第309話 焦り
「くそったれ!!」
夜城邸に戻った俺は先生に対してムカついていた。
「いい加減落ち着け、俺だって正直ムカついたけどどうしようも出来なかっただろ」
「だからムカつくんだろ!!」
どうしようも出来ない、圧倒的なまでの力の差が解るからこそ俺は先生に対してムカついていたし、自分自身の弱さにもムカついていた。
このままじゃカズが目を覚ましても相手にすらしてくれねぇ……。
それどころか! アイツの性格からして俺達をわざと生かしたまま変わり果てた世界を見せるつもりだしそうなったら生き地獄と一緒じゃねえか……っ!!
カズは先生よりもっと強い! それは解ってる! "時渡り"で見て知ったカズは少なくともあの先生をほんの一瞬で殺せるぐらいの力だった! そんなカズが昔の体と融合したんだ、その力はその倍以上になる!
またそんな事を考えれば考えるほど自分がどれだけ無力なのか知ってドツボにはまっていく。
「だからってここで荒れるなよ!!」
「荒れたくもなるだろ!! お前らだって分かってんだろ?!! アイツがどれだけ強いのか知ってんだろ!!」
「それでもテメェはアイツを止めに行くって約束したんだろ!!」
「約束したさ!! でも少しは強くなったかなって思えば思うほどアイツとの差が歴然だからどうしたら良いのか解んなくなっちまうんだろうが!!」
「だからって俺らに当たり散らすんじゃねえよボケが!!」
「別に当たり散らしてねえだろゴルァ!!」
お互い襟首を掴んで睨みあった後、俺から手を放すと一樹も放し、何も言わず俺はそこから離れた。
まぁ俺が悪いんだけどな。
それで居たたまれなくなった俺はクロ達を連れて久しぶりにゼオルクの街に行くことにしたけど、前と比べてどこか静かだ。
カズが冥竜・アルガドゥクスの生まれ変わりだって事を知ったからなのかも知れない。
俺はクロ達と街を歩き回り、気がついたらニアちゃんと悠が眠る墓の前に立っていて、ニアちゃんが死んだ日の夜の事を思い出していた。
思い出すと自然と涙が溢れてくる。
しかもニアちゃんのお腹の中にはカズとの間に出来た子供がいた。
その2つの命を奪われ、ブチギレたカズは暴走して八岐大蛇になって暴れ、マーセルを一方的な力でブチ殺した。
考えてみればその時からもうおかしくなっちまってたんだな…………。
カズを前にして意識を取り戻したニアちゃんはカズに殺される事を望み、カズは泣きながらニアちゃんを抱き締めるとその望みを叶えるために…………、銃の引き金を引いた。
あの時のカズを思えばどれだけツラかったのか理解出来る。
そしてその後に子供がいたと発覚したかと思えば殺されていて…………。
よく正気を保ってられたと思う。
それだけでまた世界を憎んでいたかもって思うと、今のカズは昔の冥竜だった頃に比べたらまだマシな筈だ。
俺が冥竜だったらあの時から世界を滅ぼす為に動いていたかもしれねえな。
…………マジで可哀想過ぎる。
ここで改めてカズがどうして演技をしてたのかや、何が目的でまた冥竜として動くことにしたのかを考えてみることにした。
考えても俺でじゃその答えなんて出やしねえと思うけど、考えないよりはマシだと思ったからなんだけどさ、案の定どれだけ考えても答えなんて出やしなかった。
……強くなるだけじゃダメなのか?
骸やゼストからなにか強い信念は感じていた。
世界を取り戻し、あるべき姿に戻す。けどその為にはカズの命が必要になるけどそれをカズは承知している。
そんなカズをゼスト、骸、ミルクの3人が槍でコアを突き刺して動きを止めた。
理由は神を食い殺し、その力を手に入れてからアイツの中に確実に、正真正銘のもう一人のカズが存在していたから。
「クソッ! でもどうやってアイツを助けたらいいんだよ!!」
この事を他の奴らに簡単に話して良いものなのかすら判断出来ない。
話すならもっと慎重に話さなきゃダメだ。
「……なぁニアちゃん、俺、どうすりゃアイツを助けてやれるのかなぁ……」
聞いたって何かを言って貰える訳が無い。
「……俺も旅に出ようかな」
この目でもっと世界を見て回りたい。
そうすればきっと答えが見つかるかも知れないって思えた。
「でもその前にアイツをどうにかしなきゃだな」
悔しくて忘れてたけど、俺達が"埼玉エリア"に行った目的は"オルカルミアル"を討伐する為に、空中から攻撃出来るパートナーを探す事が目的だった。
そのパートナー探しをするついでに調査をしていたところ、ルークが現れて戦闘になり、先生までで張ってきた。
「はぁ……、何してんだろ俺……」
目的を見失っていた事に気づくと、なんだか恥ずかしぃ……。
「戻るか……」
【オルカルミアル討伐作戦】まで残り2週間を切っていた。
下手に討伐作戦までの時間を作っちまったらその間にレベルを上げてるかもしんねえし、ランクもあがっちまうかもな。
でも米海軍や日本海軍の準備も結構時間が掛かる。
向こうでもどうすれば有効なのかを模索しつつ準備を進め、俺達と連携して"オルカルミアル"の討伐遂行の為に動いてる。
水中にいる"オルカルミアル"はその縄張りを東京湾から小笠原諸島近海まで拡大させてるし、悠長にしてたらもっと行動範囲を広げてもっとパニックになる恐れもある。
そうなればこっちの世界の生態系とかがもっとヤバい。
"オルカルミアル"はクジラとエイを合わせ、ウミウシも足したような見た目のモンスターだけど、その性格は1匹狼って感じで群れることを嫌うんだとか。だからこそ、その強さは計り知れないし、環境さえ整ってしまえばいくらでも強くなっちまう古代モンスターなんだと。又、そんな"オルカルミアル"が絶滅した理由は別のモンスターが群れを作るようになり、1匹の"オルカルミアル"に対して10から30匹の集団で遅い始めたのが原因なんだとかで詳細は不明。
その"オルカルミアル"をカズはどこで見つけ、どんな風にして捕まえたのか解らねえけど、相当強力なモンスターってことぐらいしかまだ解ってない。
「帰るか。帰って対策をもっと練らねえと被害が相当デカくなっちまうからな」
<ガウッ>
でも空を飛ぶパートナーがマジで欲しいなぁ。
そんなことを考えながら帰っていると。
「あっ」
「おや?」
買い物袋を持った元凶星十三星座の1人で魔王って呼ばれ、日本ではスサノオノミコトとして呼ばれているマスターこと新庄さんとばったりと会った。
「こんにちは」
「どもっす……」
ニコッと穏やかで優しい笑顔を向けてくれるマスターは、「少しだけ時間を頂いても宜しいですか?」って言ってくれると自分の店に招き入れ、カウンターの中に入ると黙ってコーヒーを煎れてくれる。
そんなマスターは何があったのか聞いてこない。
笑顔を崩さずただ黙ってコーヒー煎れると、それを静かにくれた。
「いいんすか?」
「今日はお店が休みですから、それは気持ちです」
「……いただきます」
「はい、どうぞゆっくりとお飲み下さい」
マスターは何があったのか全然聞くことがなく、ただ黙って俺と一緒にコーヒーを飲む。
それがなんだか温かくって、ただ一緒に飲んでくれるだけでこんなに嬉しいもんなんだって気づく事が出来た。




