掴みかけてすり抜ける何か
前回ので多少は慣れたのかフリッカは気を失うまではしなくなったようだ。それでもMPは一回で空になるので一回魔法を使うごとにMPポーションを飲んでもらい休憩を挟み、時間を掛けながらも何とか全部の魔石に魔法を篭めてもらった。
……自分だったら『スキルレベルを上げるぞー!』といくらでもやれるけど、他の人にやらせるとなると途端に微妙な気分になるな、これ。
さすがに終わる頃には疲労困憊となっていたので仮設した長椅子で横になってもらい(部屋に送ろうかと思ったけどこの後のわたしの作業を見ておきたかったらしい)、わたしはアイテム作成のために魔導台の前に立つ。なお、ウルとフィンも引き続き見学だ。
「さて、スキルレベル足りるといいんだけど……」
取り出したるは魔石と雷属性触媒であるフルグライトだ。
雷属性は総じて要求魔導スキルレベルが高い。実は今現在のスキルレベルは足りてなかったりするのだけれどもゲームの時ほどカッチリしていないし、わたしに雷適性が生えているかもなので何とかなったりしないかなぁ、と言う希望が混じっている。
「作成開始。雷よ――」
魔導台に手を触れ最初の詠唱を口にした所で、魔導台に刻まれた魔法陣が淡い光を放つ。起動そのものがしないという事態にはならなかったか。
魔導スキルに関しては少々特殊で、他のアイテムみたいに作成コマンドでポンと作ることが出来ない。ただ……モンスターが詠唱しているようには見えないので何らかの抜け道があるかもしれない。これも調査して……いやいや今はそんなことを考えている場合ではない。
意識を凝らして魔力視を発動すると、ほんの薄っすらとだけど魔力が見えてくる。少なすぎないよう多すぎないよう細心の注意を払いながらジワジワとMPを魔導台に流していく。
「天より穿たれる一条の刹那の光よ。されど望むは幾重にも編まれた光の幕、長き煌めき」
光が少しずつ強くなっていく。それは白から青、紫と変化していき、雷を彷彿とさせる。
やはり今のわたしには分不相応だったのかゴリッゴリMPが持ってかれてしんどくなってきた。けど、フリッカにあれだけやらせた手前わたしが泣き言を言うわけにもいかない。
震える手を押さえ付け、滴り落ちる汗もそのままに、最後の句を唱える。
「宿れ。スパークフィールド」
バチィッ! と一際強い光が溢れ、紫雷が走る。
強烈な光に目が焼かれそうになり慌ててぎゅっと目を瞑るが、瞼の上からでも突き刺さる程であった。幸いにして雷らしく一瞬で収まったので、しばらくの間少し視界が眩むくらいで済んだけれども。
何度も瞬きをし、やっと視界が正常に戻ったかな、と言うところで魔導台から手を離し成果を確認する。
魔石は、しっかりと出来上がっていた。
わたしが大きく安堵の息を吐いたことで成功と知ったのだろう、見学していたウルとフィンから「「おー」」と拍手がされた。
ウルが歩み寄ってきて、わたしが手に持っている魔石を覗き込んでくる。
「ふむ、それが魔法の籠った魔石なのか。ほんのり光って綺麗だな」
「あぁ、すぐに魔道具に加工することがほとんどだったから、ウルにちゃんと見せたことはなかったっけ」
魔石は通常状態だと一見ただのガラス玉だ。
しかしスパークフィールドの魔法が篭められたこの魔石は基本的に白く、たまに青や紫に淡く光っている。
ただしこの状態のままではまだ使用出来ず、何らかの道具として加工する必要がある。この辺りの検証については全然手を付けられてないんだよね。まぁすぐにどうこう出来るものでもないと思うのでいつか後で。
いつものように矢でいいかなぁ。風バリアで逸らされる可能性はあるけど、範囲魔法なので厳密に当てる必要もないし。
うん、早速加工しよう。
「……」
と思ったのだけれども。
何故だか唐突に『本当にそれでいいのか?』と不安が沸いて出て。
現状、フルグライトの在庫はもうない。
バートル村で尋ねてみれば残ってるかもしれないし、アルタイル戦の跡を探せば見つかるかもしれない。でもどっちも不確定だ。
つまり、魔道具はこの一回しか作れないと思った方がいいということで。
『安易な思いつきで消費してしまっていいのか?』と言う声が奥底からにじみ出てきたのだ。
『何かが足りない』
わたしの勘がそう訴えかけているのだ。
……どのみち今すぐ作らなければいけないわけではない。他に良い使い道が思い浮かぶかもしれないし、ここまで加工してしまえば最悪戦闘時にも作成出来る。
「む? どうしたのだ?」
わたしの微妙な動きを疑問に思ったのかウルが声を掛けてくる。
「……どうすれば一番効果的に使えるか考えてるんだよ」
「ふむ」
実際、ゼピュロス相手にスパークフィールドが効くのかどうかと言う気掛かりもある。まぁそういうのを全部挙げていったらキリがなく、動けなくなってしまうのだけれども。
せめてもっと触媒があれば、いやそもそもわたしが自在に雷魔法を使えればもっと色々と作れる――
――パチッ
「えっ?」
「ぬっ?」
突如としてわたしの手に発生した雷――またもや静電気レベルだったけれども――に驚いてウル共々体をのけぞらせる。
腕を目一杯伸ばして体から離した状態で手をじっと見るけど、特に何も起こらない。
「リオン様、少量ですが魔力が外に流れ出しています」
「フリッカ?」
首を傾げて手をプラプラさせていたらフリッカの声が届いた。視線を巡らせると身を起こしており、いつの間にかそこまでは回復したらしい。ただ疲れは抜けきっていないようでまだまだ顔色は悪い。わたし同様に状態に気付いたフィンが慌てて手を添える。
わたしとしては寝ていてほしいのだけれども、言っている内容が気になって押しとどめられなかった。
「流れ出している、って……さっきアイテムを作ってた影響が残っているのかな?」
「かもしれません」
むぅ、それはつまり、MPの管理がきちんと出来ていない、と言うことなのでは……?
まさかスキル使用時以外にMPが減るだなんて……ゲームであればバグを疑うところであるけれどここは現実。わたしのやり方が悪いのだろう。ぐぬぬ。
「そもそもですが」
「うん?」
「以前も気にはなったのですが……リオン様の技術は私たちの使う魔法とは異なるものです」
「うん、そうみたいだね」
この前、フリッカにもわたしと同じことが出来るのか?って考えてたよね。
でも住人は魔法を使えても作成スキルは使えない。神子は作成スキルは使えても魔法は使えない。
ぱっと見では作成スキルも魔法も超常現象を起こしているように見えるけども、そもそもの原理は全く違うのだろうと言う結論にあの時はなったはず。
「リオン様は先程詠唱をしていましたが……魔力の流れが、私たちの使う魔法とは違うように感じられました」
「ん……? まぁ魔法じゃなく作成スキルの一種だからかな?」
「でも、結果として魔石に魔法は宿っているのですよね?」
そうだね、と相槌を打とうとして、何か引っ掛かるものがあった。……何が引っ掛かったのだろう?
フリッカも何かが引っ掛かっているのだけれども、上手く説明出来ないでいるのだろう。体調不良とは別の理由で眉を顰めているようだ。
これが掴めれば道が拓けるかもしれない。けれどもフリッカが再度ぐったりし始めたのでこの場での思考は中断することとなった。
引っ掛かりが解消できたのは、もうちょっと後の話。




