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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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風神を崇める村

 辺り一面荒野だと言うのに、その村――バートル村の周辺は草原と言ってもよいくらいに緑が広がっていた。

 牧畜が盛んなのか、広大な放牧地があり様々な動物が草を食んでいるのが目に映る。馬だけではない、牛に羊に山羊に……いくらか譲ってもらえたりしないかな。冬の前に羊の毛は入手しておきたいんだよね。

 住居は見た目はゲルみたいだけれども、季節によって移動したりしているのかな?

 そこかしこで住人が動いており、動物の世話をしたり、馬に乗って訓練を行ったりしている。ざっと百五十人くらいは居るだろう。


「いや、外で狩りをしている者たちもいるので、二百人弱になる」


 ふんふんと頷きつつ、わたしはもう一つ気になったところを聞いてみた。


「何でこの近辺だけ青いの?」

「それはうちの司祭が頑張ってくれているからだろうな。残念ながらモンスターを完全に退けるまでは行かないようだが……」


 なるほど、遠目に小さくだけど創造神の像が見える。

 後、隣にもう一つ建っている。あれは――


「あぁ、風神様の像だな」


 ……ここに風神の手掛かりがあったりするのだろうか。

 わたしはごくりと息を呑み、エリスの先導により村へと足を踏み入れた。



「姫様、お帰りー」

「馬見つかったんだな、良かった!」

「あれ? 客人? 珍しいね」


 村の大通りらしき道を歩いているとエリスが方々から声を掛けられ、逐一返事をしている。わたしからすれば強引な性格だけどそれがこの村の気質なのかな、結構慕われているようだし、仲は良好なようだね。

 キョロキョロと物珍しく辺りを見回していると初めて見る建築様式や衣装、道具などが見つかり、色々と作成意欲が駆られてくるけれどもさすがに今は我慢である。

 しかし……そこかしこがボロボロで、穴が空きっぱなしの場所もあるな。材料が足りてないのか、直す暇もない程度にはモンスターに襲撃されているのか……そもそも村内が壊れているのは侵入を許されているということなので、思った以上に危険な状態なのかもしれない。


「壊れているところが多いようだけれども……良ければ直そうか?」

「ん? 直せるならありがたいけど……まぁそれも後で話そう」


 いきなりそんなこと言われても返答に困るか。

 ひとまずエリスの家で話をしようと言うことになったので、そこで諸々含めて交渉してみよう。


 そうして辿り着いたのは村の中央、一番大きいと思われるゲル……の隣の、一回り小さい家だった。大きいのは村長であるエリスの父親のもので、隣のやつがエリス用らしい。村長に挨拶をするべきかと思ったけれども、まだ狩りで外に出ていて帰って来ていないそうだ。

 家の中は中央に小さな机と椅子、周辺にいくつかのチェストと武器置き場、奥に小さな仕切りとしてカーテン(その更に奥にベッドがあるとのこと)が引いてあるだけで、外見から想像した通りのシンプルさであった。板張りの床に絨毯が敷いてあるのがちょっとした贅沢の一つだろうか。


「悪い、椅子が足りないな」

「あ、じゃあ出すよ」

「えっ……?」


 などと言う一幕があったりしたけど、もちろん驚いているのはエリスだけでウルもレグルスも当たり前のようにスルーしている。

 次々と取り出される椅子とついでにお茶に置いてけぼりをくらっていたが、わたしに勧められたお茶を無意識に飲んだところで我を取り戻したのか、コホンと一つ咳払いをしてからエリスは話を切り出した。


「えぇと……順番に行こうか。まずは馬を保護してくれた謝礼だな。食べ物かこの村で生産している衣服か装飾品か……何が欲しい?」

「どちらかと言えば、それらの作り方を教えてほしいかなぁ」

「……珍しいことを言うものだな」


 エリスにはきょとんとした顔をされたけど、後で羊皮紙にまとめて渡してくれるそうだ。ちょっとした手間だけで済むのだから楽と言えば楽なのかもね。わたしからすればかなりの価値があるものなのだけれども。

