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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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知らなかった感情

 わたしがまだ本調子じゃないと言うことでひとまずその場は解散となった。もうかなり元気ではあるんだけど……包帯まみれのままだと気も遣われてしまうか。でも多分明日には治っているだろう。大火傷が数日で治るだなんてアイテム様様だね。

 レグルスとリーゼはライザさんへの報告、フリッカはフィンの様子見、とそれぞれの理由でグロッソ村へと移動することに。数日は拠点に居る予定だから後で迎えに行くと約束して見送った。

 そして残ったわたしは……ウルとの話し合いをしておかないと。皆が移動したのも気を利かせてくれたのかもしれない。


 先程と同じくわたしの部屋のベッドで、わたしに抱えられた状態でウルはお人形さんのように大人しくしている。

 話してくれるのを気長に待とうとしたけど、何時まで経っても黙った状態だったのでわたしの方から切り出すことにした。


「ウル、わたしに何か言いたいことはある?」

「……ない」


 つまりわたしへの文句等が溜まっているわけではない、と。

 まぁウルの場合は……ずっと自分を責めているんだろうなぁ。


「さっきも言ったけど、わたしの怪我はウルの責任じゃないよ」

「……」

「それとも、自分が帰還石を作れないことが問題?」


 ピクリと反応があった。……やっぱそこもかぁ。

 さっきレグルスが「リオンが怪我した時に連れて帰れるヤツが必要だろ?」と言った時もわずかに反応していたんだよねぇ。


「例えばだけど、ちょっと強いモンスターが出て来たとして、ウルならすぐに倒せるのだけれども、わたしが倒せなかったらウルは怒る?」

「……怒るわけがない」

「それと同じだよ。きみが出来ないことを、わたしが怒ると思った?」


 首を横に振るが、手をゆっくりと握ったり開いたりしている。感情の行き場がないのだろうか。

 その手を、そっとわたしの手で包む。


「わたしは、きみが努力してることをちゃんと知ってるよ。だから、あまり自分を責めないで」


 何だかんだでウルは拠点に居る間は一日一回はモノ作りに挑戦していたりする。毎度出来なくて、毎度悔しそうにしているのをわたしは何度も目撃している。

 それでも腐って投げ出したりせずに、ずっと今の今まで続けているのだ。ここまで来るとモノ作りが出来ないのは不器用さ以前の問題があるのかもしれず、努力だのやる気だのが足りないのだと口が裂けても言えやしない。

 これで何もせずに「出来ないわーアハハー」とかヘラヘラしてるような相手であれば、わたしはフォローをしようなんて思わなかっただろう。まぁそれ以上に戦闘で頼りになっているのだから、適材適所と言うことでやっぱり責めることはないだろう。


 しかし……それでもウルは、納得をしてくれない。


「それでは……意味がないのだ……っ」


 気付いているのかいないのか、ウルがわたしの手を握り返す力は、とても強くて。

 痛い。実に痛い。悲鳴を上げそうになったけれども、ここでそんな声を出したらウルがまた口を閉ざしてしまいそうで必死にこらえる。


「努力をしたところで、肝心な時に何も出来ないようでは、意味がないのだ……!」


 怨嗟のように吐き出されたソレは、まさに自分自身を呪うかの如く纏わりついて。

 ウルはわたしの手を離し、のろのろと体の向きを変えてわたしに馬乗りするような姿勢になる。

 その視線には……怒り、苦悩、悲哀……様々な感情が渦巻いていた。


「今回はレグルスが意識を取り戻してくれたので帰って来ることが出来たが、最悪リオンは死んでいたのだぞ!?」


 本人にその気はないのだろうけれども、襟に手を掛け力を篭めてくるので、まるで首が絞められているみたいだった。

 けれども、肉体的な息苦しさよりも。


「我は、我は怖かったのだ! リオンが、もう二度と目を覚まさないのかと、怖かったのだ!!」


 ただウルが泣いているということに、息が詰まるかと思った。

 わたしのせい……と言うには少しばかり不可抗力を唱えたいところだけど、わたしが傷付いたことで、泣かせてしまった。

 目を真っ赤にしてボロボロと涙を流し。わたしに向けて、ではなく自分の不甲斐なさに怒りを燃やして。無力感に苛まされ。


「思い出すだけでも身が凍りそうになる。涙が溢れてくる。頭がぐらぐらする……我は、こんな思いはたくさんだ!!」


 その身を切るような叫びで締めくくられ力なくへたり込む。

 そこまで言われてやっとわたしは気付けた。


 わたしは……わたしが思っていた以上に、ウルに必要とされていたのだと。


「……ごめんね、怖い思いをさせて」


 慰めるのも烏滸がましいのかもしれないけれども、泣いているのを放置するのはもっと違う気がして。

 抱き寄せて背中をぽんぽんと叩いていたら、幸いにもウルは逃げようとせずに。


「ううううう……っ!」


 わたしの肩に額を当てて、大きな声で泣き始めるのだった。



「……ひっく……だと言うのに、本人はケロリとしてるし、あげくに力が得られたかもと喜びおってからに……っ!」

「あはは……それもごめんね」


 数分後、涙やら鼻水やら溢れさせてはいるが泣く前よりは遥かにスッキリしたような顔で、死にかけたことにあっさりしているわたしに文句を垂れてくる。わたしは布で顔を拭いてやりながらも苦笑するしかなかった。

 いやもう、うん、実感が湧かないものはどうしようもないし、かと言って今更怖がるのもなぁ……。

 ウルはそんなわたしの反応に諦めたのか、大きな溜息を吐いてから疲れたのかわたしにもたれかかってくる。ごめんて。

 直後、肩に小さな痛みが走った。原因は――


「いっ……!? ちょ、待って、何で噛んだの!?」

「……少しぐらい我の痛みを知るが良い、と思ったらつい」

「理不尽!」


 怪我させたいの!? させたくないの!?

