第332話 かおなし
「悪い、またせた」
「……おせえよ」
ようやく到着すると、カズは展望台の割れた窓に腰掛けながら美羽を大切そうに抱き抱えていた。
「いろんな場所が水没しちまってたからバイクで通れなくなっちまっててさ。だから途中から走ったり跳んだりしてようやく来れた」
「まっ、しかたねえか。んじゃ、美羽を頼む」
「おう」
「……美羽の願いで付き合ってた時の記憶を封じさせてあるから、上手く話を合わせてくれ」
「……は? なにしてんだよお前ら、なんでそんな大事な記憶を封じてんだよ。合わせる俺達の事も考えろよなぁ……」
なんとな~く2人の気持ちが分からなくもないから、それ以上の事を言うつもりは無い。
美羽としては最後に、手を抜くかもって思うからそうしたんだろうし。カズはそれで辛い想いをさせたくねえからなんだろ。
でも2人とも馬鹿だ。
「んじゃ、俺はそろそろ」
「まてよ。……お前にひとつ、言わなきゃならねえ事があるんだ」
背を向けてゲートを開こうとしたカズを止め、俺はダリアの事を伝えた。
……聞いたカズは左手で窓枠を握ると、凶悪な握力で簡単に破壊する。
「……すまん、まだ、誰がダリアを殺したのか解ってない」
「……いや、お前が謝る必要はねえよ。ましてや、俺達は今敵対してるんだ。……だからそれでダリアが死んだなら、それはそれでまだ、納得出来る。だが……!」
そう、カズの言う通り「だが」だ。
「他の奴らが介入してダリアを殺したとするならそれはけっして許すわけにはいかねえよ!」
「……俺もそう思う。エルピスが率いる天界軍、冥獣軍、冥王軍、自衛隊、アメリカ軍、俺なりに調べたけど、どこもダリアを殺してない。……つまり」
「あぁ、新たな勢力が介入してきたと考えるべきだ。……まぁ、俺の敵は多いから仕方ねえのかもな」
「いや、仕方なくなんかねえよ。だったら堂々と俺達みてえにお前らと戦うって言えば良いんだ。それなのに何も言わないでコソコソしてるのが悪い。味方が増えるのは嬉しいぜ? でも、お前じゃなくてもそれは俺も気に入らねえよ」
「……そうか、そうだな……」
「……お話のところ申し訳ありません、そろそろお時間となります」
そこへゼストがスッと現れるとゲートを開く。
「……ありがとな憲明。んじゃ、またな」
「……おう! またな!」
カズを見送ってから帰ろうとまつと。
「……ダリアの件、教えてくて感謝する」
ゼストが俺に頭を下げた。
「ダリアを殺した者が解り次第対処させてもらう」
「俺達もそのつもりだ。だってダリアは……、だって……、親父さんと解り合えてこっちに来てくれそうだったんだ……。お前らには悪いけど、だからよ……」
「皆まで言うな、大丈夫、お前達の気持ちは我らにも届いている。故にそうなれば我らは許せただろう……。ではな……」
「あぁ……、またなゼスト」
ゲートに入って消えていく。
すると、ゼストが急にこっちへ向き直り、右手を胸に当てて頭を下げるとゲートは閉じた。
「別にお前に感謝されるような事なんて……」
そこで俺は外に視線を向けた。
「なんか今日の雨は何時もより優しいな……」
美羽を抱え、戻ろうとしたら壁の向こう側に一樹達が静かに待っていた。
「お前らなんでいるんだよ」
「は? なんで? なんでじゃねえだろ。俺達だって美羽を迎えに来たんじゃねえか」
「いやそれはなんとなく解るけどよ。……んじゃさっきの会話」
「全部聞いてたよ。……ったくこの馬鹿、なに勝手に記憶を封じてんだよ。カズもカズだ。2人してなんでそんな馬鹿な事すんだよ」
だよな……。
「ちっ、今言ってもしゃーねーから、全部終わってから文句言ってやる。ほら、行こうぜ」
