第325話 占いによる恐怖
クレープを食べ終わった後、俺達は学園の3階にある休憩スペースまで移動して休んでいた。
3階は食い物とかを出してはいないんだけど、学生が作った彫刻や油絵とかを飾っていたり、占い、休憩スペースなんかがある。
学園は広い。これでもかって言うくらい広い。
だからこそ、学園の至る場所に休憩スペースが設けられていた。
「そういやイリス、アイツは今どうしてるんだ?」
「ん~?」
ん~? って、そんな可愛い顔で俺の太ももの上で返事をされても……。
可愛いから許す!
「今日も元気いっぱいに遊んでるよ」
「そっか。まっ、クロ達が一緒にいてくれてるから安心か」
なんの話しかって言うと、イリスがテイムする事になった"デスタニア"の子供、"トワ"の事だ。
イリスが引き取ってから暫く経つけど、まだそこまで大きくなっていない。せいぜい柴犬ぐらい、っと言っても解らないだろうけど、だいたい40センチあるか無いかってくらいの大きさになる。
臆病で人見知り。いつもイリスの影に隠れて周りを気にする。だけど慣れたらほんと、犬みたいに寄ってきて可愛い。
「あのつぶらな瞳でさ、遊んでって来られると可愛くてたまらねえよな」
「そうなんだよ、アイツ、ボール遊びが好きでさ。それに意外と走るのも好きみたいなんだ」
「もうコウモリの姿した犬だな」
「うん、だけどまだ戦闘訓練とか出来なくてさ。やっと少しは飛ぶ練習に入ったけど」
「まだ小さいし無理しなくていいんじゃねえか?」
「だけどよ、……どうにか仇を取らせてやりてえし」
イリスの気持ちは確かに分かる。
だけど、肝心のルークは先生が連れていったからそう簡単に会えなくなったし。
それに……、先生が本気になった時のあの羽。
まるでルークと同じ、"デスタニア"みたいな羽だったな……。
いや、でもまさか、さすがにそこまでしないだろ。
この時の俺は最悪な事を考えて不安を感じた。
「まっ、そう心配すんなよ。今はトワの事を大事に育てる事だけ考えればいいだろ」
「まぁ……な」
「それよりちょっと気になるとこ行かねえか?」
休憩をやめて向かった先は占いをしてくれる場所。
見るからに怪しい雰囲気が漂っているけど、面白そうだから入ることにした。
入ると左右から囲まれるような形で数人の連中が持ってる蝋燭に火を灯し、顔を黒い布で隠した奴らが俺達を出迎える。
「「ようこそ、"占いの館"へ」」
「良い意味で雰囲気出てるじゃねえか」
「そうだな」
「どうぞこちらへ」
1人の生徒に案内されて奥に進むと、そこには3人の生徒が並んで俺達を待っていた。
「ようこそお越し下さいました。只今の時間、"運命"、"失せ物"、"現在"、この3つを占っておりますが、どちらに致しましょう」
"運命"、"失せ物"、"現在"か。
んじゃここは"運命"かな。
「"運命"で」
「わかりました」
「ちゃんと占えるのか~?」
イリスが疑ってかかるけど。
「勿論に御座います。ではこちらへどうぞ」
担当してくれる眼鏡女子に案内されると、中央に水晶玉が置いてある空間に入った。
「ではどうぞお掛け下さい」
イリスは占いに興味無いって感じで俺の後ろに立ち。取りあえず俺は椅子に座ってこれからの"運命"を占ってもらうことにした。
「では質問致します。まず、お名前と生年月日をお願いします」
俺は名前と生年月日を伝えた後、俺はこれから先の未来の運命が、占いでどう出るのか興味があったから聞いた。
「未来、ですか。元々"運命占い"は、これから先の未来を占うものですから可能です。ですが先にご説明させて頂きますね。ーー 私は"運命"を専門に学び、他の生徒より鮮明な映像を、出来得る限りこの水晶玉に映し出す事が出来ます。ですが、映し出された映像が、「何時」、「何処で」、と言うものは解りません。それに映し出されたものがどれ程の時間なのかさえ定かではないため、予め御了承下さい」
「なるほど、了解だ」
「では、貴方の血が必要になりますのでコレを使って指に軽く刺し。血を一滴、水晶に垂らして下さい」
金の針を手渡された俺は、軽く人指し指に刺して血を水晶玉に垂らした。
「では始めます。ーー あまねく運命に問う。彼の者の運命をこの水晶に写し。如何なる幸福、如何なる困難、如何なる運命だろうと彼の者の前に映し出さん」
水晶に両手をかざしてそう言うと、水晶玉の中心に黒いモヤが出てきて広がる。
この時の俺は正直言うとワクワクしてた。
だけどそれは直ぐ無くなる。
「見えてきました!」
「ん!」
すると、黒いモヤの中から俺が誰かと戦ってる映像が広がる。
それも、全身から血を大量に流してボロボロになりながら。
「の、憲明……」
誰だ……、これは誰と戦ってるだ……?
