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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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脳筋たちによる唐突な争奪戦

 エリスの顔を覗き込んで見れば……頬は紅潮させて、目元は潤んでいて……いやあの、ちょっと、レグルスを婿に欲しいと言ってた時よりよっぽど恋するオトメちっくな状態になってるんですけど? どゆことですか?

 レグルスもウルの強さに惚れ込んで『姐さん』呼びになったのだけども、強い=モテが極まった図式になっていたりするの? この村。

 ……まさか、と背筋に走る嫌な予感に息を呑みながらゆっくりと周囲を見回して見ると。


「めちゃくちゃ強ぇなぁあのムスメっこ……うちのせがれのヨメになってくれんかな」

「いや待て! あのヘタレに渡すくらいならオレの嫁になるべきだろう!」

「あぁん? どっちも勿体ねぇよ! ここは俺が――」


 などと男性陣――少数ながら女性も混じっていたりする――の間で喧騒が広がり、襲撃は終わったはずなのに別の争いが生まれようとしていた。

 ……恐れられて排斥されるよりはマシなのかもしれないけれど、これはこれでどうなのさ……!


「リオン、終わったぞ」

「待ってウル! 今こっちに来ちゃダメ!」


 そう叫びながら、近付いてくるウルをわたしの背に隠すように体を滑り込ませた途端、怒涛の攻勢が始まった。


「お嬢さん、俺と結婚してくれ!」

「いやこんなオッサンより是非僕と!」

「あ、アタシだって……っ!」


「は? え? な、何が……」


 ウルは唐突に襲い来る人波にビックリ――を通り越して恐怖を感じかけているようだ。……一部の人、かなり必死ですごい形相をしてるからね……対象になってないわたしですら見てて怖い。

 かと言って敵意があるわけじゃないのでモンスター相手のようにぶっ飛ばすことも出来ず、引きつった顔をして固まっているようだ。

 しかし住人たちはそんなウルの様子に気付く素振りも見せず、防波堤として間に立つわたしを押しのける勢いで攻め立てていた。


 ホントもう こ い つ ら !


 エリスの時もそうだったけど、何でこうも相手のことを考えずに突っ走るのさ! ある意味アルネス村よりひどいよ!

 いい加減にしないとわたしだってプッツンするよ!?


「ウル! わたしを連れて後ろに跳んで!」

「……っ、わ、わかった!」


 一瞬反応が遅れたけれども、ウルは素直に(本人としても離れたかったのだろう)わたしの腰に手を回してそのまま大きく後ろへと跳躍した。


「逃げた!?」

「ま、待ってくれ!」


「追い付かせるか、っての!!」


 すかさず住人たちが隙間を詰めようとしてくるけれども、わたしはその間に対モンスター用の柵を取り出して設置した。

 突然現れた壁に、先頭に居た住人はなすすべもなくぶつかることになる。


「ぐわっ!?」

「いてっ、なんだこれ!?」


 しかしそれくらいではめげないようで、柵を乗り越えようとする人で一杯であった。

 わたしはそれを止めるためにも大喝した。威圧して止める意図もあったけど、こんなに大きな声を出したのは初めてかもしれない。


「一度ならず二度までもそちらの都合を押し付けて! おまえたちは、そんなにわたしを敵に回したいのか!!」


 響き渡る怒声に辺りがわずかに静寂に包まれる。

 ……けれども、それも束の間。


「「「つまりアンタを倒せば認めてくれるんだな!」」」


 ああああああそうだった、エリスからしてこうなることも予想しておくべきだった……!

 欲しいモノは力で得て! 障害があればそれも力で撥ね退ける! 脳 筋 集 団 !

 と言うかそれ以前にわたしが神子ってことまだ知らないですよね! ただの人間ヒューマンを敵に回すかもと思ったところで怖くないですよねぇ!


 なお、顔を青くして止まったのはエリスくらいだ。……まぁ一度目はきみですからね。

 ティガーさんも焦って諫める方に回っているようであるが、それ以上に熱狂しすぎていて焼け石に水な状態である。

 ほんともうコンチクショウだよ!


