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それは、ほっこり温かった

早朝、僕はオル達を竹林へと案内した。

その際に、竹を切るものを用意した方がいいと伝えた。

すると、ウェイチは戦士で武器があるし、なんならミカリは魔法使いなので魔法で竹を切ることが出来るとのことだった。

オルはまた人間に化けていた。

と言っても、ほぼ正体に近い姿だ。

竹林には、変わらず誰もいなかった。

ふと、不安が過ぎる。

三人を連れてきたものの、もしもあの光る竹を見つけられなかったらどうしよう?

また嘘つき扱いされるかもしれない。


少しビクビクしながら、僕は3人の先頭に立って遊歩道のなかを進んだ。

特に目印のようなものを置いていたわけじゃないので、ただ記憶を頼りに進む。

暫くすると、


「おい、なんかあっちで光らなかったか?」


ウェイチがそんなことを言った。

ウェイチを振り返ると、彼は竹林の中を指さしている。


「ほら、また光った!」


ウェイチの声が弾む。

続いて、ミカリも声を上げた。


「ほんとだ!」


「行ってみよう!!」


三人は誰ともなく駆け出した。

僕は鍵を手に入れたからか、光は見えなかった。

三人は、光に気を取られている。

そして、僕に背を向けている。

今なら、逃げられる。

僕は、ジリとその場から逃げる体勢にはいる。

頃合をうかがっていると、オルがピタっと止まりこちらを振り向いて来た。


「おい、何してる?

お前も来いよ!」


あろうことか、オルはこちらに戻ってきた。

僕の手を掴むと、走り出す。

僕は目を丸くして、でも掴まれた腕を振り払うことはしなかった。

やがて、彼らの目には光り輝いているだろう竹の前にやってきた。

それぞれ別々の竹が輝いているようだ。

別々の竹の前に立っている。

オルも、ウェイチも、ミカリも、子供のように目をキラキラさせている。


「ほんとに光ってる」


ミカリは言いつつ、指を空中に滑らせて魔法陣を描いた。

一方、ウェイチは虚空から巨大な斧を出現させ、振るった。

オルはと言うと、竹に軽く触れてトンと押した。

それぞれがそれぞれの方法で竹を切った。

というか、破壊した。

ここからは、僕の目にも写った。

三人の前にそれぞれ、勇者が現れたのだ。

ウェイチとミカリは、跪いて鍵を受け取った。

オルは、じぃっと勇者を見ている。

そして、同じように鍵を受け取った。

勇者は僕の時と同じセリフを言って、消えた。

そして、賞金と次の謎が入った箱が現れた。


三人がそれぞれ中を確認し、鍵を手に入れた喜びの、咆哮にも似た声を上げたのだった。

そして、


「お前のお陰だ、ありがとう!!」


「君のお陰で一歩進めたよ!!

本当にありがとう!!」


「……助かった」


順に、ウェイチ、ミカリ、オルがそう言ってくれた。

何だか、顔が熱くなった。

それに、落ち着かない。

でも、なんだろう、悪い気分ではなかった。

エマさんや館長さんの手伝いをして、お礼を言われた時のような暖かいものが胸に宿っていた。

僕は、なんて返していいのか一瞬わからなかった。

だから、いつもエマさん達に返していたのと同じ言葉を口にした。


「どういたしまして」


そう口にした僕の顔を、三人は見つめて、


「なんだ、笑えるんじゃん君!」


ミカリが嬉しそうに言った。

他の二人も、うんうんと同意していた。


それから僕達は宿に戻ってきた。

すると王都中が大騒ぎになっていた。

すぐにピンと来た。

スコアボードが更新されたのだ。


「見に行こうぜ!」


昨夜の今なのに、ウェイチはそう提案した。

オルとミカリも賛成した。

でも、僕は顔が割れている。

だから、ここで待っていると伝えると、オルとミカリが顔を見合わせた。

そして、


「ここには魔法の達人が二人もいることを忘れちゃいけないよ」


なんて言われてしまった。

僕は意味がわからずキョトンとする。

そんな僕に向かって、オルが軽く手を振る仕草をした。

すると魔法陣が現れ、発光したかと思うとすぐに消えてしまう。


そんな僕に向かって、どこから取り出したのか、ミカリが手鏡を向けてきた。

そこに写った自分の姿を見て、僕は声を上げた。

身長、肩幅、何もかもが変わっていた。


「は?え?

