第145話 危険な……
「ひゃっほ~!」
その日、東京で親父さん達が稲垣陸将の暗殺に動いてるなんて知らない俺達は、バイクに跨がってゼオルク郊外を太古の殺戮兵器達と一緒に疾走していた。
俺はカズに貰ったバイクを自分で整備して、軽快に走る。その後ろを一樹とヤッさんが2人乗りしてバイクに跨がって、追いかけて来る。
その周りにラプトルのアリス達も一緒に走っていた。
「クククッ、なかなかいいエンジン音に仕上げたじゃねえか憲明」
そんな俺達の背後に、まさに怪物の様な超大型バイクに跨がったカズが追いかけてくる。
"ニュクス"
"夜の女神"の名前から名付けられたその超大型バイクは、元はハーレーだったけど今じゃその原型をとどめいない程までに、カズの手によって魔改造されて。それを運転しているカズが少しずつスピードを上げてくると、俺と並走した。
「どうだ、今度これに乗ってみるか?」
「謹んで辞退させて頂きます」
俺のそんな反応にカズは笑い、更にスピードを出す。
「ふわ〜! 風が気持ちい〜!」
ニュクスにはカズだけじゃなく、ルカちゃんも乗っている。
ルカちゃんは落ちたら一大事だからカズの前に座って、保険として"ゼイラム"2本を巻きつけられていた。
ルカちゃんは元々 盲目だったけど、最近はカズの力のお陰で、その視力は0.03と視力はまだ弱いけどある程度は見える様にまでになった。
そんなルカちゃんはカズにコンタクトや眼鏡を用意して貰い。眼鏡は解るけど、コンタクトをどう付けるのか解らないルカちゃんは眼科に行った事でどうにか理解して付けれるようになった。
そして今はコンタクトを付けて、ゴーグルで風から目を守っている。
「気持ちいいかあ?! もっとスピード上げるぞお!」
気持ちよさそうに両手を広げ、楽しそうにしているルカちゃんを見て、カズは更にスピードを出す。
「まてまて! なんだよそのスピードは?! 追いつけねえよ!」
いったいニュクスに、どんなエンジンが積んでるのか解らない……。
カズはどんどん加速させ、それでもルカちゃんは楽しげな顔でどんどん過ぎて行く景色を堪能する。
暫く走った後。
カズは昼飯にしようとバイクを止めて。小高い丘の下に丁度いい日陰があったからそこで食べる事にした。
「本日のメニューは……。サンドイッチだ」
サンドイッチ。
それはふわふわなパンに新鮮なレタスやハム、トマト等を挟んだ一般的な食べ物。
だがしかし、カズが用意したサンドイッチは一味も二味も違う。
カズが今回用意したサンドイッチはローストビーフと特製のタレを挟んである。しかし、それがまた格別に美味かった。美味さ故に、俺達は既に夢幻の世界に浸った……。
「お兄ちゃんのサンドイッチ、美味しいね!」
「「ハッ!」」
ルカちゃんのその言葉がなければ、俺達は完全に夢幻の脳内世界に迷い来んで抜け出て来れなくなっちまうところだった。
「なんでお前のメシってこんなに美味いんだよ……」
「考えるだけ無駄だ。勝てる訳ねえんだよ、カズの腕前はそこらの料理人レベルで考えたらダメだ……」
「そりゃどんな女子でも惚れるよね……」
俺達3人は、カズの腕前に改めて戦慄した。
そこで考えた。
なにかひとつ、カズに勝てることは無いかって。
1. スキル
まず間違い無く誰よりも豊富に持っていると思われる。中でも"創造"と"変換"は有り余る程までに危険極まりない。
2.戦闘力
