プロローグ
憲明達の前にミルクが現れて暫く時が経った頃。
ーー 冥竜城 ーー
「どうやらミルクが動き出したようだ」
「それなら一旦、誰か様子を見に行った方が良いんじゃないかしら」
「そうだな。では誰か行ってくれないだろうか?」
ゼストは心配して誰か行ってくれないかと聞くと。
<ならば私が行こう>
すかさずバランが名乗り出た。
「いや待てバラン。お前にはこれまでに何度も行ってもらったりと、迷惑をかけているのだ、ここは別の者に行ってもらって暫くは休んでてくれ」
<いや、それでも私が行こう>
「……何故だ? 何故お前はそうやって動いてくれる?」
<……ミルクは向こうで暴れているのだろう? ならばあのミルクを今、止める事が出来るのはゼスト、お前とパンドラ、そして私位なものだろう>
「……確かにそうだが」
<それにミルクが動き出したと言う事は、きっとそこには憲明達もいる筈だ。そして、親父殿もいる筈。その親父殿の相手を出来るのも我ら三人ぐらいなものだろ>
バランの言う親父殿とは、和也でありアルガドゥクスの父親、守行を指す。
彼らもまた知っている。
守行が尋常ではない力を隠している事実を。
「お父上殿か……。今、あの方のお相手をする事が出来るのは確かに我ら三人。……下手に交戦をしてしまえば、流石のナンバーズと言えどあの方に殺される危険性が高い……」
「だがそうは言っても相手は人間だぞ? 力を取り戻した我らであれば勝てる筈だ」
「馬鹿な事を言うな。……あの方は兄者のお父上であり、私やパンドラの……いや……、とにかく、下手に手を出すな。良いな? これは命令だ」
ゼストとしては軽はずみな発言と感じ、発言者であるヴィシャスを強く睨むと他の凶星十三星座達に忠告する。
「……では申し訳ないがバラン、頼めるか?」
<頼まれた>
白き絶対零度の支配者、バランが動く。
バランが東京に現れた事で水没した東京は氷と炎の世界へと一変する。
ゼストは知っている。
守行と互角に渡り合える、数少ない者の1人がバランであると。
「バラン!」
<ん?>
そんなバランが出撃する前に、アズラエルの生まれ変わりである沙耶が呼び止めた。
<どうした?>
「……ごめん、なんでもない」
<……何か心配事でもあるのか?>
「心配……、それとは違うんだけど……、もし……、もしだよ? 行っておじさんがいたら……」
<……大丈夫だ、だが確かに親父殿は強い>
そう、バランの言う通り守行は強い。
故に守行は美羽よりも警戒されている。
ベヘモスが初めて顔を合わせた時、本当に人間なのか疑われる程の力を見抜き。その情報は既に他の凶星十三星座達に共有されていた。
そしてゼストが会った時。
彼はとある事を確信していた。
「バラン……、あの方と相まみえる時は気をつけてくれ」
<……分かっているよゼスト。だがな、私は楽しみでならんのだ>
「なにがだ?」
問われたバランはそこで、邪悪な顔で微笑むと答える。
<力を取り戻し、全力を出してもこの私と対等か、それ以上の力を持つであろう親父殿と手合わせ出来る事がだよ>
その言葉、その微笑みにゼスト以外の者達は戦慄した。
「正気か?! お前は何を言ってるのか理解しているのか?!」
<理解してるさ。それともなにか? お前はあの方を前にした時、大人しく尻尾を巻いて逃げるつもりか? ん? ルシスよ……。馬鹿め、それでも誇り高き凶星十三星座の1人か? そんな事をし、もしもあの方の逆鱗に触れでもしたらどうなるか分かっているんだろうな?>
「ぅぐっ……」
<それにあの方は陛下のお父上。そんな方を、逆にそんな嘗めた態度で接するのは感心せんな>
「だ、だがバラン、相手はあの方の父君であらせられる。お前の言ってる事はよく解る、それでも下手に手を出すべき方でもない筈だ」
<ルシス、その認識が間違っていると何故気づかない>
「私が間違ってるだと?」
<我らの王は誰だ? 我らの王であり主はこの世でただ1人の筈だぞ>
その言葉にルシスは目を大きく見開き、黙ってしまう。
事実、凶星十三星座の主であり王はアルガドゥクスただ1人だからだ。
<敬意の念を抱くのは当然。だがしかしだ、それが誰であれ、陛下の敵となるならばそれは我らの敵。違うか?>
「……すまない、その通りだ……」
<分かってくれたのなら以後、気をつける事だ>
そうして白き氷帝はゲートを開き、東京に姿を現す。
<さて、私も混ぜてもらおうか>




