第108話 絶対に許さない
そして、マーセルは信じられない事を口にした。
「いやなに、そのニアって子なんだけど。その子を捕らえた時は誰も気づかなかったんだけど実はね。妊娠していたんだよ」
そう言ってマーセルは気味の悪い、ニヤついた顔で話、その話を聴いたカズは目を大きく見開くと固まり、俺は耳を疑った。
妊……娠? は?
「その報告をしてきたのは君も知るジュニスでね。その報告を私は信じてはいなかったんだけど、実際に会って調べてみたらその報告は事実だったんだよ。彼女もその時になって初めて気づいた様子で、物凄く動揺していてね。そうそう、これを君に返しておかないと」
懐のポケットから何かを取り出すと、マーセルはそれをカズに向けて投げた。
投げられた物はカズの足元に落ちて。それに視線を向けた瞬間、カズの顔はみるみるうちに青ざめ。深く悲しい、見るに耐えない表情に変わった。
おい、なんの冗談だよ……えぇ?
……それはあんまりにも残酷で、信じられなかった……。
「だってそれ……、君の子供なんだからさ。よかったね、ちゃんとパパのところに行けて」
「オゥッエッ……ッ!」
俺は吐いた……。吐いてその場に立っていられなくなって、突っ伏しながらこれは現実じゃないって思いたかった……。
マーセルが投げた物は瓶詰めにされた、カズの子供だって言う胎児の遺体。
胎児の遺体と言っても、それはようやく形が出来始めたばかりらしく、その大きさは約3センチにも満たない。
その遺体を、マーセルは平然とした顔で投げて、笑っていやがった……。
「はっ……あっ……」
カズも言葉に出来ないくらい動揺し、震える手でその胎児の遺体が入った瓶を優しく拾うと、ゆっくりとその胸に抱き寄せる。
「私は医療関係にも精通しているからね。なんとか取り出す事が出来たんだ。その後は瓶に入れ、ちゃんとホルマリン漬けにしてあるから安心しておくれ。間違い無く、君とニアって子の間に出来た子供だからそれは」
お前、もう喋んな……。
「そうそう、そのニアって子にもちゃんと見せた後はヘカトンケイルの材料にしたから。いや〜よかったよその事実に早く気づけて。だってヘカトンケイルを造るのに、そんな邪魔な物が入っていたらまともに動かないだろうし、ただの置き物になっていたかも知れないしね」
黙れ……。
「実験の妨げになっていたかもしれないから本当によかったよ。彼女も早く取り出した事が嬉しかったのか、結構泣き叫んでいたな。和也様御免なさい、御免なさいって。ふふ、ふふふふふふふ、アッハハハハハハハハ!!」
「テメーはもう黙ってろクソヤローーッ!!」
俺は叫んだ。
悪魔以上の悪魔としか言いようが……、無い……。
カズは両膝から崩れ落ちて、ニアちゃんと胸に抱く胎児の事を想ってか、震えながら号泣し始めた。
そこへ先生がカズを抱くと一緒に泣き叫び。親父さんは愕然とした表情で涙を流し、その場に立ち尽くしている……。
「喜んでくれてなによりだよ!! カズヤ!!」
その瞬間、カズ達3人以外、その場にいる俺達全員は涙を流しながら激昂した。
「てめぇ……、死ねよクソヤローーー!!」
俺は頭の血管が切れそうになるくらいブチギレて、強く握った手から血が滲む。
「ゴメン、私……もう耐えられない……! 私の手で今すぐ殺らせてよ!」
美羽も同じだ。
涙を流し。怒りと哀しみに彩られたその顔はなんとも言えねえ。
……人の事言えねえけどな。
「待って美羽。殺るなら皆んなでだよ……。アンタ……、悪魔以上の悪魔っぷりに反吐がでそうになるのよ!」
沙耶はガルを持ち、臨戦体制を整える。
「その通りだぜ美羽。殺るなら俺達全員でだ。チクショウ……、テメーに人の心は無えのかよ、クソが……」