普段からその両手の握力は化け物過ぎて捕まった瞬間に全てが終わる……。しかもカズは近距離は勿論、超長距離ですら普通に攻撃出来る手段を持っている為、簡単に逃げる事が出来ない。
又、カズの中には神々すら喰い殺す最強最悪の化け物、八岐大蛇が眠っていて、もし眠りから覚めれば一瞬にして地獄と化す。
そんなカズを負かしたことがあるのは現在、桜ちゃんただ1人だけ……。
3.容姿
言わなくても解るってもんだ……。
カズは超イケメンだ。目つきは悪いが左目の赤いオッドアイは綺麗だし、誰もが吸い込まれそうになる魅力を持っている。
それにカズは普段から女性と間違われる程の美形で、そこいらのモデルすら霞んじまう。
4.性格
超攻撃的で凶悪な性格。
だがしかし、子供や老人、弱い者にはめちゃくちゃ優しい性格を持ち合わせている。
特に美羽や家族に対して暴言を吐こうもんなら、一瞬で激昂しちまう程だ。
5.人間性
性格と一緒で超攻撃的で凶悪。
でも、それとは相反する優しさを持ってるから、周りから頼られる事が多いんだよな……。
だけど、人を殺す事に関してはなんら躊躇しないし、どんな手を使ってでも平気で命を奪える非道な奴でもある。
総合的にカズはほぼ完璧に見えるけど、そうじゃねえ。そこがまた魅力なんだろうな……。
「ダメだ、やっぱ勝てる気がしねえ……」
考えれば考える程、俺はカズに勝てる部分が全くない……。
……それから暫くして。
俺達はルカちゃんと鬼ごっこをして遊んでいた。
「キャハハッ! また憲明お兄ちゃんがオニ〜!」
「くそ〜、また俺か〜! だったら! 次はお前だ!」
俺が狙ったのは。
「ふっ、笑止。貴方程度のスピードで、この私を捕まえられると?」
何故か執事風の服を着たヒスイだ。
そのヒスイは急な進化で視力が弱くなったのか、今は眼鏡を掛けている。
それがまた似合ってて、悔しいけどイケメンなんだよな……。
「はっ! やってみきゃ解んねえだろ!」
「別に構いませんが、私が鬼になったら私は貴方を狙いますよ?」
その瞬間、俺は笑顔で固まった。
そんな俺のすぐ後ろに……。
「(ヒスイってまさか陰険な性格なのかな?)」
俺はヤッさんが立っていることにまったく気づいていなかった。
そんなヤッさんが俺から出来るだけ距離を取ろうと動いたその時、石ころを蹴ったことで俺は気がついて、そっちに首をグルリと向けて目がギラリと光らせた。
「ひ〜!」
「だったら……オマエダ〜!」
そうなった事にヒスイは小さく息を吐くと、「残念」と言って、眼鏡を拭き始める。
そんな中、俺がヤッさんを追いかけ回していると、目の前にいるルカちゃんが視界に入っていなかったのか、ヤッさんとルカちゃんが激突した。
「あっ?!」
その激突でルカちゃんは転んで、膝を軽く擦り剥いて血が滲み、その痛さで泣いちまった。
やっちまった~!!
その瞬間、カズが激昂するんじゃねえかと頭によぎった。
「うわ〜ん! 痛いよ〜!」
「ご! ごめん! 大丈夫?!」
「何してんだよまったく。ちゃんと周りを見てねえお前も悪いが。ルカ、お前も悪いんだぞ?」
あ、あれ?
両方悪い。そう言ってカズは特に怒ってなかった。
ヤッさんは勿論だけど、ルカちゃんもよく周りを見ていなかったのが原因ってことで、カズは注意だけしたんだ。
「痛かったのは分かるが泣くな。どっちも悪いんだから仕方ねえだろ? ほら、今 消毒して絆創膏を貼ってやるから」
「グスン……うん……」
カズがルカちゃんの膝に絆創膏を貼ろうとした。
その時!
