私の"鵺"から逃げれると思わないでね>
アルガドゥクスとなった和也が放った"鵺"と、美羽が竜となった"鵺"とではその威力は違う。
……しかし、彼女は八岐大蛇と融合し、あの和也から"絶竜王之寵愛"と引き換えに"竜種之種"を手に入れた事で竜となった存在。
それはつまり、誰もが気づいているようで気づいていない事実が隠れている。
「貴女はどこまでデタラメな存在になったのか気づいてるんですか!」
その言葉は全てを物語っていると言えるだろう。
ミルクは美羽に対して怒り、又、その存在に焦りの顔を見せながら"鵺"から逃げる。
<何言ってるか知らないけど、逃げられないって言ったよね?>
"鵺"から逃げるがその速さは光速。
"鵺"だけでは無い。雷とは光速の速さであるが為に、音速よりも速く届く。
だがしかし、美羽の様に雷を自在に操る事はほぼ不可能とされ、人間で雷属性の適正があると言えど、その生涯に1つか2つ程しか上手く操れないか、まったく操る事が出来ないとされる大変難しい属性とされている。
そんな雷に形を与え、自由自在に操る方が正直、おかしいのだ。
それも一度見ただけでしかない"鵺"を作りだし、操るなんて事、本来ならあり得ない。
そんな美羽の"鵺"が遂にミルクを捕らえた。
「アアアアアアアアァァァァァァァッ!!」
<"蒼雷曼珠沙華">
続け様に青い彼岸花を模した雷撃攻撃、"蒼雷曼珠沙華"を放ち、ミルクの美しい白銀の髪や尾の毛が激しく逆立つ。
この時、ミルクとしてはあり得ないと思っていた。ついこの間まで弱かった筈の美羽に脅え、攻撃から逃げ、それでも逃げられずにダメージを与えられる事に。
「うっ……グ……。(……本当、本物の天才は嫌になる!)」
だが倒れない。
新たな凶星十三星座のナンバーズとなり、兄である和也を失望させたくないが為にミルクは歯を食い縛って立つ。
<……流石だね>
「私はにぃにの妹……、そして凶星十三星座のナンバーズです。この程度で倒れたりしませんよ。それにしてもどうして……、教えて下さい、何故急にそこまで強くなれたのですか?」
<……想い……かな?>
「想い?」
<そう、想い。必ずカズの前まで行く。そして、カズを倒して私の想いを伝える。その為なら私、なんだってする>
「……想いだけで、あの人を止められると思ってる時点で間違ってるんですよ!」
<想いもまた力だよ、ミルク>