しかもそこに映し出されたのは俺だけじゃない。
美羽、一樹、ヤッさん、その他の連中が誰かを前にして満身創痍の状態だ。
…………やっぱお前なのか?
「おい! 憲明!」
「黙っててくれ、イリス……」
「クッ…………」
出てこい……。どうせお前なんだろ? ……カズ。
予想通り、水晶に映る俺達の前には静かに佇む……。
ーー 夜の如き漆黒の魔竜になったカズがいた。
映ったその瞬間から強烈な吐き気が襲ってくる程の、死と言う名の恐怖と絶望感はハンパじゃない。
「な……、なんですか……コレは……?!」
映像に出てきただけでなんなんだよこの恐怖……。
はっ!
その時の俺は気づいた。
占ってくれている生徒とイリスの他に、近くにいる連中までもが恐怖で呻いている。
それに俺自身も体をガタガタと震わせ、体中から大量の汗を噴き出させながら呻いている。
ヤバい……! 本当になんなんだよ! 映像だけで感じるこの恐怖は?!
この時の俺はその映像だけでもどれだけ危険な事だったのか、全然思考が追い付いていなかった。
ーー 竜になったカズの目がゆっくりと見開かれ…………。
全身の血が逆流して口から吐き出しそうな程の、純然たる"死"の感覚が襲う。
……同時に、水晶が割れて大きく弾け飛んだ。
「ここここ……、怖い…………」
カズが怖い。
"死"、"恐怖"、"絶望"、"虚無"。
まったく容赦の無い圧倒的なまでの、……純粋な"悪意"。
無理だ……、どう考えても勝てる見込みが無い……。
なんだよアレ……。なんで映像だけでここまでの恐怖を振り撒ける事が出来るんだよ?!
おかしいだろ!!
何度も感じた事のある、カズから漂っていた"死"や"恐怖"。
……映像を見た後の俺が言える事は1つ。
今までのその感覚はまるでその力をもっと抑えていたんじゃねえのかってくらいで。言うなら今まで感じた恐怖は何十分の1にまで抑えてたんじゃねえのかってくらいだった。
「馬鹿げてるにも程があるだろ……!」
「の……、憲明……」
「イリス! 大丈夫か?!」
あのイリスさえその場でうずくまって泣き、吐いていた……。
イリスがそこまで酷い状態になるのは初めてだ。
「む……無理だ……、勝ち目なんて……無いよ……」
それに弱気になってもいる。
歯をガチガチ鳴らし、カズを裏切った事を後悔してるって顔だ。
ありゃ……"直視之魔眼"だったのか……?
見るもの全てを殺す事が出来るカズの力。
おそらく、"魂沌之魔眼"だろ。
その目に映る全ての命を一瞬で殺す事が出来るって言っていた目。
でも俺達は生きている。それはきっと、水晶玉を通してって事もあるんだろうし、俺達の代わりに割れて粉々になったからなのかもしれない。
でも解らない。本当に映像に映った瞬間の目が、その"直視之魔眼"なのか。
「のりあきぃ……、怖いよぉ……」
それでもこれだけは解る。
解ってたつもりだけどそれは解っちゃいなかったって、……事をな。