はぁぁああ!!??」


そこに、ミカリが畳み掛けてくる。


「うんうん、身長と肩幅は私と同じくらいだから。

服は私の貸すね♪

足のサイズは、あんまり変わってないか。

じゃ、靴はそのままね」


履き潰してボロボロ手前になった、僕の靴を見ながらミカリは言った。

あまりのボロさと汚れはとても特徴的で、遠目でも一発で僕の物とわかる程度には個性が出ている。


「え、ちょ」


僕はオルとウェイチを見た。

オルは淡々としている。

ウェイチはとても楽しそうだ。


「変装は基本だろ」


「そーそー基本中の基本だ」


その後、僕は身支度を整えさせられると、三人とともに大神殿にむかったのだった。


「堂々としてれば、誰も気にしない」


むしろ無関心だ、とオルは道すがら断言した。

そういう問題じゃないんだけどなぁ。

この短時間で号外が出たらしく、すれ違う人のほとんどが新聞を手にしていた。

街の人たちの話声も知らず耳に届く。


「おいおい、まさか“冥府帰り”のオルフェウスの一行(パーティ)かよ」


この場合の【冥府】とは、数百年前に滅んだ国の跡地、そこに建つダンジョンの別称だ。

そういえば、少し前にそのダンジョンを攻略したパーティがいて、とても話題になっていた。

僕は前を行く、三人を見た。


(この人達だったのか)


この三人はクランというものではない。

クランとして冒険者ギルドに登録でき、そして名乗れるのは十人からと決められているからだ。

そのため、彼らはパーティなのだ。

街の人達は皆、新聞に釘付けでオル達のことに気づいていなかった。

そうして、大神殿に到着すると様々なクランやパーティ達がひしめき合っていた。

スコアボードを確認に来たのだ。

本来なら大神殿の中にある、礼拝堂に設置されているスコアボードは、すぐ目の前の広場に移動されていた。


■■■


一位 パーシヴァル


二位 オルフェウス


三位 ミカリ


四位 ウェイチ


■■■


同時に竹を切ったと思ったけれど、微妙に差異があったらしい。

賞金額は、少しずつ減額されていた。

それでも大金である事には変わらなかった。


「おおー、本当に載ってる」


ウェイチが言った時。

周囲がオル達に気づいてざわめき出した。

僕は、ローブのフードを目深に被って、ミカリの陰に隠れる。

自意識過剰とおもわれるかもしれないが、怖いのだ。

大勢の視線が集中するのが、怖い。

たとえ、それが自分に向けられているものでないと分かっていても。

それでも、怖いのだ。

なぜなら、寄って集って嘘つき呼ばわりされて笑われた時の事を思い出すから。


「どうしたの?

人酔いしちゃったかな??」


「あ、いえ、大丈夫、です」


ミカリに聞かれ、彼女を見た時。

こちらに、正確にはオルに近づいてくる者達がいた。


「お、夢幻剣士のお出ましだ」


ウェイチがまた、楽しそうに呟く。

それに続いて、オルが別方向を向いて言った。


「いけ好かない、聖騎士同盟もきたぞ」


オルも楽しそうだ。

【夢幻剣士】も【聖騎士同盟】も有名すぎる冒険者クランだ。

入りたい者は多くても、入れる者は少ない。

そして、そのクランからわざわざスカウトが来るとなると、もっと少ないし。

なんなら、スカウトされたとなったら憧れの的となる。


僕は、この二つのクランの名前を知っていた。

よく、知っていた。

ミカリの陰から、僕はそれぞれのクランを見た。


居た。


幼なじみのアーサーと、下宿で仲良くなったジェニーの二人をすぐに見つけることができた。

視界に入れた途端、脳裏に下宿の、荒らされた部屋が蘇る。

僕の、人生。

僕の、宝物。

それらを盗んだ者達が、何食わぬ顔で。

なんなら、堂々と偉そうにその場に立っている。


「……ヒュッ」


息がつまった。

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