一樹は歯を食いしばりながら涙を流し、槍を持つ。
「酷い……、酷すぎだよ!! アンタが全部悪いのに逆恨みの為にニアちゃんや子供を殺すなんてどうしてそんな事が出来るんだよ!! どうしてなんだよ!!」
ヤッさんは泣きながら怒鳴った。
それに対し、マーセルはまだ笑いながらカズを見ている。
「お前は最早人間じゃない。獣以下だ……。今すぐここで死んで3人に詫びろマーセル!!」
ミラさんも激昂し、先に動き出した。
右肘から突然、強力な火柱が噴いたと思うと、マーセルの顔面に強力な拳がめり込み、マーセルは後ろへ大きく殴り飛ばされた。
「テメーはあのジュニスとおんなじだよ!! いやそれ以上に最悪だ!!」
そう叫びながら次に俺が動き、倒れたマーセルに大剣フレイムバードを上段から振り下ろす。
「酷いなぁ……、私をあの男と一緒にしないでくれないか」
だけど、マーセルは左肘から繋がる剣で、俺の剣を受け止める。
「彼はただ私のマネをしているだけでしか無いのだから」
「いいから黙って殺されてよ!!」
美羽は泣き叫びながらマーセルの首を狙い、双剣による大回転斬りをする。
でもマーセルの剣は5本ある。それにカズの技を簡単に受け止めた相手だ、そう簡単にはいかない。
マーセルは1本の剣で美羽の双剣を受け流すと、起き様に美羽の脇腹を蹴り、俺のところにまで蹴り飛ばしてきた。
「カズヤに比べて全然弱い。まぁジュニス程度の相手を倒せるのは簡単だろうけど、私をあの男と一緒にされるのは屈辱だ。だってあの男は金の力で副団長の地位を買ったのだし。その程度の男を君達が倒したところで、なんの痛手にもならないんだよ」
そう言ってマーセルは5本の剣を使い、俺と美羽に攻撃してきた。
「アンタ美羽の話し聴いてなかったの? いいからさっさと死んだら?」
沙耶はガルじゃなく、風魔法の"F2"を放つ。
放たれた"F2"による竜巻は、俺と美羽に攻撃に出たマーセルから守ってくれる形で攻撃した。
「成る程、良いトルネードだ。日本語で竜巻と言うんだったよね? しかし、この程度で私を殺す事は ーー」
マーセルが話してる途中で沙耶はガルを投げ。マーセルが剣で防ごうとした瞬間に大爆発を起こす。
「だからさっさと死になさいよ」
それでもマーセルは無傷の状態で笑いながら爆炎から出て来る。
「なかなか面白い。話を聴いていた以上に面白い。さすがあのカズヤが造った武器なだけはある。だが私には通用しないよ?」
「どうしてお前はそんな風に変わってしまった?! 答えろマーセル!!」
ミラさんは右腕に左手を添えると、右手の指を真っ直ぐ伸ばしてマーセルに向ける。
「ふっ、ふふふふふ、ふふはははははは! 私が……変わった? だとしたら大尉……、それは全部大尉のせいですよ!」
そう答えたマーセルは、今度は怒りに染まった表情でミラさんを睨んで答え始める。
「全部、私のせいだと?」
「そうですよ! 私があんなにも大尉を想っていたのに! 大尉はいつもいつもあの子あの子と! もうウンザリなんですよ! 私が大尉の為に、いったいどれだけこの手を汚して来たと御思いですか?! 大尉に言い寄って来る男達を! いったいどれだけ私が始末して来たと御思いですか?! なのに大尉ときたらいつもカズヤの事ばかりを考えていた! 別にカズヤは大尉の子供じゃないじゃないですか! どうして私を見てくれない?! どうして私の気持ちに気づいてくれない?! どうして?! どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!」
狂っていやがる……。
そう話すマーセルの愛は気持ち悪いくらい狂気に満ち溢れていて、歪んでいやがる。
そこで、沙耶がマーセルに対して怒りをぶつけた。