「今すぐその子から離れろ。悪漢共」
「……あ゛?」
悪漢共と言われて、カズがドスを効かせて声がした方を睨むと、小高い丘の上に1人の人影があった。
「悪漢共の中に女性も混じっていたか」
あっ、ヤバイ、カズのこと言ってんな……、あの人。
当然、俺達はその場からゆっくりと離れることにした……。
だって……、カズから凄まじい怒りが籠ったオーラが吹き出てるんだもん……。
その場から速く、迅速に、とばっちりをくらわない様に……。
だから逃げないとカズの怒りに巻き込まれる。
「ふっ、男共は素直だな」
違う違う、そうじゃ無い。
「さあ、君もその子から今すぐ離れなさい。そうすれば痛い目に合わずに済むぞ?」
「なぁ……、念の為に聞くが、それは俺の事か?」
カズは怒りを我慢してなんとか笑顔を作ろうとしているけど……、最早その限界が近いからなのか物凄い顔になり始めていた……。
あぁ、この人死んだなぁ。
「ん? なんだ男か? まあ良い。どかぬなら痛い目に合ってもらうぞ悪漢よ!」
「誰が悪漢だこのヤロゥ……。ぶっ殺すぞテメェ……」
はい、死亡フラグ頂きました。
俺は急いでルカちゃんの元へ走り、巻き込まれない様にする為に抱きかかえてその場から急いで離れようとした。
その瞬間。
「私はその子から離れろと言った筈だぞ! とおぅ!」
謎の人物が空高くジャンプして。俺目掛けてキックを仕掛けて来た。
ヤバイ!
ルカちゃんが巻き込まれて怪我をしたら、それこそ俺までカズの激昂に捲き込まれかねない! そう思って身を呈し、俺はルカちゃんを守ろうとした。
だがしかし! そこにはあの凶悪無慈悲なルカちゃんのお兄ちゃん。カズが機嫌の悪そうなしかめっ面で謎の人物のキックに対し、こっちも蹴りで防いでいた。
「ほう?」
「…………」
流石お兄ちゃん! カッコいいぜ!
謎の人物はキックに自信があったのか、カズに塞がれた事に驚いてる風だったけど、その目はどこか微笑んでいるようにも見えた。
ようにも見えたって説明したけど。それには訳があるからそう説明する他がないんだ。
まぁ、どうしてそんな説明になったのかはこの後解るとしてだ。
もしそのキックが俺に当たっていれば、ルカちゃんは間違いなく怪我をしていたに違いない。
だから、その事でカズは余計怒っていた。
「なかなかやるな。この私のキックを塞ぐとは」
そして……、どうしてさっき俺が変な説明をしたかだけど……。
その謎の人物を見た俺達は目を大きく見開き、口を大きく開けて全身から大量の汗が滲み出る事になったんだ……。
「見ちゃいけません!」
「わっ?!」
ルカちゃんが謎の人物を見ようとしたから、俺はとっさに見せたくなかったから胸に抱いて隠した……。
……流石にその人物を見たカズも、まるでゴミを見る様な目で見ていた……。
「なんだ? どうした?」
そう聞いてくるけどよ……。逆にアンタがどうしたって言いてえよ!!
まぁ……、カズがそんな目をするのも無理は無いって……。
だってよぉ……、その謎の人物はゴリゴリマッチョな体にブーメランパンツしか履いていないんだぜ?!
しかも頭は紙袋を被ってて、目の部分だけ穴を2つ開けてるから目が怪しく光っているし!
どう見ても不審者! いや……、変態としか思えねえだろ?!
「どうやら私の肉体美を見て言葉を失ってしまった様だ」
否。断じて否である!
カズが言葉を失ったのはそんな格好をしているからゴミの様に見てたんだよ。だから言葉を失ったんだし!
「まあ見惚れてしまうのも無理は無い。さあ悪漢共よ。何処からでもかかってくるが良い。お嬢さん、待っていなさい。今すぐこの悪漢共を成敗し、助けてあげるからね」
そう言いながら謎の変態が色々なポージングをいちいちする……。
正直鬱陶しいアンタのほうがよっぽど悪漢だよ!
「来ないなら、こっちから行かせてもらうぞ! とおぅっ!」
だから一々「とおぅっ」とかって言うなよ! マジでなんだよこの変態!
そ、そして変態はまず。目の前のカズを排除しようと動くけど、それがいかに間違った選択をしたのかは言うまでも無いと思う……。




