第338話 尊敬出来る援軍<ミランダSide>
「では大佐、話を聞かせてもらえるかね? どうして君は生きている?」
今から10年程前の夏。
ーー アメリカ ーー
私は和也の力で生き延びる事が出来たが、ほとんどの肉体は機械となってしまった。
その頃の上層部の半数は腐敗していたわ。……いや、昔から腐敗していてそれが未だに続いていると言ったほうが正しいわね。
連中はどのようにして私がサイボーグとなったのかを聞き、それが和也によるものだと知っていて根掘り葉掘り聞く。
知っているのに何故わざわざ聞く必要がある。
その理由が連中は生身の兵士より機械の兵士を欲していたと思い出し、瞬時に悟ったのは簡単だった。
だがそこで連中はとんでもない事を私に要求してきた。
「では彼の力を貸して貰う為にも、君から頼んで連れてきてはくれないかね?」
「……は?」
「日本政府に言っても彼を渡してくれないだろうからね」
「秘密裏に頼むよ? 秘密裏に」
「……おっしゃってる意味がよく、……解りません」
「だから、彼を秘密裏にこちらへ連れて来いと言ってるんだよ」
それはつまり……。
「ここまで言ってまだ解らんのかね君は。我々は拉致しろと言っとるんだよ」
なにを……、何を言い出すんだこの連中は?!
あの子を拉致するなんてそんな……、出来る筈が無い!
「失礼ながらそれは日本はおろか夜城一族を敵に廻す発言と受け取れます! どうか発言の撤回を!」
「誰も発言して良いとは言っとらんぞ大佐!」
「しかし……!」
まさかここまで腐敗してるとは知らない私は、その愚かな発言に恐怖した。
夜城一族を敵に廻すとなると、それは全世界は勿論、裏組織すら敵に廻すと言ってるようなものだ。
「……閣下はなんと」
「二度も言わすな! 君に発言権は無い! 許された発言はイエスかノーだけだ!」
「……ざけるな」
「なに?」
「ふざけるな!! あの子は貴様らが利用して良いような存在じゃ無い!!」
「貴様!!」
「解っていての発言か?!」
「黙って命令に従え!」
「黙ってなどいられるものか!! 貴様らみたいなゴミ虫なんぞにあの子を良いようにされてたまるか!!」
この事があり、私は降格処分となったがそれだけで済んで良かったわ。
それも和也のお陰ね。あの子が私を生かす為にサイボーグにしてしまったんですもの。暴れる私を取り押さえる事なんて、簡単に出来やしなかったわ。
それから私は空軍に廻された事で、そこで私の部隊を作り上げる事にした。
「お疲れ様です大尉!」
「「お疲れ様です!!」」
「ご苦労」
腐敗した組織を私はこの力で、必ず改革してやる。
それから私はたてつく者全てを捩じ伏せた。
それが誰であれ、あの子を守れるならなんだってしたわ。
……この手を血に染めてでもね。
でも、まさかあの子がアルガドゥクスの生まれ変わりと知った時は、悪い夢でも見させられてるじゃないかと疑ったわ。
いったい私はなんの為にこの手を血に染めていたんだと、頭の中が真っ白になりそうになった。
それなのに必ずあの子を取り戻すと、憲明や美羽達の前を向く姿勢に私は、自分がいかに愚かな考えをしてしまおうとしていたのか痛感し。例え定められた運命だとしても、共に前を向いていればそんな運命を変えられると信じる事にした。
私は弱い。
カズの力で強くなったと思っていたのはただの思い込みでしかない。
そして、憲明達は強い。
物理的に強いのではなく、その精神が強いと言える。
どれだけカズに打ち負かされても、絶望を感じても、目の前に強大な壁が立ち塞がろうとも、彼らは前を向いてその歩みを止めないのだから、その姿が眩しい。
しかし、そんな彼らでも逃げる事をこの時選んだ。
「……まだ、生きていやがったのか……」