「アンタ……、気色悪過ぎ……。そんなに好きならなんで直接口に出して言わないのよ! 言いたくても言えないならなんとなく分かる……。けどアンタがした事は完全に間違ってる!」
「うるさい黙れ! 君に私のなにが分かるって言うんだ! 君は人を殺してでも手に入れたい愛を知らないからそんな綺麗事を言えるんだよ!」
「黙るのはテメェだよクソボケ野郎がッ!」
「ぐはっ!」
マーセルの隙をついて、俺は渾身の右ストレートパンチを顔面に叩き込んだ。
「早く死んでよ。お願いだから今すぐ死んでよ!」
そこで再び美羽が動く。
今度はステラのスキルを上手く利用した、新たな技をマーセルにくり出そうとしていた。
美羽は100人の分身を作り出し、マーセルの周りに不気味なくらい静かに佇んでいる。
その中心で、体制をすぐに直したマーセルは5本の剣を操り、その分身に次々と攻撃をし始めようとした。
「アンタはもう私の敵じゃない」
"未来視" 発動
「(全部見える……。いつ何処からどんな攻撃が来るのかが手に取るように分かる……。)」
美羽の"未来視"は、正に最強クラスのスキルだろ。
「遅いよ」
「小賢しい! そんな事しても君の攻撃が私に当たると思っているのかい?!」
「だから遅いってば」
マーセルの懐に、美羽が作った分身、それとも本人なのか分からねえけど、1人潜り込んでいた。
「……なっ?」
「"幻影百鬼斬"」
その瞬間、美羽自身と分身を含めた100人が、マーセルに対して一斉に攻撃をしかけた。
もう、マーセルに最早なす術が無い。
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!!」
一人一人がマーセルを斬るとその場から離れ。マーセルに対して背中を向けながらその周りに斬り終わった美羽の分身が立っていき、ものの数十秒で既に99人が斬り終わる。
「かっ……あがっ……あっ……」
マーセルは白目を剥き。体のあちこちを斬られたことで全身血まみれの状態なのに、まだ立っていた。
その目の前には100人目の美羽が1人、黙ったまま冷たい目でマーセルを見ている。
「……死んで」
"飛竜脚"
美羽の渾身の技、"飛竜脚"でマーセルは何度も強烈な蹴り技を浴びると、最終的に空高く蹴り上げられ、上空からマーセルを地面に叩き付けたのと同時に、腹に双剣が突き刺さる。
「ゴハッ……!」
「死んでカズとニアさん。そして2人の子供に償って」
その様子をミラさんは見入っていた。
「(これがあの子が率いるチーム夜空……。そしてあれが美羽の力か……。あれでまだそこまでのレベルに至っていないだと? 馬鹿が、冗談じゃない……。あの動きはなんだ? "未来視"とか言うスキルを使って未来を垣間見ていると聞いたが、そんな生優しいものじゃ無いだろ。まるで、常に先の未来を見ながら今も見続けている動きだ。……あの子も十分、和也同様の化け物ね)」
俺達はマーセルを殺したと思い、カズの元へ急いで駆け寄ろうとした。
でも、まだ終わってなどいなかった。
「ふっ……、ふふ……っ、ふふふふふっ……」
ゆっくりとだけど、殺したと思ったマーセルが起きる。
「しぶてぇなテメェ……」
俺は後ろへ振り返るとマーセルにそう言った。
「ま……だだ…………。ふっ……ふはは……っ……はは…………」
マーセルは懐から赤黒い玉を取り出すと、それを見たミラさんは危険を感じた。
「まさかそんな物を隠し持っていたなんてな」
「ほ……、保険……ですよ…………」
その赤黒い玉は野球ボールくらいの大きさだ。
その玉をマーセルは胸の前に押し当てると、自分自身の体へと取り込む。
「さぁ……、第二ラウンドを始めようか……」




