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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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ドラゴンの元へ

 わたしたちは予定通り、大量のモンスターが発生する方向――ドラゴンが居ると思しき瘴気の地へと向かう。

 馬も借りたのでみんな騎乗しての移動だ。ウルは相変わらず馬に怯えられるのでわたしの後ろだけども。


「では、案内よろしくお願いします」

「はい! お任せを!」


 案内人として一人だけ住人の青年についてきてもらった。犬の獣人ビーストでドズレさんと言うらしい。

 ドズレさんはドラゴン戦には参加させず瘴気の地の直前までだ。それ以降は馬をつれて一人で帰ってもらうことになるので、早駆けが得意だからと言うことで選出されたそうだ。

 わたしのアイテムがあれば誰でも瘴気の中で動けるだろうけれども、戦力という点で人員を募集するのは遠慮しておいた。いきなり連携出来る自信もないからねぇ……はぐれでもしたら一大事だし。

 なお、ドズレさんは先日の訓練でレグルスと仲良くなったらしく、二人が前に並んで会話しながらの先導となる。わたしとウルはのんびり後ろをついて行く。


 瘴気の地は馬で二日くらいの距離だったか。……もしモンスターがそこで発生して村まで来ているのだとしたら、確実に創造神の時間は生き残ってることになるよね……。

 でもそう言えばグロッソ村の時も大河を越えて数日間ある距離をモンスターたちは生き残っていたんだっけ。やはりモンスターが強化されているんだろうな。……それでもウルに呆気なく全滅させられてたけれども。


 わたしたちが移動してる際にもひょっとしたらモンスターが襲撃してくるかもしれない、と警戒はしていたのだけれども、ドズレさん曰くさすがに連日続けて襲ってきたことはないようで、その日は特にトラブルもなく夕方前となった。

 ちょっと早めに野営の準備を始める。いちいち穴を掘って地中に隠れることにビックリされ(そりゃそうだろうなぁ)、料理が美味しいと褒めてくれて、見張りが要らないのかとまたビックリされ、いつもより少々騒がしい夜となった。


 そして翌々日のお昼前。

 わたしたちの目の前には、確かに瘴気が薄く広がる地が映っていた。


「うへぇ……」


 事前に知らされてはいたけれども、実際に見るとげんなりする。アイテムがあるとは言えあの中に侵入しなければならないのかと思うと気が重い。

 ゲーム時代、廃棄大陸で苦労したあれこれが脳裏に蘇ってくる。対策をしてても少しずつ減るLP、ずんどこ減っていくSP、料理アイテムは保存のエンチャントが掛かっていても耐久値が減るくさっていくし、視界が悪いからモンスターの襲撃を受けやすく、それでいて瘴気の中で生き残れるモンスターなのだから軒並み強く……うぅ、思い出すだけでツライ。

 ここは濃度が全然違うのでそこまでではないと思うのだけれども……油断は全く出来ないからね。


「僕の案内はここまでですね」

「ありがとうございました」

「いえいえ。御武運を祈ります!」


 ドズレさんに乗って来た馬を任せ、ちょっと多めに食料を渡して帰ってもらう。

 彼の背が小さくなるまで見送ってから、「さて」とわたしたちは向かい合った。


「今がお昼だから、モンスターが強くなる夕方前には必ず外に出るとして……探索可能時間は長くて四時間と言ったところかな」


 わたしの確認にウルとレグルスは頷く。

 入らずともドラゴンらしき影が見えたとのことなので廃村の位置は近いはずだけども、イコール瘴気の発生源とは限らないからねぇ。最悪目印なしにくまなく探す必要が……。


「ホーリーミストは強化済なので一つに付き二十分。だから六個使ったところで引き返すよ。瘴気の中で帰還石は使えないからね」


 帰還石も強化したいけれどもなかなかねぇ。今なら実地で研究出来るのかもだけど……とりあえずモンスター発生の元凶を探らないといけないし、そもそも解消したら瘴気が消える可能性もあるから何ともかんとも。いや、風神の土地なんだからむしろ消えてくれなきゃ困る。