「「「行くぞおおおおおおっ!!!」」」


 柵を乗り越え、はたまた壊し、住人たちは気力を漲らせて押し寄せてきた。


「あぁもう!」


 わたしは射程範囲ギリギリの遠い位置にシャベルで穴を開ける。何人かはズポっと落ちていったが、さすがは獣人ビーストと言うべきか、ほとんどの人はすぐ様対応して跳び越えてきた。

 ではこれならどうだ、と石ブロックを壁として設置する。簡単に乗り越えられないように縦に五個ずつ積んで、だ。

 時間を稼いで防御態勢を整えて……と思っていたけれども。

 

「しゃらくさいわ!」


 なんと真正面から石を砕いて突入してきた人が居た。中にはこれも跳び越える人も居るかもしれないとは思っていたけれども、まさかの正面突破!


「うっそーん!?」


 驚きはしても手を止めている場合ではない。咄嗟に水を大量に出して穴から押し流すことに何とか成功する。

 しかしなんたるハンデ戦。モンスター相手のように殺してもいいならいくらでも攻撃アイテムやら魔法の矢やらをばらまくのだけれども、さすがにそれは不味い。

 もっと雷使う練習しておけばよかったかな……広範囲非殺傷の痺れデバフとか出来れば絶好の使いどころだったのに……!

 とにかく相手の足を止めるように――とまで考えたところで、あることが閃いた。

 みんなバーサークしてるので効果があるか怪しいけど、やるだけやってみよう!


「ウル、もっかい後ろに跳んで!」

「……あ、わ、わかった」


 宙を跳んでいる間に障害物となるように石やら砂やら木やらとにかく危険ではないアイテムをばら撒いて、少しでも時間を稼げるようにしつつ、着地した先でわたしとウルを取り囲むように石ブロックを積んでいった。ただし今回は単なる壁として利用するわけでではない。


作成メイキング――っ」


 周囲の石ブロックが光を帯びてうねうねと形を変えていく。

 やっておいてなんだけど、いっぺんに複数作成出来るんだね、今初めて知ったよ! MPの減りがごっつ激しいけど!

 しかしながら時間までは短縮されないどころかむしろ当たり前の如く長くなっているようで。


「くそっ! 足場が!」

「これくらいどうってことないぜ!」


 光の向こう側から段々近付いてくる声に内心焦燥感に駆られながらも、わたしは一心にMPを篭めていった。


「よし! もらった!」

「り、リオン……っ」


 そしてとうとう障害物エリアを踏破した人が現れ、その手に持った武器を振り上げて迫ろうとしたところで。

 一発逆転を狙うアイテムが、完成した。


「【風神の石像】!!」


「ぐあっ!?」

「「「!!?」」」


 デン! と崇拝対象である石像がいくつも現れたことに、さしもの住人たちも面食らい動きが止まったようだ。いや先頭の人はモロに突っ込んでたけど。驚愕の声がそこかしこから聞こえてくる。

 わたしは石ブロックを足元に設置し皆から見えやすい高い位置に移動して、仁王立ちしつつ煽るように大声を出す。……いやうん、煽らなくても良かったよね。この時はわたしもテンションがおかしかったんだよ。


「さぁ! おまえたちは風神様に手を出せるのか!?」


「風神様……っ!?」

「ってかナンだアレ! どっから出てきたんだ!?」

「……え? 今の、まさか……?」


 ここに来てわたしが誰であるのか気付き始めたらしい。

 ようやく皆が聞く姿勢を持ったところでティガーさんからわたしが神子であることの通達がされ、ついでに「これ以上暴れて迷惑を掛けるようなら俺が手を下すぞ!」と脅しまで入れてもらって。

 もうちょっと早く何とかしてほしかったと言うのは贅沢なんですかねぇ。そんな感想を抱きながらも、作戦が無事嵌ったようでほぅっと安堵の溜息を吐く。


 こうして、わたしからすれば「馬鹿じゃないの?」としか言いようのない狂騒は次第に収まっていった。



「……神様を盾にする神子って、リオンくらいじゃねぇかなぁ……」


 その一方、騒動に取り残されて終始呆気に取られていたレグルスがこう呟いていたとかなんとか。

卑怯? 今更ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] >卑怯? 今更ですね。 と言うよりは、そもそもの戦闘スタイルの違い。 真正面からドカーンとぶつかってたら、体がもちません。 マインク○フトとかの類いなら、戦闘は陣地構築してナンボ。 自動迎…
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