第316話 荒れる海 6
魔王なのに紳士然としたマスターが"天叢雲剣"を握り締めるその姿は、後ろ姿だけでもカッコいいと思う。
「皆さんに下がるよう伝えてください」
「う、ウッス!」
何をするか分からねえ、けど声からしてよっぽどアブねえ事をする気がした俺は急いで全員を下がらせると、マスターは"天叢雲剣"の刃先をオルカルミアルに向けて構え。
「そんなに腹が減ってるならたらふくお食べなさい」
黒い魔力エネルギーを放ち、その熱で雨や海水を蒸発させながらオルカルミアルに迫ると、オルカルミアルは大口を開けてそれを飲み込み始める。
そして。
<クッ! クオッオッオン!!>
「腹が破裂するまで食べれば宜しい!」
オルカルミアルの体が風船みたいに膨れ上がり始めると、口の中で爆発。
同時に体のあちこちが裂けて血を噴き出した。
「どうしたメルヒス! あの方から頂いた能力で今の攻撃を吸収し! より強く成長したらどうだ!!」
吸収して成長、ってことはやっぱ"吸収"ってスキルはアイツがより強くなるための能力ってことか。
けど一度に吸収出来る許容範囲を越えたからなのか、オルカルミアルの体が耐えきることが出来ずに破裂したってことだと思う。
そうと分かればどうにか倒す事が出来ると思った俺達は、次々とオルカルミアルに向けて魔法攻撃をこれでもかってくらい放ち、わざと吸収させて自爆させようとしたんだけど。
それに耐えきれなくなったオルカルミアルは海に潜ると逃げ出した。
「美羽!! 追跡出来るか?!!」
「誰に聞いてんのよ! そんなの簡単に出来るわよ!」
八岐大蛇を影の中に戻らせ、美羽はアクアに追跡させると上空から銀月とステラと一緒に後を追う。
「一樹も行けるか?!!」
「ダークスに追跡させる!!」
「頼む!! 俺達は準備出来たら後を追うから何かあれば連絡してくれ!!」
「はいよ!!」
海は大荒れ。
正直、荒れる海だって言うのにそんな状況で追跡させれば命を落としかねない状態だ。
それでもここでオルカルミアルを倒さなければ酷い状況になることが分かるから、美羽と一樹は承諾してくれた。
けど当然。それを邪魔する奴が必ず現れるもんだ。
<ここから先、行かせるわけにはいかんな>
「骸!!」
荒れる海をどんどん凍らせ、美羽と一樹の前に骸が立ちはだかった。
しかもその横には写真とかで報告を聞いたダゴンって奴までいる。
「もしかしたら凶星十三星座の誰かが来るとは思ってたけど、……まさかここで骸が出てくるなんて」
<……お前は随分と強くなったようだな、美羽。だが、それが例えお前であっても簡単に通す訳にはいかんな>
「(最悪……! けっこう強くなったと思ったけど、強くなれば成る程、骸がどれだけ厄介で危険な相手なのかはっきりと分かっちゃう……!) ……カズがアレを可愛がっていたから?」
<それもある。だが、他にも理由があるのだよ美羽>
「なによ他の理由って? どいてくれないなら例え骸でも本気で倒しにいくけど?」
<では相手をさせて貰おうか>
「(ッ! 最悪過ぎるんですけど?! 下手に動けば一瞬で殺されちゃう!)」
「骸!! お前の相手は俺だろ!!」
<……では憲明、ここで私の相手をしてもらうとしようか>
「望むところだぜ!!」
骸にはデカい借りがある。
俺の訓練を見てくれたり、アドバイスを貰ったり、なんだかんだ言って俺の事を考えてくれた。
殺そうと思えば何時だって出来た。
カズを迎えに来た時なんて手をぬいてたくれえだ。
今日、今ここで決着をつけなきゃならねえって言うのかよ? 骸…………。
海ほたるまで凍った海の上に乗り。
俺はさんざん世話をしてくれた骸を、これまでの事を思い出しながらゆっくりとした足どりで歩いた。
「憲明さん」
「……すんませんマスター、相手が誰であれ、アイツの相手は誰にも譲る気は無いっす」
後ろから心配そうに声をかけてくれるマスターには本当に申し訳ねえけど、……なにがなんだろうと骸の相手をする事は誰であれ譲りたく無い。
…………骸。
今の俺なんかが骸を倒せるなんて、微塵も思っちゃいねえ。
……お前の相手は俺だ。
それにしても、この日が来るのがあまりにも早い気がする。
………………骸! 俺としてはもっと後になってからこの日が来ると思ってたよ!