「……あぁ、そうだな」
つくづく良い友達を持てたって思う。
一樹、ヤッさん、サーちゃんにシーちゃん、それに他の連中皆。
嬉しくてついつい目頭が熱くなっちまうのをこらえ、俺達は下に降りた。
「さ~て、……とりあえずどうやって帰ろう?」
下手に動いて美羽を起こしたくねえし、かと言って傘を持って来てないから雨の中ずぶ濡れになって帰りたくもない。
……うん、困った。
「誰か傘ねえか?」
聞くと誰も持っていない。
うん、これじゃ風邪をひいちまう。
「はぁ……、お前、俺が水を操れるの忘れてねえか?」
……あ。
「ほら、こうすりゃ誰も濡れねえで済む」
「助かる」
一樹が降ってる雨を操って濡れないようにしてくれると。
「おや?」
「「?!!」」
「傘が必要だと思って用意したんだけど、いらなかったかな?」
……コイツ、いつの間に。
音も無くそいつは突然、俺達に声をかけた。
「そう警戒しなくとも、今はなにもしないよ。今は、ね?」
黒いハット帽を被り、不気味仮面を着けた奴にんなこと言われて警戒を解く馬鹿はいねーよ。
それにまったく気配を感じないし、俺はそいつが明確な敵だって事は解っていた。
「てめぇ、"邪竜教"だな?」
"邪竜教"。俺達の敵であり、カズ達にとっても敵になる謎めいた第三勢力。
前にロゼリアがいた組織だ。
しかもそこのリーダーがカズの魂を2つに分け、カズがおかしくなった元凶でもある。
そんな奴がリーダーをしてる組織、敵以外のなにもんでもねえよ。
「どうして私が"邪竜教"だと?」
「そんな不気味な仮面着けてりゃ誰だってそう思うだろうが」
「だけど、あの冥竜もつけてたよね?」
なんで……。
「なんでテメェ知ってんだよ? あ? 答えろ!」
「何故? 何故と私に聞くかい? ふふっ、ふははははははははっ! それは当たり前だからだよ憲明君!」
そういやロゼリアが俺達を知ってたみてえに、きっとコイツも俺達を知ってるんだな。
「降ろしてノリちゃん」
美羽?!
「……悪い、起こしちまったな」
「大丈夫。でもなんでだろ……、カズと会って、何か、話をしてたらいつの間にか寝ちゃってた。カズは行ったの?」
「……お前に宜しくって言って戻っていった」
「そっか……、ちゃんとカズに告白したかったんだけどな」
「「……」」
告白したかったって事は、冗談抜きで記憶が封印さちまったのか。
「それで? なんでアンタがいんの? "ノーフェイス"」
「ノーフェイス……、って! コイツがノーフェイスなのかよ!」
「おや? 君は私がノーフェイスだと気づいていなかったのかな?」
「……ぶっ殺す。元凶の方からわざわざ来てくれたならここで、テメェをぶっ殺す」
「おやおや穏やかじゃないねまったく。私がここへ来たのは挨拶がしたかっただけなんだけどね」
「黙れ、喋んな。テメェのせいでカズはおかしくなっちまったんだぞ? テメェがいなけりゃ今この時だってカズはカズのままだったかも知れねえんだぞ? 頼むからここで死んでくれねえか?」
「ははははは! 君に私は殺せやしないよ! 君は思ってたより面白いようだ。どうだい? 今度会う時はゆっくりとお喋りしようじゃないか憲明君」
冗談じゃねぇ、なんでコイツとお喋りしなきゃなんねえんだよ。
とりあえずここでコイツを殺さねえと。
ノーフェイスだって知った俺はここで殺すって考えしか頭になかった。
「待てよ憲明」
「あ?」
「テメェだけがぶちギレてるんじゃねえんだぞ?」
「……そうだな」
俺だけじゃない。一樹、ヤッさん、サーちゃん、シーちゃん、美羽、イリス、皆このノーフェイスってクソヤロウを殺したい気持ちでいた。
「やれやれ、では少し遊んであげるとしよう」