 そのままぐりぐりと顔を押し付けてくるものだから、憤慨のポーズをしながらもされるがままになっていたら更に。


「……薬の匂いがしてリオンの匂いがわからぬ」

「フリッカと同じことを……!」


 二人して何なのさ! わたしの匂いとか恥ずかしいこと言うのやめてくれる!?


 などとぐだぐだ話を挟んでウルが落ち着いたのを見計らってから。

 わたしは、ウルの心が少しでも軽くなるように願い、何度目かの言葉を口にする。


「ともかく、今回の件はウルが責任を感じる必要はないんだよ」

「ぬぅ……」


 ウルも頭ではわかっているのだろう。心が追い付いてないのだ。

 目を伏せ、考えを巡らせているのかしばしの沈黙を挟む。

 やがて顔を上げるが……未だ瞳は不安に満ちていた。


「……我は、もう二度と同じ気持ちを味わいたくない。だから、出来るようにならねば……」

「わたしだってそう何度も死にかけたくないなぁ」


 素で呟いたのに「茶化すな」と睨まれてしまった。

 ぐぬぬ、普段の行いのせいか……。

 ふぅ、と一つ息を吐いて気を取り直して。


「そりゃ出来ないよりは出来る方が良いだろうね。でも、あれもこれも出来るようにならなければならない、って雁字搦めに義務を課すのは重すぎて生き辛いよ」


 と言うか、『出来ない』ことを言いだしたらわたしだって出来ないことだらけだ。多くは素材の問題だけれども、わたしのスキルレベルが足りないと言う点も大きい。

 わたしの場合は神子なので尚更責任が大きくなってくるのではなかろうか?

 グロッソ村やアルネス村の時みたいに、わたしが『もっと早く』行動出来ていれば救えたかもしれない命だってある。『もっと良いアイテムが作れていれば』今回だって死にかけにならなかったかもしれないし、『もっとすごい神子だったら』ウルが帰還石を作る補助が出来たかもしれない。

 これら全ての後悔を背負えと言われたら、わたしは間違いなく潰れる自信がある。

 だから自分勝手と言われようがどう思われようが、出来るだけ考えないことにした。……フリッカに怒られたのもあるけど。

 わたしにはわたしの、ウルにはウルの考え方がある。『この方が良い』と押し付けたくはないけれど……ウルに潰れられるのは、困る。


「そもそも、創造神様ですら全部のことが一人で出来ないから神子わたしの手を借りていると言うのに、ウルは全部完璧にこなせるようにならないと不満なの?」

「うぬ……それを言われると……」


 そう、神様ですら無理なのだ。神様以下であるわたしたちであれば尚更だ。

 だから。


「わたしが出来ないことをきみがやる。きみが出来ないことをわたしがやる。わたしにもきみにも出来ないことは、フリッカが、レグルスが、リーゼが助けてくれる。皆出来なかったら皆で悩めばいい。そうやって足りない部分を補いあっていければ、って思うよ」

「――」


 ウルは戸惑ったように何度か目を瞬く。……記憶を失う前は、助けられることに慣れていなかったりしたのだろうか?


「ウル。きみがわたしを助けてくれているおかげで、わたしはこうして生きているんだよ」


 手を取って握る。生きている証を示すために。

 この手は、温かいのだと、血が流れているのだと。


「きみがわたしを助けてくれるように、わたしが、皆がきみを助けるよ。きみは独りじゃない。きみが全てを背負う必要はない。もっと、皆を、わたしを頼ってほしい」


 ね? と笑いかけると。


 ウルは小さく頷いてくれるのだった。




xxxxx




 皮肉なものである。


 壊すしか能のない我が『失うのが怖い』などと。


 我の破壊を疎ましく思うどころか、助けてくれる者が居るなどと。


 ついつい笑ってしまいそうになるが……そう言うのは、悪くない。

 むしろ、心地良い。


 そのようなものがこの我にもあるのだな、と、今更ながらに知った。

 リオンに以前よりずっと教えられていたはずなのに。本当に今更だ。


 ――わたしを頼ってほしい。


 ふにゃりと笑ったリオンの顔が、いつもとわずかにだけど違って見えて。

 握っている手から、頭を撫でてくる手から、いつにも増して温かい熱を感じて。




 柔らかな光を浴びて、心の奥底に根付いた……きっともっと前から芽生えていたソレ・・に我が気付くのは、まだ先の話である。

難産でした…_(´ཀ`」 ∠)_

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― 新着の感想 ―
[一言] >わたしに抱えられた状態でウルはお人形さんのように大人しくしている そんな体勢からの >のろのろと体の向きを変えてわたしに馬乗りするような姿勢になる。 対面で座ってーの >直後、肩に小さ…
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