自転車の積載量
最大積載量28キログラム…
うん関係ない。これください。
父さんはもう少し考えろと言うが私の誕生日プレゼントなんだからその言葉も無視だ。メタリックなシルバーに後ろの荷台もちゃんとある。これこそ完璧な代物だ。
「女の子ならこれとかどうだ…」
「いいのいいの!後ろに人さえ乗れば」
「お前な…」
父さんは呆れつつも、お金は出してくれた。手痛い出費も誕生日という何でもない日のおかげでチャラになる。素晴らしい。
私と父さんは誕生日が一緒なのだ。といっても私だけがプレゼントをもらうばかりだが。
汗を垂らしながら自転車に乗らずして2人並んで歩く。なんのための自転車か分からなくなるが、人混みが多い商店街では乗らない方が父のためだ。
「後ろに乗るときは気をつけろよ」
「父さんもよく母さん乗せてたんでしょ」
「そんな話もしてたのか。中学生の頃は無茶したもんだ。母さんは揺らすばかりだし。…お前は運んでくれる相手がいるのか」
私はにんまりと笑ってみせる。それが答えだと言わんばかりの顔をすると父さんは苦笑した。
「まあ、事故だけはするなよ」
「分かってる」
父さんはいつも口うるさくそれを言う。
家に着くとあるものを求めて私は家中を探し回る。
やはり私だけじゃ絶対に足りない。父譲りの小さな身体が恨めしい。
これだ!やっと理想に近いものが見つかった。
「アルバムなんか出してどうするんだ」
「持ってくの」
「重いだけだぞ」
「だからいいの。あと自転車早速乗るから出しといてね」
父さんは押しに弱い。やれやれといった顔をして裏口に回る。
「もう行くぞ」
私はリュックにつめたアルバム数冊を背中に外に飛び出す。
そしてすぐさま荷台に飛び乗る。なにをやっているのだといった顔をして父さんは腰に手を当てる。
「乗せて!」
父さんは仕方ないなとサドルにまたがる。甘えることなんて最近なかったから嬉しそうだ。
順調に進み出した自転車は、ふらつくことなく田園を横目に風を切る。
「ハッピーバースデイ。お父さん」
父さんは無言だった。
眼前の墓地から吹き下ろす草いきれが、もう夏の折り返しであることを伝える。蝉噪がかき混ぜるなか見上げた夏の碧落は吸い込まれそうなほどであった。
帰ったら送り火をしなければ。




