第308話 否定してたのに
<キイイイィィィィィッ!!>
やっぱまだ生きてたか。
胸を"紅蓮爆炎斬"で斬ったからその大きな傷から血が流れ、ルークは飛ぶことさえ出来なくなったのか、弱々しくこちらに近づいてくる。
「まだやるって言うのかよ?」
<キイイイィィィィィッ!!>
「例えSランクだろうと、その傷でじゃもうまともに戦えねえんじゃねえのか?」
<キイイイィィィィィッ!!>
黙れ。そう言ってるように聞こえる俺は引導を渡す為、もう一度抜刀の構えをする。
「ここでお前を確実に仕留める」
<キイイイィィィィィッ!!>
殺れるものなら殺ってみろ。今度はそんな風に聞こえて、確実にルークの頭を切り落とそうと一歩踏み込んだ。
「じゃあな、ルーク。……あの世でお前の仲間だった他の"デスタニア"達に怒られて反省しろや!!」
ー 紅蓮爆炎斬 ー
「うおおおるあアアアアアアッ!!」
<キイイイィィィィィィィィッ!!>
向こうも向かってくる。
俺はそのまま前に出てルークの攻撃を避ける前に斬り殺そうと首を狙って抜刀したんだけど。
「はいそこまで」
「んなッ?!!」
<キッ?!!>
俺達の間に割って入ってきただけじゃなく、ルークの鉤爪と俺の剣を素手で受け止め、その場の戦闘を先生が止めた。
「邪魔しに来たんすか先生!!」
「囀ずらないでうるさいから」
握り締めるヴァーミリオンがビクともしない。
ヴァンパイアの姿じゃなく普通の人間の状態でも、ここまでレベルが違うのかって思うと恐怖を感じるけど、そんなことより俺は邪魔をされたのが無性にムカついて怒鳴り、その俺を先生は冷たい目で静かに睨んだ。
「探したわよルーク」
ルークを探してたのか?!
「一緒に来なさい」
<ギイィッ!>
「黙りなさい。お前がこんな所で死ねば誰が一番悲しむと思ってるのかしら? あの子に忠誠を誓ったのなら、そろそろ戻ってきなさい」
<ギッ?!!>
先生の冷たい睨みと、きっとカズの事を言ってるんだろ。
ルークがガタガタと体を震わせると先生は鉤爪から手を放し、ベリーが地響きと一緒に顔を出すとその上にルークが飛び乗る。
「じゃ、私達は失礼するわね」
「待てよ先生! はいそうですかって俺達が納得するとでも思ったんすか!」
「ちょっ?! 憲明!」
「悔しくねえのかよ! 散々俺達の邪魔をして、親父さんを悲しませたルークを、ようやく後少しで倒せそうだったのにいきなり出てきたかと思えばその邪魔をされたんだぞ!! カズの命令なのかどうか知らねえけど邪魔するなら例えアンタでもここでブッた切る!!」
一樹が俺を止めようとするけど、ムカついた俺はそれを無視して先生に怒鳴った。
「ふふふっ、んふふっ」
「なにが可笑しいんすか!」
「憲明君、君が余りにも可愛いからよ」
そこで先生は人間からヴァンパイアの姿となると、一瞬でその右手は俺の首を鷲掴みすると軽く持ち上げられた。
「憲明!!」
「動かないでちょうだいね、一樹君。力加減を間違えてこの子の首を折ってしまうわよ?」
力の差が歴然だった。
抵抗したくても体が動かない。先生から放たれている冷たい殺気、気配、存在、その全てのせいなのか、俺は息をする事すら忘れて恐怖した。
「ふふっ、軽く威嚇しただけでなにをそんなに怯えているのかしら? まあ良いわ、返してあげる」
「うっ!!」
先生は一樹に向けて軽く俺を投げたつもりなんだろうけど、一樹にぶつかるとボーリンクのピンみたいにそのまま2人して吹っ飛んだ。
「あらごめんなさい、少し力加減を間違えたわ」
……異常だ。
俺のヴァーミリオンを素手で受け止めたり、俺を軽く投げ飛ばすぐらい強いのは分かってたけど、先生から放たれている魔力量が異常なくらい増えている。
まるでカズじゃねえか……。
雰囲気がどこかカズに近い。
体が恐怖で動かないけど、どうにかその場から起き上がって俺は他にどこが今までと違うのか見ると。
まず頭に生えた小さい羽が変わっていて、炎と言うか、陽炎みたいになっている。
