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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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手掛かりの代わりに

 時間も時間なので後片付けは翌日回しにして(正直責任取って住人たちにやってもらいたいけど、多分わたしが片付けた方が早い)、聖水だけは撒いておきたいと馬を借りて(残すのも不安だったのでウルを後ろに乗せて、ついでにやることのなかったレグルスも一緒に)ぐるっと一周をする。バタバタ騒ぎで忘れかけていた帰還石も作成しておいた。

 戻ってきた時には村の広場に夕飯の席が整っていた。どうやら焼肉のようだけど……肉ばかりで野菜がないなぁ。そのままだと胃もたれしそうだったので自前の野菜を提供する。わたし以外食べる人居るのか知らんけど。

 ウルがプチトラウマなのか挙動不審になるので幹部級の人以外には遠慮してもらい、数人で焚火を囲みながらの会談となる。たまに覗きに来る人が居てティガーさんの投石の餌食になっていたりするけどそれは放っておく。

 エリスも居たけど借りて来た猫のように大人しいな。後から聞いた話によるとわたしに喧嘩を売ったことを怒られたらしい。……まぁ知らなかったんだし、そもそも村全体の気質っぽいので、二度も巻き込まれた身としてはそこから何とかしてほしい所存である。切実に。


「この度は村を守ってくれて感謝する。そしてうちの馬鹿どもが申し訳ないことをした。お詫びと言っては何だが、神子様の要望に総員で応えよう」

「いやまぁ、わたしはそれでいいんですけど……」


 あぐらをかきながらも頭を下げて来るティガーさんに頷きつつも、是と言い切れないのはウルの様子がまだダメそうだからである。

 わたしの陰に隠れるような位置に座り、わたしの腕を掴みながらぐるるると今にも唸り出しそうな雰囲気だ。モンスターの大群にも果敢に突っ込む子だと言うのに、何とも意外なところである。まぁ基本的にどこに行くにもわたしが対応してたし、対人スキルが高くないのかな。いやわたしも神子の地位のおかげで相手が遠慮してくれるだけで高いわけじゃないんだけども。


「ウルー?」


 呼んでみるけど変化はないままだ。聞こえてはいるのかその一瞬だけ尻尾が地面を叩くペチペチ音が止むけど、すぐに再開されてしまう。

 ……とりあえず今日のところは諦めて、いっぱいご飯食べてもらってゆっくり寝てもらうことにしよう。

 焼けた肉を目の前に差し出すと大人しく食べ始めたので、ポンポンと頭を撫でてからティガーさんたちとの会話に戻る。


「えぇと、わたしの要望は襲撃前に言った通り神様の情報が欲しいです。あとは出来ればでいいんですけど、家畜を雌雄一組ずつ欲しいですね」


 命令すれば差し出してくれるだろうけど、馬の捜索に村長の娘が出張るくらいなのだ。あまり生活に余裕がないようなら無理にとは言わない。


「馬は少々厳しいが、それ以外なら叶えられる」

「それでオッケーです。あ、他にも余裕のある素材とか提供してくれると嬉しいです。こちらは代わりに村のあちこちの修理を請け負いますよ」

「いや、修理までしてもらうのは……」


 迷惑料も兼ねてわたしの要望を聞くと言う話なのにわたしが動いてどうするのかと固辞しようとしてきたのだけども、こちらとしても住人の手助けはお勤めの一つなんですよねぇ。壊れたものを壊しっぱなしにするってのが落ち着かないと言うのもあるんだけどね!