 必要数は十二個だけど、念の為多めに二人に渡しておく。もちろんその他必要そうなアイテムもてんこ盛りに。

 もしこれで探索しきれないほど瘴気のフィールドが広かったら明日は朝から探索することになる。それでも無理だったら現時点では攻略不可能だ。しっかりとした対策なしに瘴気の中で一夜を過ごす勇気はないし、現実となった今ではおいそれとそのような無茶は出来ない。


「幸いにも空はうっすらと見えるから、もしもはぐれたら太陽を頼りに南に向かって全力で逃げること。瘴気から出たところでしばらく待機して、合流出来なさそうもしくは危険になったらレグルスは帰還石を使うこと」

「おう」

「ウルはまぁ危険にはならないだろうけど、バートル村に徒歩で帰ってもらうしかない、かなぁ」

「……むぅ、はぐれないよう細心の注意を払うのだ」


 まぁそれが一番だね。

 一通りの伝達をしてから、わたしたちは最初のホーリーミストを使用し、足を踏み入れた。



「……微妙に肌寒い気もするけど、思ったほど酷い場所じゃなかったな」

「それはホーリーミストのおかげだからね?」


 周囲に目を走らせつつ、時折襲撃してくるモンスターを(ほぼウルが)倒しつつ、しばらく歩いた後にレグルスが呟くがその認識は間違いだ。

 瘴気対策がなければあっという間にLPが削られて、場合によってはその他状態異常が発生することになり、歩くことすらままならなくなる。

 そして足元は地面そのものが汚染状態となっているのだ。転ぶだけでもダメージを喰らうことだろう。


「いや、何て言うか、もっとおどろおどろしいのを想像してたからさ……」


 まぁ確かにビジュアル的にはね。

 湖が毒沼になってボコボコ毒気を吐き出していたり、モンスターがゾンビ化して腐肉を垂らしながら襲いかかってきたり、同じく植物が腐って頭上からボタボタ汚染枝葉が落ちてきたりはしてないからね。


「うぇ、そんなこともあるのか……」


 わたしの(ゲーム時代の)経験にレグルスが顔をしかめる一方で、ウルの何気ない一言にわたしはギョっとする。


「ふむ、リオンはかなり色々な経験をしているのだな。しかしその時はどうやって対策したのだ? 今と違ってアイテムが豊富だったのか?」

「えっと……」


 し、しまった。どう説明しよう。

 わたしはウルに『遠い国から創造神に呼ばれた』と言う説明しかしていない。


 ……元々ゲームだったなんて、異世界から来たなんて、荒唐無稽すぎて言えるはずがない。


 でも……いつかはウルにも真実を語る日が来るのだろうか?


 しかしそれは今ではない。そんな心の準備は全く出来ていない。……ただのチキンとも言う。とほほ……。

 内心汗を流しながら言い訳を考えて、そう言えば創造神がこう言ってたな、と思い出してそれに乗っかることにする。


「あー……わたしは神造人間ドールだって創造神様が言ってたよね?」

「え、何だそれ?」


 その場にレグルスが居なかったので初耳だと突っ込んで来るけど、それは後回しだ。


「創造神様曰く能力は肉体に宿るそうで、わたしの中身をこちらに移した際にリセットされたみたいなんだよね。アイテムの差ももちろんあるけれども」

「ふむ、そうなのか」


 嘘は言ってない、嘘は言ってない……!


 ……ん?

 自分でこう説明して、何かが引っ掛かった気がする。

 それは何か、とても重要なことのような気がしたのだけれども。


 ――グルルルルルルル


 唸り声が耳に届き、その疑問はわたしの頭から泡のように消え去るのだった。

活動報告にイラスト載せました。興味を持たれた方はどうぞご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドズレさん。 どうしてもアレが頭から離れない。 「戦いは数だよ、兄貴」 顔も傷だらけで筋骨隆々の、頼れるあのお方。 お陰でそれ以降の文章があまり頭に入ってこない(白目&ヨダレ)
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