 それでこの話はあっさりと終わり、わたしからエリスへ勝者の権利としての『お願い』の話へと移る。


「わたしが欲しいのは神様についての情報だね。この村、風神様の像を祀っていたよね?」

「風神様の……?」


 アイテムレシピ以上に意外な言葉だったのか、エリスの眉根が寄せられる。

 しかしその回答はエリスの口から得ることは出来なかった。

 何故なら。


「客人よ、そのようなことを聞いて何をする気なのだ」


 入り口から、大柄な男性が入ってきたからだ。


「父上、お戻りになりましたか」

「うむ」


 男性、エリスの父親は娘とは似ても似つかなかった。唯一似てるのは獣耳くらいだろうか。と言うのも、男性は人型ではあるものの獣に近い、まさに二足歩行の虎のような姿をしていたからだ。太い手足もだけど、鋭い爪と牙がちょっと怖い。

 その上機嫌が悪いのか警戒をしているのか鋭い視線を投げてきて、どことなく威嚇されているように感じ、肉食獣に狙われる草食獣の気分になってきた。

 まぁわたしにはウルさんが居るので、不意に襲い掛かられても怪我することなんてない自信がある。なのでわたしは恐れず、背筋を伸ばしたまま彼へと向き直った。それが気になったのか、男性がピクリと目元を動かしているのが見えた。


「わたしは風神様……いえ、風神様に限らないのですが、神様の行方を捜しているからです」

「……何故なにゆえだ」


 グルルルと喉の奥で唸っているような音が聞こえてくるが、次の一言でそれがピタリと止まった。


「神様の封印を解くためです。わたしは創造神様の神子ですから」

「――!?」

「は、神子……!?」


 エリスも一緒になって驚き、ガタっと椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。おっと、また言ってないパターンだったか。

 わたしは証拠とでも言うように、小さな石ブロックを取り出して。


「……作成メイキング、【風神の石像】」


 創造神の石像を作る時と同じように石が光に包まれながら形を変化させ、光が収まったそこには、小さな風神の石像が出来上がっていた。

 なお、風神はローティーンでさらさら髪の美少年の外見をしている。女性プレイヤーに人気でした。

 村に建てられていた風神の像に比べて遥かに小さいけれど造形は同じであるし、そもそも『石が形を変える』と言う神子特有の能力を目の当たりにしては疑いようもなかったのだろう、男性は跪きこそはしなかったものの胸に手を当てて敬礼のような仕草をしてきた。エリスも慌てて同じポーズを取る。若干青ざめて見えるのはわたしにした所業を思い返しているからだろうか。


「確かに、あなたは神子様のようだ。ようこそ、バートル村へ。――風の民の地へ」


 うん? 風の民と言うのは初めて聞いたなぁ。


「昔の話だが……風神様がまだいらっしゃった時に加護を授かっていた民……の子孫だ。残念ながら俺たちに直接の加護はない」

「なるほど。風神様が居なくなったのは何時頃かわかります?」

「少なくとも二百年は前と聞いている」


 聞いておいてなんだけど、長いのか短いのか基準がよくわからないな。

 でも二百年以上となると、エルフならともかく獣人ビーストの寿命(一部の種族を除いて平均で七十、長くて百二十だそうだ)からすると直接知っている人は居なさそうだ。


「で、他には――」


 と続きを聞こうとしたのだけれども、苦笑と共に止められた。


「もう少しで夕方になる。ここでは狭いから外に場を用意するので、そこで夕飯でも食べながら話そう」


 ふむん。どうせちょっと遅くなったところで情報が逃げることはないだろう。

 空腹を感じてきたのもあってその提案に乗ることにした、のだけれども、残念ながら夕食にありつけるのはかなり後のことになる。



 夕日を背に、モンスターたちが攻めてくることによって。

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