「ム~ク~ロ~!!」
<ふふっ、あれからどれだけ強くなったか、見させてもらうぞ憲明!!>
「骸ーー!!」
「ノリちゃん!! ノリちゃんだけでどうにかなる相手じゃないでしょ!! ここは皆で協力しよっ!!」
本音を言えば美羽達と協力して骸と戦いたくなかったさ。
だけどさ……、やっぱ美羽達にとっても骸の存在はけっこうデカかったし、俺と同じ気持ちだと思うと断ることは出来なかった。
<ダゴン、悪いが手を出さずに見ていてくれ>
<……承知シタ。…………死ヌナヨ?>
<クハハッ、難しい頼みだなそれは。…………さぁ、何処からでも掛かってこい!! 私は全力でお前達を殺しに掛かるぞ!!>
骸をよく知る俺達だけで、その日初めて命を掛けた戦いが始まろうとしていた。
なのに。
「させる訳にはいかないでしょお馬鹿さん」
「「?!!」」
その日は骸と決着を着ける日になるって覚悟して挑もうとしてたのに。
「どうして……、どうしてそうやって何時も邪魔ばかりするんだよ先生!!」
空高くから機嫌悪そうな顔で骸を睨み付けていると、今度は俺達に向けてギロッと、吐き気がするような強烈な目で睨み付けてきた。
「逆に感謝して欲しいわね」
「ざけんなっ!! そうやって俺達の邪魔して何がおもしれえんだよ!! 俺達が……、俺達がどんな想いで骸と戦おうとしてるか気づいてるくせによ!!」
言葉通りだ。
先生自身は気づいてねえみてえだけど、口元を僅かに歪めて震えてる。
先生だって分かってるんだ、俺達がどれだけ骸が好きなのか。
それでも……、それでも倒さなきゃ前に進むことが出来ねえって言うのなら、どれだけ骸の事が好きでも倒さなきゃいけない。
カズを助ける為にも…………、止めるためにも!
「先生……、アンタが何考えてるかしんねえけど、それでも俺達の敵になってさ、そうやって何度も立ち塞がるならさ……、俺の手でアンタを倒してでもカズの前まで行ってやる! アンタにどんな理由があるかなんて関係ねえ! 未来をこの手に掴み取ってみせる! 未来を変えてやる!! 救うんだ!!」
「戯れ言を」
「先生さぁ、先生は俺達と骸が戦うのを見たくねえからそんな顔するし止めに入ったんだろ?」
「なんですって?」
「んじゃなんでわざわざ止めに来たんだよ? ん? 俺達なんかに骸がそう簡単に倒される訳ねえって思ってるならわざわざ止めにくるかよ!! 骸を信じてるなら普通来ねえだろ!!」
するともっと怖い目で俺達を睨みはじめ。
「さっきから好き放題言って。それに、未来を……変えるですって? だったらやって見せなさい! 誰もあの子を止める事は出来やしないのにそれでもやろうとするならやってみなさい!!」
「んじゃ先生!! アンタを倒したらその口から隠してること全部話してもらうから覚悟しやがれ!!」
「やれるものならやってみなさいよ!!」
先生がどうして急にそこまで取り乱したかなんて知らねぇ。
でもこれは好機だ。
<失礼だがその前に、私の邪魔をするのは、それは無いのではないか?>
「黙ってて!! これは私とこの子達の問題なの!! いくら貴方でも私の邪魔は許さない!!」
物凄い剣幕で骸にそう言い放つと降りてくる。
ようやくやる気になった。
「ここで殺してあげる。さっさと掛かってきなさい!!」
「上等だ!!」
骸が邪魔しに来て決着を着けるかと思えば、今度は先生が邪魔をしに来て戦うことになる。
俺達が勝てるような相手じゃねえのは分かってる、けど俺達はついさっきまで骸を相手にしようとしてたんだ。
骸は先生なんかよりもっと強い格上の大幹部。
だったらここで負けるわけにはいかない!!
「行くぞお前ら!!」