次に腰から生えている羽が前よりどこかデカくなっているし、どこか不気味な雰囲気が強まっている。
そこまでならヴァンパイアなんだからそんなもんだろって思われるかもしんねえけど、俺の知ってる姿とは違っていて違和感しか覚えない。
何か違う。
そう思ってもどこが変わってるのか解らないし、気付けない。
「どうしたのかしら? そんなに私をジロジロ見て」
「前と違って何か違和感を感じるから何が違うのか探してるんすよ」
「へ~、でもそんなに女性をジロジロ見てたらよくないわよ?」
……あぁなるほど、後ろに十字架みたいなのが浮いてるからか。
十字架って言っていいものなのか解らねえけど、それが武器なのか先生が集めた血なのかも不明。けど赤色のデカい十字架みたいなものが宙に浮いている。
「…………マジか」
中心をよく見ればそこに、いくつもの髑髏みたいな顔が苦しそうな表情で次々と浮かび上がっているじゃねえか。
「まさか先生、それってやっぱり血なのかよ?」
「そうだけどなに?」
「イカれてやがる! カズもそうだけどアンタもアンタだ!! それって生きた人達なんだろ!!」
「あら、よくそこまで解ったわね」
「散々カズの"堕天竜"の存在を否定してたのに!! なんでそんなアンタまでそんなもんを持つんだよ!!」
「あの子が私用にと、密かに作っていた剣なの。それをあの子が眠る前に改めて強化され、手渡されたわ。名は、"鮮血十字"よ」
大剣よりもデカい剣で先生の身長よりまだデカい。
そんなもの、自分よりデカい剣なのにちゃんと振れるのかと疑問に思うけど、先生の力とかを考えたら簡単に振るえるんだろ。
「だからと言ってよく受け入れられましたね。ほんと、頭がイカれてるとしか出てこねえっすよ」
「なんとでも言うと良いわ。私は受け入れた。あの子の側にいると決めた以上、私はどんなものでも受け入れ、あの子の力になる」
「正気で言ってるならマジでどうかしてるぜ。だったら……、俺がアンタの目を覚まさせてやるだけだ!!」
「やるつもりかしら? 力の差を知ってて挑んでくるのならそれこそ頭がどうかしてるんじゃないかしら?」
その通りだけどこの人をここで止めなきゃこの先きっと良くないことになるかもしんねえ!!
はっきり言って怖い。
真正面から向き合うだけで身の毛がよだつくらい気持ち悪いし、この場から出来るだけ離れてえって理性では分かってるけど、ここで止めなきゃマジでもっとおかしくなりかねないと思ってどうにか踏み止まる事が出来ていた。
「憲明、これ、ヤバすぎるぞ」
「分かってる!」
「ここでこの人を止めなきゃこの先もっと酷くなるかもしんねえって思うけど、ここは一旦逃げたほうがいいんじゃねえか?」
一樹も先生がどれだけ危険な存在なのか解ってるんだろ。
だけどここで逃げたとして、先生がもっと強力な力を手に入れたらと思うと俺は……、逃げたくてもここで逃げたら敗けだと思ってしまう。
「ふふっ、ここで相手をしてあげても良いけど、それをしたらきっとあの子に怒られるからやめてあげるわ」
「カズはまだ寝てるんじゃないんすか?」
「寝てるわ。だけど、時々頭の中にあの子の声が届くのよ。"念話"なのかどうか解らないけど、それで定期報告をしてるの。だから貴方達と戦ったと報告すれば私はあの子に怒られる事になるからここで帰らせてもらうわ」
定期報告をするなら凶星十三星座のリーダーであるゼストがまとめてする筈だ。
それなのにどうして先生まで定期報告をする必要があるんだと考えた俺は、凶星十三星座全員が一人一人定期報告をするようなめんどくさい事をしてるのかって考えに行き着いた。
「じゃ、私達はこれで行くわね。あの子を止めたいなら私を簡単に倒せるだけの力を付けることね」
「んなもん言われなくても解ってるっすよ!」
「そっ、だと良いんだけど」
そう言って先生達は赤い霧に包まれるとその姿はもう、どこにも無かった。