「……感謝する」


 ティガーさんは再度頭を下げてから、神様についての話に戻す。


「俺たちは風の民ではあるが風神様が居なくなって久しいと言うこともあり、残念ながらそんなに多くの情報はない」


 その言葉を頭にポツポツと語り始めたのは、幹部の人たちの補足情報を含めても、わたしがゲームですでに知っていることが大半であった。


 風神は見目麗しい少年の姿をしており、その性格はまさに風のように自由奔放である。ぶっちゃけるとただのかるーい気まぐれ屋だ。

 好奇心が強くわりと頻繁に住人と交流しては、(風神基準で)面白いことをした人にはあっさり加護を与えたりしてくれたらしい。稀に怒りに触れて雷を落とされることもあったようだ。

 風神の加護を受けると風魔法(神子の場合は風系アイテムの作成)に補正が掛かり、体が少し身軽になる。この影響かバートル村に風魔法を使える人は多いとのこと。

 この加護で一番の目玉が移動手段のアイテム開発に繋がるってことなんだよね。ジェットブーツで早く移動できるし、スカイウイングと組み合わせれば空を飛ぶことも出来る。制限のないアステリアであればその気になれば飛行機も作れるんじゃ……いやさすがに無理かな。航空力学とかさっぱりだし。


 ……思考が逸れたね。

 風神はこの荒野……平原一帯を管理していた。風で種を運び雨雲を呼び、隅々まで命を芽吹かせていた。軽そうに見えても仕事はキッチリしていたようだ。まぁ神様だしね、当たり前か。

 けれどもいつしか居なくなり、創造神も非常に忙しくなってフォローが行き届かないこともあり、少しずつ地が荒れてきて現在の状態に至る、と。


「……しかし、良かった」

「え? 何がです?」


 話の最後にティガーさんはそう呟き、一体何が『良かった』のか聞き返してみると。


「神子様は『神様の封印を解く』と言っただろう? 封印されてしまったこと自体は痛ましいが……風神様が俺たちを見捨てて去ってしまった訳ではないのだな、と安心したのだ」

「……」


 ティガーさんだけじゃなく、幹部の人たちも目頭を押さえている。

 ……元々無宗教だったわたしにはあまり理解出来ない感覚ではあるけれども、心の拠り所が失われると言うのは大変なことなんだろうな。

 あ、いや、今のわたしだと創造神が居なくなってしまったら途方に暮れてしまうかもしれない。


「……創造神様、何も言ってませんでした?」

「? そもそも姿を見たと言う話すら聞かないな」


 ……創造神、フォローしてあげなかったのかな。それともそれすら出来ない状況だったのか、ただ単に失伝したのか……。

 ともかく、風神の行方に関しては彼ら自身も是非とも知りたいくらいであるそうだ。むーん、ちょっと期待してたけど、すぐには手掛かりは見つからないかぁ。

 しばらくはしみじみとした空気の中、静かに夕飯を食べる音と薪が弾ける音だけが聴こえた。

 この時わずかにだけど風が吹いたのはただの偶然だろうけど、風神が気を利かせたのかな、なんて。


「あ、そうだ。モンスターの襲撃の件なんですけど」

「何だ?」

「襲ってくる方向は大体同じって聞きましたけど、その先に何があるんです?」

「……それか」


 獣顔だからわかりにくいはずなのに、明らかにしかめっ面とわかる顔をするティガーさん。そんなに難儀な事態なんだろうか。


「俺たちとてただ手をこまねいていたわけではない。元凶を断ち切ろうとモンスター共の本拠地を叩きに行ったことがあるのだが……」


 そう言ったところで、ウルとは反対隣に居たレグルスがピクリと反応をした。

 ……状況的にグロッソ村とちょっとかぶるからね。気にはなるんだろうね。


「結論から言えば……まぁ現状から察せられるだろうが、無理だった」

「えっと……敵が強くて?」

「いや……そもそも辿り着けなかった」


 遠かった、もしくは物理的に辿り着けなかったってことかな?と思ったのだけど、そうではないらしい。

 距離的には馬で大体二日くらい。この世界の距離感で考えると十分に近い位置だ。

 では何が理由で辿り着けなかったのかと言うと。


「まず、周辺に瘴気が漂っていた」


 ……うえぇ……それは辛い。わたしでも行きたくない。いや多分この後そこに行く羽目になるんだろうけどもさ。

 更に続けられた言葉で今度は、何を話していても黙々と肉を食べているだけだったウルが反応することになる。


「そして……瘴気の奥から、ドラゴンの咆哮が響き渡って来た。……さすがに瘴気に加えてドラゴンの相手をするのは無理だ」


 ピリっと、隣の空気が爆ぜたような気がした。

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