"メルヒス"と名付けられたSSSランクのモンスター、オルカルミアルが復活し、そこには警戒しなければならないミルクまでいる。
初めて会った時に感じた異常な気配に、本能がずっと警鐘を鳴らしていた。
そんな相手とオルカルミアルが揃えば誰だって逃げ出したくなっても不思議じゃない。
だと言うのに……。
「このままお前はガキ共を連れて下がれ」
どうして貴方はそれでも臆すること無く立ち向かえるのかしら。
「アイツらの相手は俺がするが、お前達はサポートを頼むぞ」
「「はっ!!」」
カズの父、守行が大勢の部下を引き連れ、逃げていた先に立っていた。
「守行……」
「下がってろ」
私は知っている……。
彼もまた、その本当の力を隠している事を。
「出てこいテメェら、あそこで暴れてる馬鹿共を黙らせるぞ」
守行の背後に様々(さまざま)な"妖怪"、又は"もののけ"とも呼ばれる幾つもの絵が描かれた襖が現れると、彼らはゆっくりと出てくる。
「お、親父さん……」
「美羽はどうした」
「み、美羽なら今、イリスと一緒に"アフティオアメス"の所に」
「なら呼び戻せ」
「(呼び戻せって言われても……)」
美羽達を呼び戻せと言われ、憲明が困ったような顔をするから私はそこで、八岐大蛇に頼んだら良いんじゃないかと伝えた。
「あっ、ああそっか、俺の影に分身がいるんだっけ。頼む、今すぐ戻ってきてくれって伝えてくれないか?」
すると彼の影から八岐大蛇の分身が顔を出し。分かったと言うとまた影に潜る。
「親父さん、これで美羽達が戻って来ると思います」
「分かった。ならここにいられたんじゃ邪魔だ、とっとと下がれ」
何時もなら邪魔だと言われてもその場に居させろとうるさい憲明でも、この時ばかりは素直に言うことを聞いて後ろへと下がった。
憲明は気付いたのでしょ。
我が儘を言って守行を困らせるのは良くない事に。
「行け。これ以上の被害が拡大する前に、オルカルミアルだけでも仕留めてこい」
守行の命令に、"猫又"、"覚"、"牛鬼"、"雪女"、"鎌鼬"と、妖怪と呼ばれる存在が一斉に飛んでいく。
「お前もだ"がしゃ"」
<……御意>
最後に、ガイコツが描かれた巨大な襖から禍々(まがまが)しい姿の巨大なガイコツがゆっくり出てくると、それは地響きをたてながら歩きだす。
「アレが……、"餓舎髑髏"……、っすか……」
……なんて禍々(まがまが)しさだ。
憲明や他の子達がその姿に驚いて固まってしまう。
それは私も例外じゃ無い。
その見た目は巨大なガイコツ。されど、そのガイコツは闇を纏い、その周りには数多くの怨霊達を引き連れている。
<……それでどっちが敵なんでしょう?>
「……おい憲明、ミルクとオルカルミアルがやり合ってるあのヤローはなんだ?」
「……アレがノーフェイスっす」
「……成る程。がしゃ、お前は取り敢えずあのオルカルミアルを止めろ」
<……御意>
「……憲明」
"餓舎髑髏"に指示を出した守行は憲明に顔を向け。
「よく逃げてきた」
頭に手を置き、力強く撫でた。
「その判断は間違っちゃいねえ。適わない敵だと判断し、逃げるのもそれは正しい事だ」
「……でも、悔しいです!」
「だが生きてる。生きてるならどれだけでもやり直す事が出来る。それが解らねえままだとただ無意味に生きるだけだ。まっ、取り敢えず今は休め」
力強く、そして優しく守行は微笑んだ。
「そうだ……、親父さんにその……、報……告がぁ……」
憲明はそこで美羽がカズに頼み、付き合っていた記憶を封印してもらった事を伝えると。
「はあぁぁ……、何考えてんだあの馬鹿娘はったく……」
大きな溜め息を吐いてから怒って良いのかどうしたら良いのか、困った顔になると黙ってしまった。
そんな守行に私は、心底尊敬出来る友が出来て嬉しく思う。




